67話「魔鏡の恐るべき魔力!! 多重婚約の術!」
洞窟の奥から反射光が見えて、アッセーは眉を潜めた。
殺気もなにも感じないが、不穏な気配は感じる。
「な、なんか怪しいのがあるのですっ!?」
「モンスターではないようですね」
「察知では大きな鏡のようだ。動いていない。ここはオレが確認する」
アルローとマトキに制止の腕を伸ばす。
警戒して洞窟の奥へ進むと、禍々しい装飾で拵えたスタンドミラーが斜めに転がっていた。
魔族が使いそうな鏡だなと思い、壁に立てた。
《クックック……、久しぶりにヒトが来おったわ……》
なんと鏡が喋りだしてきた。
「おまえ、喋れるのか!?」
《さよう。我は魔鏡……。恐るべき効力を秘められているせいで、このように捨てられていたのだ……》
「恐るべき効力?」
話すより見るほうが早いと思ってか魔鏡は一瞬輝いた。
鏡に映っているアッセーがニヤリと悪辣に笑む。こっちは笑っていないのに、勝手に動き出したのだ。
それどころか、鏡からズズッと抜け出してきたのだ。
「お、オレが出てきた!?」
《ふっふっふ。いくらでも増えるぞ……》
なんと映っているアッセーが次々と鏡から抜け出してきたぞ。
同じ姿で五人並ぶ事態となった。
アッセーも驚く。転生前の妻ヤマミのブラックローズアバターみたいに同じ自分が増えたのだ。
「まだ増やせる?」
《ゼェゼェハァハァ……、久々に……魔法力出したから……》
「頼む! もう四人くらい追加でお願い!」
《なんか知らんが、望み通りにしてやろう。むうんっ!》
力を振り絞って魔鏡は続けてアッセーを更に四体増やしてくれた。これで九人。
《ふはははは! 貴様そのものを複製したのだ!》
「そうか~?」
九人横に並んでいるアッセーと背比べする。
明らかにオリジナルより背が高く、大人びている。
《む……? なぜだか差異はあるが、貴様そのものである事に変わらぬ! さぁ覚悟するがいい!》
「「「オリジナルは死ね!! オレらがアッセーに取って代わろう!」」」
複製アッセーズが揃って光の剣を生成し、悪辣とした顔で襲いかかろうとする。
するとアッセーはボウッとフォースを吹き上げた。
足元に花畑が沸騰するように咲き乱れ、背中から羽が四枚浮き出し、黒髪が銀髪ロングに伸びて舞い上がる。
「なれる?」
《えっ!? ちょっ……待って待って……!! じゃあこっちのアッセーだって……》
「「「お、オレらは変身なんてできねぇっ!!」」」
《うそん……》
魔鏡のみならず、複製アッセーズも驚き戸惑っている。
「やっぱ思った通りだ! 妖精王までは複製できねぇ!」
《ぐぬぬ……!》
アッセーというヒトの体を器にしているだけで、妖精王ナッセとしては別に存在している。
故に魔鏡が複製したのはアッセーというヒトそのもの。
確かに遺伝子も才能もそっくりにできるが、精神生命体までは不可能。
あくまで現存する通常生物のみである。
「要はオレの細胞を使ったクローンみてぇなもんだ」
《だ、だからオリジナルの貴様と違っていたのかっ!?》
「そうみてぇだ。オレは妖精王だから成長が遅れている。でも複製したアッセーは純粋なヒトだから、本来そういう風に育つんだ。そして武力も五万とだいぶ低くなってる。本来は同じになるんだろ?」
そこがヤマミのブラックローズアバターと違う点だ。
あっちは武力に限らず、妖精王まで再現できる。
《ぐっ……! これまでか……! 我の勝機は完全になくなった……殺せ……》
「「「せっかく生まれたのに…………」」」
観念したらしい魔鏡。そして複製アッセーズも力なく項垂れる。
