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64話「魔姫ルビナスとの婚約バトル!?」

 唐突な魔王の娘の乱暴な訪問で、食堂の出入り口が破損してしまった。

 周囲の獣人はザワザワする。

 驚いていた熊、狼、猪の乱暴三人組は切り替えて「魔姫さまが、ここに何用だぁ!」と凄む。


「ここにいるかなと思ってきたが、当たったようだじゃな。妖精王アッセーさま」

「……大魔姫ってどういう事?」

「大魔王さまの娘じゃ。じきやってくるであろう。その前に大魔王さまも認めた妖精王さまの力が、どれほどか確かめたい。我より弱い夫など要らぬのでな」

「えぇ……」


 乱暴三人組をスルーして、黙々とゆっくり歩いてくる。


「てめぇっ!! 無視すんなあッ!!」


 大柄な熊がいきり散らすが、魔姫ルビナスの裏拳で横に殴り飛ばされる。壁を突き抜けて、外の地面をバウンドしながら向こうの家へ突っ込んで煙幕が立った。

 狼と猪の獣人は「アラガさんっ!!」と、穴があいた壁へ振り向く。


「てめぇ!! よくもっ!!」「許さんぞおおお!!」

「場違いは失せるのじゃ!」


 魔姫は狼と猪の頭を掴んで、ガチンとぶつけ合って床に沈めた。


「ここじゃ場所が悪い。表に出よう」

「教養のない獣人どもを庇う必要はないのだがな……。いいだろう」



 改めて町を出て、森林が囲む広い場所で魔姫ルビナスとアッセーが向き合う。

 風が吹いてきて足元の砂煙が流れる。


「見た目は軟弱そうだが、滲み出る強者のオーラは隠しようがない。久々に心が滾るわ。さてお待ちかねの婚約バトルじゃ!」

「婚約バトルかはさておき、挑まれるんなら仕方ないぞ」


 魔姫ルビナスは突っ立ったままで、アッセーは星光の剣(スターライトセイバー)を生成して身構える。

 ローラル、アルロー、ユミ、マトキ、チャーアーは息を飲む。

 後から熊狼猪の乱暴三人組がツカツカと歩いてきて「逃さんぞ!!」と吠えた瞬間、弾けたようにルビナスとアッセーは激突した。

 重なった拳と剣から破裂した大気が烈風を巻き起こし、地響きが広がった。

 熊狼猪の三人組はそれに煽られて目を丸くして仰天。


「おおおおッ!!」

「フウウッ!」


 ルビナスの超高速パンチの連打と、アッセーの剣戟の軌跡が幾重の激突を繰り返し、衝撃波を伴う余波が連鎖されていく。

 これですら二人は準備運動なのだろう。

 しかし熊狼猪の三人組に恐怖を与えるには充分だった。


 魔姫ルビナスは掌に灼熱の光球を浮かす。


「スコーチング・ヒートボール!!」


 投げつけてきた灼熱球が地表の飛沫を引き連れながら、アッセーへ一直線と目指す。しかし剣で左右に両断されて後方へ通り過ぎて二つの大爆発が轟いた。


「ほう……。最上級魔法クラスを圧縮した技を切り裂くとはな」


 後方で炎上したまま、アッセーは威風堂々と立っている。

 魔姫ルビナスはニヤリと笑む。全身を銀に輝く体に変質させ、地を揺るがすほどの光のオーラが天高く噴き上げた。

 さっき以上に膨れ上がった威圧にアッセーは苦い顔を見せる。


「つーか、魔族って金属化できるのか!?」

「魔法鉱石シルバリルを摂食した事で、細胞を金属に変質させる術を得たのじゃ。そして何故かオーラが光属性に変わったのだ」

「くっ! オオガと違って武を心得ているな……! よし! (スーパー)アッセー!!」


 アッセーも力んでボウッとフォースを天へ噴き上げて、黒髪を銀髪ロングに伸ばし舞い上がらせる。

