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45話「宗教大国は見栄最高峰の国!?」

 意識が浮き上がるにつれて、ガタンゴトンと揺れる馬車の振動が響いてきた。

 薄ら目を開けると、ビックリしたユミが硬直していた。顔が近い。


「さっき寝入ったばかりなのに……」

「何しようとしていた?」

「キスしたいですぅ」


 そのままキス型の唇を近づけてくるユミの両肩を、アッセーは両手で押しのけようとする。ぐぎぎ!

 思ったより力強くないかこれ?

 傍目で見やると、アルローはジト目で呆れていた。


「ちっとは止めてくれよー!」

「自分が言い出したのです。ヒトをそばに置くって、そういう事なのです」


 なんとかユミの情欲を抑えてもらって、なんとかなった。


「落ち着けって!」

「む~」


 欲求不満なユミはむくれる。

 アッセーはため息をついて後頭部をかいた。


 ……どうやら馬車の中で寝入った時、深い眠りに陥った瞬間に女神さまに呼ばれたらしいな。

 あそこで結構な時間が経ってたはずが、ここでは一瞬でしかないようだ。でなければ、とっくに唇を奪われていた。


 女神さまはズッコンバッコンオッケーと倫理観そっちのけで推奨してたしなぁ。

 生命体としては子孫を育んで未来へ繋いでいくには最適なんだろうが、迷惑極まりない。

 よくよく考えてみればオレも十五。ユミと同じ年なんだよなぁ。

 感覚的にオレがナッセとしては大人で、ユミが年下のロリって認識で避けていただけで、実際は恋愛しても不純じゃないかもしれない。


「とはいえ、ヤマミとセットで異世界転生してくれないのは確かだしな……」

「ヤマミ? 誰ですか……?」

「うっ!」


 ユミが目ざとく反応してくる。


 ヤマミ、転生前の世界で結婚した女性。

 黒髪姫カットの生徒会長みたいなイメージの女で、お互い色々あって分かち合った妻。

 子供になったマリシャスを保護して、これから世界旅行しようって時に……。


「まさか彼女!?」

「どう説明したらいいのやら……?」


 ユミの感情が嫉妬で溢れかえってきて、黒くなっていくのが感じられる。


「この世界にはいないんだよ!! 存在しない!」

「どういう事ですか……?」

「転生前の人間関係であって、アッセーとしての関わりは全くない。ここに異世界転生された以上、死ぬまで戻れないし会う事もできない」

「そうなんですか……」

「そうだよ」


 納得してくれたのか、黒い感情が引っ込んでいく。


「ヒトは感情的になると引っ込まないのです。トラブル最大の原因なのです」


 アルローはエルフだからか、客観的にそう認識している。

 ヒトは欲求に忠実で自分の思い通りにいかない場合や、嫌悪的要素が絡むと、途端に攻撃的になる。

 なかなか頑固で、話し合いで分かり合うケースは希。

 その話し合いでさえ、自分の欲求と相手の欲求でせめぎ合う駆け引きのようなもので、純粋に友好を深めようとする意味はほぼない。

 表面上で「友好」「和解」とか取り繕うが、やはり歴史上では争いの繰り返しだ。


「アッセーさまはヒトを甘く見てるのです。やつらの執念深さを改めて思い知るがいいのです」

「オレだってヒトだしなぁ……」

「もうヒトじゃない事を自覚しろ、なのです」

「ぶ~、アルローとばっかり~」


 蚊帳の外にされるのが嫌で、アッセーの腕に抱きついて引っ張る。

 仕方なしにユミの頭を撫でる。


「む~」


 とはいえ、ヤンバイ王国の頃よりは素直に気持ちを伝えてきている。

 問題はアッセーへ好意を向けていて、それが揺るがない事だ。ヒトは欲望に忠実で執念深い。

 アルローは幼いエルフながらも分かっていて呆れているのだ。


「っていうか、そろそろシーンジロ王国だな」

「ヒト最大の宗教大国なのです」

「宗教大国……?」


 ヒトが創造主たる女神エーニスックさまを信仰する為に建設された聖域。

 信教に従って、自らの煩悩を振り払い清く正しく身を整えて、健やかな生活を送る事で女神さまによって天界を導かれると、頑なな信じる大きな宗教団の国だ。


「……実際の女神さまは倫理観皆無でズッコンバッコン推奨派だしなぁ」

「会ったのですか?」

「ああ。夢という形でな」

「さすがは女神さまに認められた妖精王さまなのです」



 馬車に揺られる事三時間、ようやく見えてきたシーンジロ王国。

 白い石柱が並び、神殿がいくつも建っていて神秘的な雰囲気が感じられる。澄んだ綺麗な水が聖域さに拍車をかけていた。

 入国すると、綺麗に整った僧侶服などが目立つ住民が規律よく行き交うのが目に入る。


「見栄を張るところはいっちょうまえなのです」

「まぁ……」


 女神さまが「正しくあられよ」と指示しているならともかく、直に会った身としては複雑な心境であった。


「確かに見栄を張る最高峰の国ってトコか……」


 めんどくさくなりそうな予感ビンビンだぜ。

 ユミはアッセーの腕に抱きついたまま恍惚としている。だんだん酷くなってる気がしないでもない。


「君!」


 振り向くと厳かな神父さんが眉を潜めていた。嫉妬の感情が薄ら……。


「なんでございましょうか?」

「ここは神聖なる聖域。むやみに色恋沙汰をしていいところではない。情欲に囚われていると女神さまに裁かれるであろうぞ」

「いやぁ、そんな事ねぇぞ。思いっきりヤれってさ」

「なっ!? 女神さまをそんな不埒なっ!!」


 一気に敵意が膨らんだ。やば地雷踏んだ。

 なんと「反聖職者どもだー!!」と笛を吹いて警報を鳴らしたらしく、アッセーはユミとアルローを抱えて瞬間移動のようにフッと消えた。

 敵意を抱いた教徒がざわざわ集まってきて「探せー!」と殺気立ってしまったぞ。


 建物同士の狭い隙間でふうとやり過ごす。

 抱えられたユミはポッと赤らめていて、アルローは逆に不機嫌に拳を突き上げていた。


「アッセーは素直すぎるのですっ!」

「ごめ」


 どないしよ……。

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