48話「追放されし聖女の無念……!」
なんと穏健派組織の集会で聖女の娘を名乗る女性が現れたぞ。
ピンクの姫カットで慎ましい表情の女の子。それでもアッセーよりは年上。
「娘? 後継者……?」
聖女の娘だというマトキは頷く。
「正確には数十年前に追い出された聖女ターゲチの娘です。母は五年前に亡くなられました」
「そうです。こうして匿っているわけなのです」
「つまり箱入り娘……かぞ?」
集会の教徒はみな頷いた。
なんか嫌な予感がするが、大人しいキャラのマトキはユミ以上の世間知らずって事だ。
たぶん「追い出された聖女」から察するに、見つかると処刑の流れになるんで穏健派が死守しているので、外の世界を知らないままだろう。
「世界を知らずに育ってきたのか……」
「ですが本を読んで、それなりに教養はありますよ。それにみなさん親切でいろいろ教えてくれますし」
にっこり微笑んでくる。
「母が追い出されたって言うけど、経緯を聞かせてくんねぇ?」
「はい」
「これは私が説明しましょう。聖女さまの逃亡を手引きしてましたので」
リーダーが立ち上がる。
前にも言ったように前法王が死んで、エッタバドが法王になってから横暴な振る舞いをするようになった。
そして同じくしてシーンジロ王国を守っていた聖女ターゲチを難癖つけて追い出した。
代わりにエッタバド気に入りのニセ聖女を据えた。
「聖女さまが言う事を聞かないからと追い出したのです。余りにも身勝手です」
「セクハラとか?」
「ああ、そうですね。キスをさせろ、セックスさせろ、と執拗に求めてましたね。しかし聖女さまは逆に彼をたしなめて正そうとしましたが、聞く耳を持ってくれませんでした」
「ニセモノの聖女だ、と難癖をつけて無理やり追い出しました」
「そうそう、王国を守る守護結界がないとヤバい事になるって忠告も聞きません」
聖女の能力は国を覆うほどの聖なる守護結界。
これのおかげで魔族やモンスターが入れぬ安全地帯となっている。
「え? 追い出されてから、大丈夫だったん?」
「追い出されて、ワシらが匿った間でも守護結界を必死に張ってましたよ。エッタバドは気づいていないでしょうが……」
「なんと自己犠牲で献身的な……。で、五年前に亡くなったんなら結界も消えるんじゃ……?」
「残留思念で強まった守護結界が残ってます」
「聖女の残留思念?」
彼らの説明によると、強い思念を残したまま死ぬとスキルの効力がより強まり残留し続ける。
某漫画のアレみたい。
カイガンや雲旅団が聞くと絶対『死後強まる怨念』とか言いそうではある。
「でも、今は弱まってます。そろそろ切れそうで、この国が終わるのももうすぐですかね……」
「なんとしてもエッタバド強硬派をなんとかしないといけません!」
「彼らの後ろ盾の正体が分からない事に何も始まりませんが……」
「強力なバックねぇ」
もしバックが『世界天上十傑』なら、彼らだけじゃどうしようもないかな。
龍人ゲキリンクラスがいると思えば敵いっこない。
「そのまま国から出て、新しい暮らしするがいいのです。どうせ彼らだけじゃ自滅するだけなのです」
アルローは腕を組んで憮然と言い放つ。
「そうは言うがなぁ……」
「聖女さまが守りたかった国を捨てるというのは……」
「うんうん」
「これだから、ヒトは無駄に頑固なのですっ!」
思わずアルローの頭を撫でて「まぁまぁ」となだめる。
「はうーっ!」
妖精王に撫でられた、とばかりに竦んで震える。なんか恍惚した顔をしてなくもない。
妙にユミがこちらの裾をグイと掴んでくる。嫉妬しとる。
「今は敵の情報が足りねぇから、すぐに仕掛けるは早計だしなぁ」
そもそもあちらさん、隠している切り札とかあるかもしれんしな。
今すぐにでもボスのエッタバドをしばき倒して万全解決できりゃいいのになー、とは思う。
「た、大変だっ!!」
見張りしてたらしい教徒が慌てて入ってきたぞ。
ガタッと教徒たちは立ち上がって「見つかったか!?」と焦燥を帯びる。
強硬派の教徒たちが王国出入り口で群がって殺気立っていた。
「貴様ら不敬であるぞ! 反聖職者どもが! 大人しく捕縛されるが──……」
問答無用とばかりに轟音を伴って大地を割るほどの衝撃波が無数の教徒を四方に散らす。
立ち込める煙幕から抜け出した二人が姿を現す。
殺気立つリッテとローラルがズカズカと入国してくる。そして怯む教徒どもに新聞紙を突きつける。
「なんだーっ!? この虚偽新聞紙はっ!! 許すずましっ!!」
新聞紙には『反聖職者のアッセーら三名を処刑した』と一面に書かれていて、ウソの罪状とか書かれていた。
しかも無断転載された写真は、リヘーン王子と悪徳令嬢ローラルがでっち上げたやつだった。
アッセーのコスプレしたブサイクのおっさんが悪さしてる様子だ。
そりゃローラル本人がニセモノと断定するのは当然の事だった。
「許しませんわよ! 私の婚約者さまを、このように貶めてーっ!」
人の事を言えないくせに、ローラルが何故か憤慨してる。
殺気立っている教徒たちが槍を手に「うるせぇ! 反聖職者どもがーっ!!」と殺到する。
しかしローラルは毅然と扇を振るう。すると火炎が踊る。
「令嬢扇殺法・火炎旋舞ーっ!!」
渦を巻く火炎が獰猛に教徒数十人を巻き込んで「ぎゃああああ!!」と吹き飛ばしていった。
リッテも意気込んで「行くぞ!! アッセーさまは助け出す!」と剣を振るって、ことごとく教徒をなぎ倒していった。
そんな様子にアッセーは肩を落とす。
「リッテ兄様はともかく、なんで悪役令嬢ローラルが来てんだぞ……!?」
そっちはそっちで面倒くせぇの起きやがった……。




