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53話「強まる恋慕の情! 重なる縁!」

 ナウォキの転生者であるエッタバドは法王となって、シーンジロ王国を数十年も独裁して私腹を肥やしていた。

 相変わらず卑怯で悪辣な男だったが、それが災いした。

 契約してた邪神ルーシタンを儀式召喚して敵を葬り去ろうとするが敗北して、永劫の地獄へ招待されてしまったぞ。

 残った強硬派教徒は空中分解して、シーンジロ王国は平和になった……のだが!



 穏健派組織の集会場で、アッセーは修羅場に陥っていた。


「元々、最初に婚約していたのは、この私ローラルですわ!」

「婚約破棄したって聞きました! そんな悪役令嬢が出しゃばらないでください!」

「そうよそうよ。この聖女が妖精王さまにふさわしいものとしてー」


 ローラル、ユミ、そしてマトキまでもがアッセーの取り合いしていた。

 マトキはユミと同様、世間知らずで恋愛に免疫がないので直情的すぎる。


「あのさぁ……、なんで今更ローラルが出てきてんだよ? もう婚約破棄しただろ?」

「アッセーさま、あの時考えて考え抜いても旦那様はあなたしかないと思って、放り出していた令嬢扇殺法を徹底的に学び直してきましたの! 貴方にふさわしい妻となるために!」

「ってか婚約したリヘーン王子はどうした?」

「惨敗したショックで寝込んでしまいましたので、王様の方から破棄して下さりました。これで晴れて婚約し直せますわ」

「えぇ……」


 満面な笑顔のローラル。あの時のような悪辣とした面影など残っていない。

 元に戻るだろうと思ってたけど、変にこじれて逆に面倒くせぇ……。


「第一、異世界転生してはいるが結婚してる身だぞ」

「転生前の事はノーカウントです」


 今度はユミが強気に言い出してきた。

 いい傾向だと思うけど、こんな事で発揮しないでくれ。

 アルローの方をそっと見る。


「ヒトは恋愛に溺れやすいのです。こうなったら誰も止められない事を思い知るがいいのです」


 プイとそっけない。


「とはいえ、アッセーさまも考える時間が欲しいのでしょう。重婚も構いませんが正妻は譲りませんことよ。同じ貴族の身分ですし」

「自分から婚約破棄しておいて厚かましいです」

「貴族以上の聖女として、妖精王さまに相応しい正妻は私以外にいないでしょう」


 ユミはともかく、さっきまで関係なかった聖女の娘マトキが、しゃりしゃり出てくるのも勘弁してくれ。


「ってか聖女も聖女だぞ」

「はい?」

「聖女の後継者として引き継ぐなら、この国に留まらないといけない。オレは冒険者として、再び世界を回る旅に出る。一緒にいられねぇって」


 すると煌びやかな光柱が、マトキの横から噴き上げてくる。

 なんと肌がツルツル潤っているピンクのロング巨乳の美女がニコニコ微笑んでいる。


「か、母さん!?」

「え?」

《私こそが聖女ターゲチです。三途界域(アケロン・エリア)より舞い戻ってきました》


 まさか『死後強まる思念』の本人が降臨してくるとは……。


「おお! ちょうどいい!! 娘さんを説得してくれ!」

《バッチ大丈夫です。元気になった娘のおかげで私もハツラツして、これから守護結界が百年は続きそうです。アセマト妖精王と聖女のカップ推し最高!》


 親指を立てて満面の笑顔だ。

 なんか肌がツルツル潤っていたのは、そういうわけか……。

 これでは『死後強まる思念』プラス『推しカプで強まる想い』ではないか。


「えーい! ならば、みんなそろって婚約破棄だっ!!」

「「「「なんの! 婚約申請っ!!」」」」


 ヤケクソで破棄を言い渡すも、負けじとユミ、ローラル、マトキ、アルローが言い返す。


「さらっとアルローも混ざるな!」

「バレたのです」


 てへぺろでアルローはあざとく笑う。


「どうせ長生きするのは私と妖精王さまなのです。ヒトはすぐ老いてオサラバするから、付き合えるのはエルフの私だけなのです」


 えっへんと胸を張る。

 あー、だから今まで冷静になってたのね。

 こうなったら聖女ターゲチに助け舟を出してもらおう。


「このままでは娘とカップルになるどころか、複数の女性が関わってくるんだが……」

《重婚オッケーな社会ですし、そのまま構いませんよ。娘のマトキをよろしくお願いします》


 スゥ────……と満足げに成仏するような感じで消えていくターゲチ。

 慌てて「待て待て!! 話終わっとらーん!」と呼び止めるも、すでに時遅し……。

 異世界ファンタジーでは重婚オッケーな場合が多いから、アテにならないのか。くそ。


「兄様が家出したからオレに婚約がいっただけで、本来ローラルの相手はそっちじゃないかぞ!?」


 アッセーに指差され、思わずリッテは「えっ!?」と目を丸くする。

 すると壁が破壊されて破片が四散する。

 なんと、褐色の大女がハンマーを肩に乗せて現れたぞ。


「リッテさまと婚約いたした第二の嫁、ホウレン公爵家次女エリシューナでございます。お見知りおきを」

「え? ええ? ちょっと!? 婚約してた?? つーか第二の嫁!?」

「実は……四人と婚約しているんだ。重婚して家を継ぐつもりだからな……」

「そんなん聞いてねええええええっ!!」


 リッテはその大女へ寄って「そういうわけで」と、一緒に去っていった。

 アッセーたちは呆然と見送るしかない。

 とっくに婚約してて、取り付く島はないようだ。


「さて」


 ローラル、ユミ、マトキが「ふふふふ」と含み笑いしながら背後から迫ってくる。

 圧を感じて冷や汗タラタラでアッセーは硬直するしかない。

 こんなハーレム展開は望んでいない……。しかし強まる恋慕の情は逃してくれないだろう。


「オレはまだ独身を謳歌して、世界を自由に回りたいんだぁあああーっ!!」


 そのままアッセーは壊された壁から脱走して、それを追いかけるローラル、ユミ、マトキ。

 アルローは「やれやれなのです」と首を振った。

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