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73話「ええっ!? ドラゴン娘を育てる!?」

 人類領で養いきれないドラゴン娘ハーズを、サイツオイ竜王国まで連行して保護する事になった。

 里親となるつもりだった教会の龍人神官も引き取れないと言い出した。

 なぜならアッセーが上手く宥めてた為に、ハーズが懐いてしまったからだ。


「なんでこんな事に……」


 ハーズは預かられまいと、アッセーの裾を握って離さない。

 アルローの嫌な予感が当たったみてぇだな。

 それに、衝撃的な事実を聞かされては、もうドラゴン娘をムリヤリ引き剥がせない。


「暴走を繰り返すと理性が消失していって、凶暴なだけの野生ドラゴンになるだなんて聞いてないぞ」

「というわけで、むしろ懐かせたまま育てた方が安全です」


 もしムリヤリ預けてしまえば、恐らく情緒不安定になって暴走の発作が多くなって、やがて外にいる凶暴なドラゴンの仲間入りしてしまう。

 龍人神官はそういうのを多く見てきたらしいので、そう明言されると育児を引き受けるしかない。

 アッセーは深いため息をつく。


「大体、転生前で結婚したといっても育児はまだ経験してないぞ……」

「でしたら、しばらくここに滞在して構いません。育児のやり方を教えて差し上げましょう」


 アッセーはガクッと項垂れた。




 とりあえず空いている部屋を借りて、しばらく住む事になった。

 こんなクソ寒い王国で暮らすとか勘弁だ。

 ハーズは一緒にいられると分かると、柔らかい表情をしている。


「だから言ったのです!」


 アルローはプンスコしてる。返す言葉もねぇ。

 今日のところは晩飯を食ってゆっくり夜を明かした。



 その翌日、個人教室で龍人神官と一緒にハーズは勉強する事になった。

 ちなみにアッセーも同席している。


「私は龍人神官トウビ。そして先生でもあります。さて勉強を始めましょうか」


 ハーズは落ち着きがなく、ソワソワしててアッセーの手をギュッと握っている。


「オレも一緒にいるから」

「うん」


 落ち着いたのかソワソワが収まった。


「さて、初めに龍人とドラゴンは全くの別種です」

「おいおい。いきなり生物学はレベル高いんじゃねぇ?」

「大丈夫です。魔獣の種(ビースト・シード)を摂取した生物はドラゴン生来の高い知性を得てますので、普通のヒト種より成長が早いですよ」


 とはいえ、オレも気になっていた。

 一見すれば龍人とドラゴンは同じ種類のようにも見える。しかし別種だと言ってきた。


「エルフ、ドワーフ、ホビットは一種の妖精とされていますが、完全な妖精ではありません。それと同じように龍人もまた一種のドラゴンですが、完全なドラゴンではないのです」


 基本的な生物学で、自分がどういう生物かを知ってもらう趣旨らしい。

 ハーズは元々ヒト種ではあるが、上位生命体が残した『魔獣の種(ビースト・シード)』を摂取して生物としても特殊な進化が進んでしまっていた。


「ハーズちゃんは、もはやドラゴン種なのです」

「わたしドラゴン……」

「はい。中位生命体である我々龍人よりも格上のドラゴンです」


 下位生命体はヒト、獣人、ゴブリン、オーガといった種類で、数が多く地上を席巻している。

 更に言えば一般的な動物やモンスターとも同類になっている。

 中でも大陸に多く分布する人類は高い知性を得た生物で、地上の支配者と認識しているらしい。文明を築き、いたるところで生活圏の基盤となる町や国を作り上げて多様な社会を営む。

 それでさえ、龍人やエルフにとってはゴブリンやオーガと大差ないという。

 際限なく繁殖し、欲望のままに争ったり食い潰したりする生態だからか……?


「龍人はエルフと同格の中位生命体に位置しますが、ドラゴンに変身できません。高い知性と身体能力を生まれながらに持ち、ドラゴンのようにブレス系を撃てますがね」

「そういえばゲキリンさんは変身しなかったしなぁ」

「その代わり、龍人はヒト種のように繁殖できます。性欲旺盛ではないにしろ、子どもを産んで育んで次世代へ繋いでいけます」


 そういやエルフも性欲旺盛ではないにしろ、普通に繁殖して国を築いていたなぁ。

 アルローはともかく、アルテミユとアルディト姉妹はエッチしてもいいよってアピールしてたっけ。

 その気になれば、子どもを産めるのだろう。


「ただし、アッセーさまとハーズちゃんは違います」

「違う……。でもアッセーと同じ……」

「アッセーさまはドラゴンではなく、妖精王ですがね。『妖精の種(フェアリー・シード)』を摂取して生まれる上位生命体です」

「妖精王……」


 アッセーは静かに変身した。足元に花畑が咲き乱れ、背中から羽が二枚浮き出し、黒髪が銀髪ロングに変化した。

 ハーズは初めて見るようで目をキラキラさせた。

 龍人神官トウビもあんぐりしていた。


「ふむぅ……、それが妖精王か……。いやはや長く生きてみるもんだね」

「この世界には他にいねぇんかな?」

「少なくともアッセーさまが初めてですね。なにしろドラゴンと違ってかなーりレアなので」

「そうなんか??」

「はい」


 話を聞くに、割と『魔獣の種(ビースト・シード)』でドラゴンはたくさん生まれるそうだ。

 オオガやチササの例もあるようにドラゴン以外の魔獣種も多く生まれてくるが、ドラゴンも高い頻度で生まれやすいそうだ。


「まず『妖精の種(フェアリー・シード)』は妖精、精霊、天使が多く生まれ、次に精霊王。そして超レアな妖精王を生みます。それ以外の繁殖は存在しません」

「びーすとしーどとおなじ?」

「はい。正解です。同じですね。えらいえらい」


 無表情ながらもハーズがほっこりしてるのが窺える。


「妖精王も暴走の発作がある?」

「恐らくないでしょう。穏やかな種族の最高峰なので、普通に成長していきます。ただ超レアなので滅多に生まれません」

「アッセーはなかなかうまれてこない妖精王」

「その通りです。ハーズちゃん正解です」


 ハーズは嬉しそうに微かに口元がつり上がってるのが分かる。

 初めて笑ったのだ。

 アッセーはよしよしとハーズの頭を撫でる。


「んー」


 ……とはいえ、転生前の異世界ではヤマミを筆頭に妖精王割と多かったような? まぁいいか。

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