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58話「アッセーと魔王の謁見」

 アッセーが三大奥義を披露し、世界天上十傑のオオガに炸裂した。

 その衝撃は凄まじく、暗雲を吹き飛ばして青空に変えるほどのもので、大陸中にも響き渡るほどだった。

 唸るような振動音の最中、魔王城に佇む魔王は「ほう……」と笑みを浮かべた。


 息絶えたオオガを見下ろしてアッセーは一息をつく。

 額から血を流してて、息を切らしている。勝ったとはいえ、自分より武力が上の敵と戦ったのだ。


「さすが妖精王さま、すごいのですーっ!」


 結界を解き、アルローたちは駆け寄ってきた。

 オオガに襲われかけたローラルは気負いするように後方でゆっくり歩いている。


 果たして自分はアッセーに見合う嫁になれるかと不安に駆られていた。

 そもそも、幼馴染とはいえ嫌われるような事を散々しておいて、厚かましく押しかけてきておいて資格があるのか甚だ疑問。

 もしも最初っから驕らず、令嬢扇殺法をストイックに極めていたなら、今のような無様な事にならなかったかもしれない……。

 覆水盆(ふくすいぼん)に返らず、それがしっくり合う気がする。


 すると向こうの岩山が粉々に砕かれて、振動が大地を伝わる。

 アッセーたちは思わず振り向く。


「ハッハーァ! やっぱナッセかーァ!!」


 なんと巨大なハンマーを肩に乗せた、筋肉隆々の魔族女が不敵な笑みで現れたのだ。


「カレンッ……!?」

「へっ! 相変わらず衰えてないどころか、更に強くなってるなーァ!」


 あの頃のカレンはロリっぽい低身長で、ダメージを受ければ受けるほど体格が大きくなって強くなっていく『血脈の覚醒者(ブラッド・アウェイク)』だった。

 オオガも在籍していたレキセーンモサ学院のエース。

 チーム戦ではあるが、ほぼタイマンで戦ってギリギリ勝てた相手だったが、二度と戦いたくないとい思わせられた。


「今ここで再戦といきたいところだがなーァ……」


 悪辣とした笑みで襲い掛かりそうな気配だったが、抑えたようだ。

 アッセーは怪訝に眉を潜めた。


「魔王さまがお呼びだーァ。その案内にきたーァ……」


 そう言うと踵を返す。

 アッセーはアルローとユミに目配せして「行こう」と告げた。マトキも「悪意はおろか敵意も感じませんから、大丈夫でしょう」と告げてくれた。

 距離を空けて突っ立っているローラル。


「ん? ローラル?」

「アッセーさま……」

「覚悟してついて来たんだろ? 今更怖気づいたのか? 行くぞ」


 もしかしたら「もういいよ。帰っていい」と素っ気なくされると思っていた。

 思わず「は、はい」と足を歩ませていく。




 魔王城は闇に侵食されたかのように黒ずんでいて、上空で暗雲が渦巻いていた。

 もし勇者として魔王討伐に来ていたなら、息を飲んで緊張していただろう。


「ようこそ、はるばる遠路ご苦労。妖精王殿……」


 漆黒に覆われたかのような謁見の間。禍々しい形状の王座に魔王が不敵な笑みを浮かべていた。

 アッセーは頭を下げる。同時にアルローたちも頭を下げた。


「殊勝だな。だが勘違いするな。妖精王殿は我ら魔族より上の立場。下々のように簡単に頭を下げるな」

「え……?」

「魔王と銘打っているが、それは人類と対立する代表的なもの。人類の敵たる象徴としてであって、全てに敵意を撒き散らしておるわけではないぞ」

「は、はぁ……」

「やはりゲキリン殿の言っておった通りだわ。まだ自分の立場を分かってないらしい。全くもって嘆かわしいわ」


 なんか魔王に説教されたぞ……。

 つか龍人の長ゲキリンさんと繋がってんのかよ。

 そばにハンマーを肩に抱えたカレン、彼女は四天王。


「相変わらず強さと態度が見合ってなーァ」

「うむ」


 魔王は立ち上がる。凄まじい威圧を漲らせ、深淵の闇オーラが立ち上っていく。


「カレンもそうだが、我も世界天上十傑の一体……。遅くなったが自己紹介させてもらおう。我は魔王ヘルドラー……!」


 額から大きなツノが伸びていて、オールバックの赤髪。緑肌で眉毛がない厳つい顔。黒いマントをなびかせていて全身が覆われている。

 アッセーは推測して武力七五万と推し量った。

 カレンはオオガと大差ない五五万だが、違うのは今でも武の心を持っているので実質的にずっと上だ。


「オレは妖精王ナッセ、そしてヒトとしての器はアッセーと申す」

「それでいい。そう堂々とせよ」


 改めて堂々と名乗ると、魔王はニヤッと笑う。

 ローラル、アルロー、ユミ、マトキは格の違いを見せつけられて冷や汗いっぱいに戦慄を帯びていた。

 魔王がこちらへ歩き出す。


「あ、そうそう。早速だが女神さまから神託を頂いたぞ。ナッセ、貴様はオオガに代わって世界天上十傑にランクインしたぞ」

「え……、オレが??」

「あのオオガを実力で打ち負かしたし、そりゃ当然の結果だろう」


 呆然としてしまう。


「そうそう。あんまり暴れないでね、と女神さま仰ってたたぞ」

「うう……善処する……」

「今は疲れたろう。部屋に案内する。ついてくるがいい」


 魔王と普通に話しているアッセーを見て、ローラルは俯いていく。

 こんな自分がアッセーと婚約していいのか、と迷いが滞る。


「そこの婚約者たちがたくさんいて申し訳ないが、貴様には厳選された魔族の嫁とも婚約してもらう」

「「「え!?」」」

「女神さま直々の命令だ。観念するんだな」


 アッセーはもちろん、ローラルたちも目を丸くした。

 魔王ヘルドラーはそのまま通り過ぎていく。


「それで、これまでの事に目を瞑るとな……」


 背中を見せたまま魔王はそう言ってた。やっぱ多重婚約めんどくせぇ!

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