59話「魔族の嫁を選べ!」
魔王城内部は、他の国の城と同様に立派な装飾や建築構造をしているが、黒っぽくなっている。
青い炎が灯火となって、等間隔で通路を照らしている。
アッセーたちは、先をゆく魔王の後をついて歩いていた。
「妖精王殿の婚約者としてヒトといえど害意は抱かん。この地域の魔族たちにもそうするように命令しているから安心するがいい」
「そっか」
道理でローラル、ユミ、マトキに対しても、なんの敵意も出していないわけだ。
婚約者じゃないと否定したいが、黙っておこう。めんどくせぇ事になる。
客用の寝室へ案内された。
すっごく広くて、大きなキャノピーベッドが目立つ。高貴なテーブルとソファー。そして魔界を見渡せる大窓。天井には青い灯の豪勢なシャンデリア。
「ククク……、夜を大いに楽しめるであろう……」
「あー……どうも」
言ってる意味は分かるので生返事。
つまりローラルたちとまぐわえるように案内されたのだ。ハーレムものではありがちな。
「まぁ、まだ童貞だけどな……」
「む?」
「転生前はともかく、この世界では誰とも交わっていない」
「なにっ!? それはマジかっ!!?」
初めて魔王が驚いて、うろたえたぞ。ワナワナ震えていく。
「転生者の誰もが、重婚と聞いて喜んでハーレム築くやつ多かったのに、なんの冗談だ……!?」
「アッセーさまは奥手なのです」
「聖女の私の為に純潔を貫いているのですね」
「それ関係ないって。オレには転生前の世界でヤマミと結婚してるし」
なんかユミが「む~」と膨れている。
魔王はキッと睨んでくる。
「転生前の事は忘れろ! もはや貴様は、この世界のアッセー殿なのだ!」
「うーん……」
「ともかく貞操を守る理由はもうない!」
ったく、と魔王に呆れられる始末。
せっかく用意してくれた部屋に入って、ユミとアルローは大きなベッドへ飛び込んでフワフワを堪能している。
アッセーはソファーへ腰掛ける。
「ローラル、アルロー、ユミ、マトキはそのベッドで寝てくれ。オレはここで寝る」
「ダメ!」
駆け寄ってきたユミが側に座ってきて腕に抱きつく。胸の感触がぷにっと。
更にその隣でマトキが丁重に腰掛ける。
「そういうのなら、私も一緒に寝ましょう」
「おいおい」
それをローラルは眺めてセンチな表情をしていた。
遠慮なくアッセーに絡んでいけるのが羨ましかった。それなのに自分は、と後ろめいた気持ちが尾を引く。
幼い頃より、もっと仲良くできていたら、もっと違った関係になってたかもしれない。
晩飯は広い食堂に招待された。
長テーブルに多くのイス。魔王はテーブル端、そして逆方向にはアッセーが席についていた。
豪勢な料理が並び、ローラル、アルロー、ユミ、マトキは驚いていく。
大きな肉、並べられた野菜の果実、魚の刺身、濃厚なスープ、誰もが目を引く美味しそうな料理だった。
「召し上がるといい。言うまでもないが毒など入れておらん。しかし驚いたぞ、複数の女性を従えておきながら手を出さぬとはな」
「身寄りのないユミはともかく、他は勝手についてきただけ」
「「「ええー!!」」」
アルローとマトキはブーたれた。
しかしローラルは神妙に「そうですわね……」と一言。珍しくしおらしいな。
「もしかしてホームシック? しばらく、あっちの関係とも会ってないっけ」
「関係ないですわよ。そもそも自分の親が毒親と分かった以上、ほぼ絶縁みたいなものです」
「そうなのか?」
「これは言ってませんでしたけど、長女次女ばかり可愛がって私には辛くあたってきてましたの。それで鬱憤を晴らすために下賤と見下したアッセーさまに無礼を働きました」
「そんな事があったのか……。ひでぇ親だな」
「リヘーン王子と婚約しようとしてたのも、親に見返したいと思ってからですわ。もともと彼には好意を寄せてません」
「そんな裏事情が……」
「とはいえ、アッセーさまに酷い事をしてきた罪は許されません」
魔王は深い溜息を付いた。
「ローラル、貴様がどのような事情で感傷に浸ってるか知らんが、覚悟を決めて魔族領へ踏む込んだのなら無礼に当たる。最後まで食らいついて婚約を勝ち取れ。それが往生際の悪いヒトの特徴だろう」
まさかの魔王の説教。敵対するヒトに対してこれは驚き……。
「まぁ、感傷に浸りながら辞退しても我は構わんがな……。アッセーには選りすぐりの処女を用意してあるからな。一匹減ったところで問題ない」
「「え?」」
アッセーとローラルは目を丸くする。
魔王がパンパン拍手すると、ぞろぞろと魔族の女性たちが規律よく歩いてきたぞ。
魔族故か種族ごとに異なる形状をしているが、恥部が薄ら窺える薄布は首から両脇に分かれるトップスと腰からぶら下げているボトムスと、露出度が極めて高いのが共通になっている。
そしてアッセーが一望できる位置に整列した。
「我が名はエアリル」
二つのツノがこめかみから伸びていて褐色肌、銀髪ロング、目は白い部分が黒くて瞳が赤い、二メートル強の長身で胸が異様に大きく、スラっとした長い足、尻からはトカゲのような尻尾。
「私はアラクネのエリル」
紫髪ロング、ツリ目、首と肘に毛が覆っている、肌は薄紫、下半身は巨大な蜘蛛。
「あたくしはラミアのロローマ」
茶髪ショート、肌色はヒトと同じ、艶かしい顔とナイスボディ、下半身は蛇。
「我はウェアウルフのカミカ」
全身を覆う漆黒の毛色で長身、狼の顔、胸は控えめ、完璧に獣人。
「わたしはアルラウネのバーナッツだよ」
派手な赤髪ボサボサロング、頭上に花が咲いている、下半身を飲み込むような花で、足に相当する複数の根っこ。
「あたしはダークエルフのチャーアー」
据わった深い青い目、褐色肌で、銀髪ベリーショート、アルローと同じロリ。
「私はサキュバスのジョレリア」
こめかみから内へ曲がった一対のツノ、青いロング、背中から悪魔の翼、尻尾から悪魔の尻尾。
「あたしは世界天上十傑カレンだーァ!」
転生前の姿をそのまま筋肉隆々の長身大女にした感じ、ただ肌が褐色で耳が尖っている点が違う。
「さらっとカレン混ざっとる……」
アッセーは呆れて汗を垂らす。しかしカレンはノリノリのようである。
転生前でも、なんか惚れてたような気も……。
「今宵交わってから、決めてもいいぞ」
さらっと魔王とんでもないこと言っとる。




