70話「次は雪原地帯へ冒険!?」
複製アッセーズと魔嫁ズの結婚式バーゲンセールから一ヶ月後……。
アッセーはローラル、アルロー、ユミ、マトキと一緒に魔族領の交易路を商団馬車に乗って通っていた。
ちなみにそれ以外はローブで身を包んだ子ども。
「うーん。今は落ち着いているが……」
ローブの子どもをアッセーは心配そうに眺めていた。
「多重結婚式の時に、アルテミユ姉とアルディト姉に過酷な条件をつけやがったのです」
「しょうがねぇだろ。ああ言わないと、婚約してくるし一緒についてくんぞ」
「武力一〇万以上に上げないと婚約しないって、ムチャを言いやがったのです!」
「いい名案ですね」
アルローはぶすくれるが、ユミはひと安心している。
恐らくアルロー的に妖精王アッセーが姉妹たちと重婚して、オダヤッカ王国の王様を継承して欲しいのだろうが、そうはいかねぇ。
「魔鏡も家族のところに置いてよろしいのですか?」
「制約で複製できねーし、喋れるだけの鏡だしな。洞窟でぼっちになるよか、オレの両親と仲良くやるほうが有意義だろ」
「それもそうですわね」
ローラルはなびく髪を手で押さえている。
魔鏡は複製アッセーズの生みの親なわけだし、家族で預かるほうがいい。
両親だって話し相手が増えて喜んでいただろうし。
「あ、白いの見えてきた!?」
馬車でガタンゴトン揺られながら森林を抜けると、雪原が広がるようになった。
中央の塔山まで段差的に雪原が広がっていて、針葉樹が疎らと自生している。そんな壮大な景色にローラル、アルロー、ユミ、マトキは感嘆した。
「初めて見た……」
「あの光珠は楕円形に周回してるっぽい。なので、この地域は光珠が遠くなっているから冷えているんだそうだ」
「本で読んだのですか?」
「ああ。小さい頃から本の虫になってたおかげで、色々知っている。こうしてこの目で見るのは初めてだが」
相変わらずユミはべったりアッセーの腕に組み付いてスリスリが絶えない。
「寒いのですー!」
ドサクサ紛れにアルローも反対側から組み付いてくる。
もう欲求を隠そうともしない。
……とはいえ魔族領は確かに冷えた地域が割と多い。そして、この場所は……。
「グオオオオオオッ!!!」
なんとワイバーンが七匹空から強襲してくる。
魔族の商人馬車は加速する。しかし追いついてくるのも時間の問題だ。
他の雇われた冒険者が弓などで応戦している。
「この辺はドラゴン族が生息する。あのような凶暴なやつが襲撃してきやすい」
「きますわよ! 令嬢扇殺法・火炎旋舞ーっ!!」
ローラルは扇を振るって火炎の渦でワイバーン数匹を巻き込む。
しかし生き残った二匹が火炎から抜け出す。
「グワアアッ!!」
「なっ!?」
驚くローラルだが、見えない結界にワイバーンが触れてバチッと稲光が迸った。さすがにワイバーンも怯む。
なんとマトキが祈る仕草で結界を張っていたのだ。
「さっすが聖女バリアー」
アッセーは光のナイフに光魔法を付加させて、遠距離スラッシュで二匹まとめて裂いた。
新手のワイバーンが噛み付かんと襲いかかるところを、アルローが「水珠爆なのです!」と、無数の水玉を放って撃ち抜いた。
「さすがエルフ。高い魔力は伊達じゃねぇな」
「えへん、なのです」
とはいえ、ワイバーンでさえ武力一〇〇〇〇もする。
強靭な爪と牙、そして火炎ブレス。しかも硬いウロコで生半可な武器は通らない。
本来ならベテラン冒険者が数人がかりで挑むべき強敵モンスターだ。
「結界で助かりました。さすが聖女さまですね」
「はい。モンスターを感知したら即座に張りますので」
「頼もしい限りだ」
馬を操縦している魔族の商人がマトキに礼を言ってくる。
聖女の結界がなかったら、多少の犠牲は出ていただろう。おかげで他の冒険者も死傷者がいない。
「グオオオオオオ!!」
今度は雪原を這うドラゴン。緑のウロコで覆われ、背中に両翼を備え、四本足で雪原を走る。
スタンダートなドラゴンではあるが、武力一〇〇〇〇級の強敵の上に群れる。
今回は数十匹も群れてて、冒険者たちが戦慄を帯びるほどだ。しかも前に立ち塞がって通れない。
「なんとしても前を切り拓け!!」
「怯むなー!」
「うおおおおおお!!」
馬車を止めて、冒険者たちが飛び出して迎撃に向かう。
剣や弓で攻撃するがなかなか通らない。逆に爪で鎧などが裂かれる。吹き出される火炎で爆発が広がる。
マトキの防御魔法がなかったら確実に死者が出ていた。
「こりゃ荷が重いかな?」
アッセーは光の弓を生成し、屈折する追尾の矢で次々と射抜いていく。
それに驚いた冒険者が「うおおお! あのアッセーがいたあああ!!」と歓喜する。
「みんな、オレもそんな万能じゃないので頼りきりは危険だ。オレがいない場合はどうする? だから冒険者として己の力を信じて戦い抜こう!」
「「「オオオオオーッ!!」」」
士気高揚していく冒険者。
しかしアッセーは逆に気落ちしていく。アルローは気になる。
「なんで気が進まないのです?」
「オレに頼りきりになると怠慢が進むからなぁ。こうして奮い立たせないと冒険者として矜持はないだろ?」
「そんな事も考えてらしたのね」
なぜ、最初っから全力でモンスターを排除しないのかが腑に落ちたローラル。
無敵のアッセーがいれば全部任せていればいいやと怠慢されると、いざという時に困るからだ。
「そして今回の依頼がこれだからな……」
アッセーはチラッと、馬車内の隅に佇むローブの子どもを見やる。
ローブで顔以外を覆う人間。沈んだような目。そして頬にはウロコっぽいのが窺える。
「魔獣の種を摂取してドラゴン化が進んだ人間の子どもを、サイツオイ竜王国へ送り届ける依頼。何事もなくクリアできるといいが……」
「そうですわね」
「なのです!」
「……がんばりましょう」
「この聖女にお任せあれ」
ローラル、アルロー、ユミ、マトキはそう張り切るが……。




