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63話「獣人町で、獣人どもを調教だ!」

 魔族領は思ったより広くて、これじゃ境界を敷いてても仕方ないレベルだった。

 他の王国のようにそれぞれ地域ごとを治めているのではなく、人類と魔族とで大陸の土地を半分分けている感じ。

 某ゲームでラスボスが「味方になってくれれば世界の半分をやろう」という誘いイベントがあるが、大昔にガチでそうなったんかな?


 ナッセたちは魔族領の森林を通り抜ける獣道を延々と歩いていた。


「勇者たちが侵入して、魔王に挑戦してるんだよな」

「なのです」


 ローラル、ユミ、マトキ、アルロー、そして新しく加わったっぽいダークエルフのチャーアー。

 婚約ならぬ誓約破棄されたチャーアーはしょんぼりしている。

 転生前の妻ヤマミがそうだったように、妖精王は呪縛系を破邪できるので婚約刻印の縛りを解くなど造作もなかったせいだ。


「チャーアー、こんな強制的な婚約に落ち込んでもしょうがねぇだろ」

「世界天上十傑と婚約するの滅多にない機会だったの……」

「強いほうがいいのか?」

「もちろんそうなの。でも、世界に一体いるかいないかの妖精王さまと婚約だなんて、飛び上がるほど嬉しいの……。でも婚約破棄されたの……」


 なんか気の毒になるほど涙ぐんでいる。

 他の魔族婚約者も同じような気持ちだったんだろうな。それを城下町に捨て置いて、今頃泣いてっかな?

 同情はするけど、安易に婚約したくねぇ。


「もうすぐ町につきます」


 聖女マトキが知らせてくれて、アッセーは「おお、あと少しか」と張り切る。

 数十分もすると、目視できるていどに町が見えてきた。




「人間か? ふん!」


 丸太を連ねた囲み塀の門前で、獣人の衛兵が怪訝そうにアッセーたちを見ていた。


「特に拒む理由はないが、長く居着くな」

「魔族領で人間なぞを優しく歓迎してくれると思うなよ?」


 アッセーはアルローへ「なんか感じ悪くねぇか?」と憮然する。


「人間と同じく獣人も、アッセーさんが妖精王だと分からぬのです」

「だからか……」


 一応、獣人の町へ入らせてもらえたが、周囲の目が痛い。

 妖精王なので、変身してなくとも若干の殺意や嫌悪の感情が分かるから余計……。


「しかし、みなも疲れてるし宿で休養とるか。こんな町だけど」


 宿屋へ行ってみると、頬杖をついたまま獣人がケッとこちらを見てくる。


「泊まるのか? あいにく空いてる部屋はないんで、馬小屋でいいなら泊めてやっていいぞ。料金は獣人の倍だがな。ククッ」


 感じ悪くて胸くそが悪い。他でもそんな感じなのだろう。キリがない。

 そのままこの町を出て行ってもいいが、ローラルたちの疲労は無視できない。

 仕方ないので妖精王になって鈴を鳴らした。リーン……!


「クーンクーン。空いている部屋があります。通常の料金でどうぞです」


 調教完了。やったね。

 おかげで毒づいた目が少年のようなキラキラした目になって、ハッハッハッと懐いてくれたぞ。

 妖精王になってよかったと思えるぞ。


「身もフタもないですが、助かったのです」

「やはりすごいですね。聖女の私も顔負けです……」

「こんな凄い人に、なぜ意地悪してたのかしら……? 本当に後悔してますわ」

「やっぱりアッセー素敵」


 チャーアーは呆然としていた。

 こんな一発で和解するなんてチート級で、そして美しい音色。心が洗われるようだ。

 なんかキュンと胸が締め付けられる。ポッと頬を赤らめる。


「……やっぱ婚約したいの」

「それは許せねーのです!」

「なんでなのー!」


 アルローとチャーアーが取っ組み合いになっちゃった。かわいい。




 晩飯をしようと向かった食堂でも、獣人たちが敵意をむき出しにしてきた。

 親の仇かってくらい唸りながら殺意を向けてくる。

 しかしアッセーは神妙な面持ちで全身にオーラを纏い、鈴を具現化した。ズズ……!


「特殊系“(ソー)”能力……。『楽園に導く純白の鈴ラブ・アンド・ピース・ベル』!」


 単に妖精王化したのに、それっぽく能力者ぶって鈴を鳴らして敵愾心を吹き飛ばす。

 目キラキラな獣人たちに温かく迎えてくれた。


「くぅーんくぅーん! いらっしゃーい!」

「にゃーん! よろしくにゃー!」

「ぶもー!」

「けんけんけーん」

「ぶひひーん」


 無事、調教完了。

 犬、猫、牛、雉、馬、いろいろな獣人がいるなぁ。

 本来なら、こいつら人間を目の敵のように見てきてケンカふっかけたりしてたのかもしれない。

 獣人は人間よりも気性が荒く、仲良くなるには一筋縄で行かないだろう。

 だが妖精の鈴によって調教したので大丈夫。


「誓約と制約が厄介な能力だが、効果は保証する。しばらくは優しくしてくれる」

「なーに厨二くさい能力者ぶってるのです! でも確かに妖精王でしかできない制約ってのは本当なのですが……」


 ツッコミ役が板についてきたなアルロー。


「獣人でもいろいろあんな」

「なのです。多彩な魔族と変わらねーのです」


 人語を喋る獣、獣そのままが二足歩行するタイプ、人型の獣タイプ、手足が獣タイプ、耳尻尾だけの獣タイプと種類が豊富だ。

 ケモナー好きとしてはたまらない町だろう。

 ただ、耳尻尾だけの獣人を獣人じゃないと言い張るケモナーもいるらしいが、また別の話か。オレは好きだがな。


「ぷぱー食った食った!」


 みんなで満腹になって恍惚に浸る。

 すると敵意を漲らせた熊の獣人が、狼と猪の獣人を連れて入ってきたぞ。


「おうおう! みんなしてふぬけた顔で、なーに人間どもを迎え入れてるんや!」


 机を蹴り飛ばすなど乱暴さが窺える。

 こちらへ一直線と歩いてきて、獲物を狩るような笑みで「のうのうと食って……」といった所で、後ろの出入り口が爆発するように破片を散らして爆ぜた。

 乱暴者三人組は振り返る。


「な、なんだぁ!?」


 床に煙幕が流れ込んできて、なんと魔姫ルビナスが不敵な笑みで現れたのだった。


「こ……こいつっ!?」

「ま、魔王さまの娘じゃねーかっ!?」

「大魔姫なんかと婚約される前に、我と婚約してもらうぞ!」


 なんか面倒くせぇ状況になってないか? 更に大魔姫が追加とか……。

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