どう考えたって勝ち目はない。
しかしアッセーは首を傾げてため息をつく。
「おいおい、なーに勘違いしてんだ? まだ戦うとも倒すとも言ってねぇ」
《え?》
「「「え??」」」
殺されるかと思っていた魔鏡と複製アッセーズは目を丸くしていく。
「オレを複製してくれてありがとな。これで助かる」
《ど、どういう事だ……??》
戸惑う魔鏡にアッセーは快く笑う。
「なぁ、複製アッセーズ。同じ名前じゃなんだし、違う名前を付けっぞ」
「え?」
「ええっ?」
「待って?」
「んん?」
「え……??」
「ちょっと何を?」
「むー」
「名前?」
「オレたちに名前をつけてどうする気だ?」
怪訝にザワザワする複製アッセーズ。
「左からワアセ、ツーアツ、スリッセ、フォセー、ファイッセ、シックア、セブンセー、エイアッセ、ナイッセで」
「「「数とアッセー混ぜて命名っ!!?」」」
「分かりやすいだろ?」
「「「確かにそうだけどもっ!」」」
戸惑う複製アッセーズ。
「魔鏡さん。魔法力を回復できたら、もっと増やせる?」
《……我の複製能力は制約で九人までだ。もっとも複製を殺せば、その分の枠は空く》
「それは残念だ」
《お前が強い素材だったから、張り切って制約の数まで複製してしまったのだ》
何を思ったかアッセーは魔鏡を掴んで力を入れていく。
《待てっ! 我をどうするつもりだっ!?》
「例えばだけど、もし魔鏡さんを壊したら複製したやつ消える?」
《ムリだ。我の魔力で具現化したが、個体として独立しているからな。普通の生命体と変わらん》
魔鏡から手を離し、ふむふむと頷く。
「魔鏡さん、協力させてもらうぞ。いいか?」
《なにをさせる気だ……?》
大魔姫と魔姫がオーラを纏って超高速で低空飛行してて、下の森林がバサバサ揺れる。
妖精王の気配を感じて一直線に向かっているのだ。
「見つけたぞ! 我が夫となるものよ!」
「待て我が先じゃ!」
洞窟の前で妖精王アッセーが立っている所へ飛び込むように、大魔姫と魔姫が着地した。
しかし目の前の光景に驚く。
「むっ! 分身できるのかっ!?」
「なんじゃ!? まさか『分霊』できたのか??」
「落ち着けって」
まぁまぁ、と妖精王アッセーは宥める。
アッセーの後ろに同じアッセーが九人並んでいるのだから驚くのもムリない。
「変身を維持したままで待っていて、戦うつもりではないのか?」
「違げぇって。オリジナルはオレ。後ろが複製されたオレ。その区別な」
その後で六人の魔嫁も追いかけてきた。
怪我していたようだったが、回復が早かったか、回復魔法で治したか、で復帰が早かったようだ。
やはり魔嫁ズも妖精王の気配を察知して来れたわけだ。
大魔姫は「ほう、あのダメージを回復したのか」と感心していた。
「やっと来たし、これで話が進めるな。よし! 婚活始めっぞ!」
複製アッセーズに、怪訝な顔をする魔嫁ズ。
すると複製アッセーズ六人が歩みだして、それぞれの魔嫁へ対峙する形となる。
そしてチャーアーに一人の複製アッセーが近づく。
「そこの魔姫にも……」
二人の複製アッセーが大魔姫ミトンと魔姫ルビナスに対峙する。
「左からワアセ、ツーアツ、スリッセ、フォセー、ファイッセ、シックア、セブンセー、エイアッセ、ナイッセ。同じオレだから同時に婚約できるぞ」
「「「「「な、なんだって──────!!!?」」」」」
魔姫と魔嫁ズは驚いて仰け反る。
複製アッセーズは跪いて、それぞれの手を取ってキスした。
「みなさま婚約おめでとうございます! というわけで祝福すっぞ!」
妖精王アッセーはにっこり微笑んで鈴を鳴らす。リーン!