 足元から沸騰するように花畑が咲き乱れ、背中から四枚の羽根が浮く。

 想像以上の威圧に魔姫ルビナスも厳しい顔を見せた。ビリビリ、肌に響く。


「これが……かの妖精王ッ!?」

「来い!!」


 妖精王化したナッセは自信満々と待ち構える構え。

 魔姫ルビナスは「行くぞ!」と、超高速であちこち動き回って攪乱してくる。まるで嵐と化したかのような動きだ。

 その余波で烈風が吹き荒れて森林がバサバサ揺れて、地響きが続く。


「フッ!」


 死角からルビナスが襲いかかるが、アッセーは振り向かず剣で弾く。

 続いてあちこちから絶えない連続攻撃が繰り出されるが、まるで結界を張ったかのようにアッセーの周囲で軌跡が描きながら弾ききっていく。

 実際は待ちの姿勢で、敵の攻撃を『探索(サーチ)』で感知して剣で迎撃しているのだ。


「あ、あれは……剣の結界!?」

「完全防御なのです!」


 アッセーは一歩も動かず、四方八方からの攻撃を跳ね除けている。

 かなり強固で一寸の隙すら見いだせない。


「なら、これはどうじゃ!? サウザンド・スコーチング・ヒートボールッ!!」


 ルビナスが無数の灼熱球をあちこちばら撒く。それらが包囲し、一斉に四方八方からアッセーへ殺到する。

 大爆発の連鎖が轟き、天高くまで爆炎が広がっていった。

 凄まじい熱風と衝撃波が荒れ狂って、近くの森林から剥がれていく。

 なおも震撼は続く。ドドドドド!!


「なっ!?」


 煙幕が渦を巻いて晴れていくと、無事な地面の円の上でアッセーは無傷で構えたままだ。

 魔姫ルビナスは震えていく。


「まさか……それも防ぐか……!?」

「もう終わりか?」


 自信満々とアッセーは笑む。依然と余裕だ。

 魔姫ルビナスは「ついに運命の魔王子さまが現れたのじゃ」と歓喜してきた。

 思わず「はぁ?」と肩を落とす。

 魔族にとっては白馬の王子様って感じか。甚だ迷惑である。


「あ……あわわ……! ば、ばけもの……!」

「アラガさん、こいつらヤベーよ!」

「やめときましょうぜ」


 熊狼猪の乱暴三人組は恐怖でガタガタ震え、立ち竦む。


「あ、そういや忘れてた。そっちの熊さんもオレに用があっただろ? ケンカやりたいなら魔姫さんと一緒にかかってこいよー。四対一で有利になれっぞ」


 アッセーが振り向いてきて、熊狼猪の乱暴三人組は手と首を横にブンブン振る。


「あ、いえ! なんて凄いです! 尊敬しています!! サイン欲しいかなーっと」

「うんうんうん! 俺ら、こんな誤解する性格だけどよ、マジ尊敬してて会いたかったんです」

「へっへっへ! ケンカだなんて、俺らがあなたに勝てるわけなきゃないでしょーが!」


 焦りに焦りまくって誤魔化していく三人組。

 アルローはジト目で「絵に描いたような手のひら返しなのです……」と呆れた。

 すると向こうの森林が爆ぜて、何かが飛び出してきた。


「「「また!!?」」」」


 熊狼猪の三人組は竦む。

 地面に流れる煙幕。現れるは銀髪が揺れる競泳水着を着た大魔姫。今度は落ち着いた物腰でアッセーを見据える。


「お初にお目にかかります。私こそ大魔王ブレズアさまの娘、大魔姫ミトン。婚約するべき参ってきた次第」

「また妙なの来たぞ……!?」

「チッ」


 魔姫は舌打ち。アッセーは肩を落として困惑するしかない。

 どんだけ婚約したいんだよ!?

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