65話「魔姫も大魔姫も婚約破棄だっ!!」
魔姫ルビナスが婚約バトルをしかけた結果、心を掴まれてアッセーを運命の魔王子と認めてしまう。
そんな折、大魔王の娘である大魔姫ミトンが乱入してきたぞ。
銀髪が揺れる、褐色肌、鋭い目つきで引き締まった美顔、両耳の上からは黒い牛のツノのようなのが伸びている、胸も程よく大きく、スラっとした体型、白いローブをマントのように着込んでて、表からは競泳水着のような着衣でさらしている。
「ほう。かの妖精王アッセーとは、そちの事か……」
凍るような視線と不敵な笑み。
修羅場を潜ってきたような雰囲気を窺わせる。さすがは大魔王の娘。
逆に大魔姫ミトンは、目の前の妖精王に見惚れていた。
足元のポコポコ咲き乱れ続ける花畑。美しい四枚の羽根が背中で浮いている。目の虹彩に星マークが灯っている。銀髪ロングが絶えず舞い上がり続けている。
そして中性的な童顔でキリッとしているのがキュンポイント。
初めて見る妖精王が想像以上に美しくて、動悸が絶えない。
「今は取り込み中じゃ! この魔王子はこれから我と婚約する事になったのだからな!」
「フッ! そちもお初にお目にかかります。魔王の娘、魔姫ルビナス。……そうは言うが、アッセーの意志を聞かずに決め付けるとは無礼極まりない」
アッセーはウンウン頷く。
魔姫ルビナスは「うぐ……」と苦い顔する。そしてアッセーへ振り向く。
「じゃあ聞くぞ。アッセーさま、この我と婚約したいであろう?」
「えー、したくねぇ……」
アッセーは肩を落としたままゲンナリ顔で言い、魔姫は「なっ!」とショックを受ける。
「フフッ! どうやら、私と婚約をお望み……」
「いやぁ、そっちも勘弁被るぞ」
硬直する大魔姫ミトン。
そんな滑稽な失恋を魔姫ルミナスは「かっかっか!」と大笑い。
プルプル震える大魔姫ミトン。クワッと怒り顔でアッセーへ向き直る。そんな豹変にアッセーはギョッとする。
「この美しい私の体のどこが不満なのだっ!?」
「確かに誰もが見惚れる女性だとは思う」
「そうであろう!? こんな婚約、千載一遇! 今を逃せば好機はもはやない! それでもかっ!」
アッセーは疲れた顔でため息。
「もっといい条件の男が他にいるだろ? わざわざオレにこだわらなくていいと思うぞ」
「お主はッ、この私をみすみす他の男に奪われても構わないというのかッ!?」
「ああ。幸せになってくれ」
アッセーはにっこり愛想笑いで流す。
今まで魔族の姫としてもてはやされてきたせいか、大魔姫ミトンにとっては天地がひっくり返るほどのショックだ。
目眩がして気が動転しそうになる。
「かっかっか! 大魔姫ミトンとやら諦めて帰るがよい!」
「ってか魔姫さんもな」
「なぬっ!?」
上機嫌だった魔姫も、帰れ言われてショック。
「だって、どっちも同じようなもんだろ」
アッセーにぶてぶてしく言われ、魔姫と大魔姫は並んでガガーンと驚愕する。
ワナワナ震えながら、魔姫同士が指差し合う。
「「こんなのと同じだとでも言うのかッ!?」」
「ああ。悪いんだけど、二体とも婚約破棄で」
すっぱり婚約破棄を言い渡され、魔姫ルビナスと大魔姫ミトンは揃って絶句する。
ホッと安堵するユミ。当然なのです、と胸を張るアルロー。生暖かい目で見守るマトキ。神妙な顔で俯くローラル。信じられない顔をするチャーアー。
そんな愉快な様子を、遠くから眺めていた死神キンルと使い魔ロッピちゃんはニマニマしていた。
「「「ちょっと待ったー!!」」」
上から声が聞こえ、魔姫とアッセーたちは見上げる。
上空から六人が降りてきて、スタタタッと地面に足が並ぶ。
オーガ族のエアリル、アラクネのエリル、ラミアのロローマ、ウェアウルフのカミカ、アルラウネのバーナッツ、サキュバスのジョレリアが横に整列していた。
「ここは魔姫さまの手をわずらせるまでもなく、この我らが妖精王さまと婚約すれば済む事!」
なんと城下町で置き去りにしたはずの魔嫁ズが馳せ参じてきたのだ。
それを大魔姫ミトンは怪訝な顔を見せる。
「貴様ら、どういう事だ……!?」
「ですから、蜘蛛一族の誇りにかけて我らが妖精王アッセーさまを満足にしてご覧に入れます!」
「このラミアが魅了させて子沢山を儲けます」
「ウォウウォウ! この獣人プレイで立派なケモナーに仕立てて見せるワン!」
「この触手プレイで満足しない男はいないはず!」
「サキュバスを知っていて? 殿方を虜にできないなどあるわけがなかろう」
まるでこちらのピンチに駆けつけた、かつての敵みたいなシチュエーションである。
アッセーはジト目で「全然嬉しくねぇ……」と呟く。
「「「ですから魔姫二体は、そのまま帰ってくださいませ!!」」」
すると大魔姫ミトンは怒りのオーラを噴き上げて、上空にまで登っていく。
地響きが大きくなっていって、獣人町にいる獣人たちは恐れおののいたり、混乱したり、逃げ惑ったりしていた。
「……この大魔姫に行き遅れになれと!?」
「「「Exactly!!」」」
六人の魔嫁はそろって丁重にお辞儀して挑発してしまう。
「ほう! この大魔姫さまに楯突いた事を後悔させてやろう……!」
冷徹な笑いを見せた大魔姫ミトンを前にしても、魔嫁ズは怖気づかない。
オーガ族のエアリルは大金棒を肩に乗せ、アラクネのエリルは蜘蛛の足を広げて低く構え、ラミアのロローマは「シャアー」と吠え、ウェアウルフのカミカは「ヴヴー」と四つん這いで唸り、アルラウネのバーナッツは触手を増やしてわらわら蠢かせ、サキュバスのジョレリアは杖を取り出し、臨戦態勢。
「「「「始めようッ!! 婚約バトルをッ!!!」」」」
修羅場のように魔族の女どもの激戦待ったなし。ドン!
アッセーはゲンナリして「なんなのだ? 婚約バトルって……」と呆れかえる。




