42話「魔人の思わぬ終焉……」
美人になったノダークとイケメンになったクリランが熱々な濃厚キッスしまくってるぞ。
「くそおおおお!! 俺にも美女よこせよおおお!!」
《さっき願いを叶えたからムリ》
「無効化されたからノーカウントでいいだろおおおお!!!」
《無駄無駄無駄無駄無駄》
絶叫するカイガンに畳み掛ける魔人。
さて、願いを叶えたのは最初のドクセー公爵、オレ、ロクック、ノダーク、ギンボウ、クリラン、カイガン、じゃあまだの人はアルローとユミだけか。
「アルロー、ユミ、無難な願いを頼む」
「い……いけないです……。アッセーが私に依存して欲しいという願いががが」
「お、抑えてくれ!! 待って待って!」
発情してきたユミが顔を赤らめてハァハァ息を切らし、ヨダレが口端から垂れていく。
カイガンにバレるがしゃーない。背に腹は変えられねぇ。
「おおおおおッ!!」
気合を入れてボウッとフォースを噴き上げて、アッセーは黒髪を銀髪ロングに舞わせて、背中から四枚の羽根を浮かす。
足元から沸騰するように花畑が咲き乱れていく。
そして鈴を生成する。
《え!? ちょっ……!?》
「トゥインクルサニー! 快晴の鈴────ッ!!!」
《待っ……》
思い切って振り下ろした白銀の鈴が音色を発し、浄化の光が周囲に広がっていく。
ユミの性欲が抜け出て霧散していく。
ロクック、ノダーク、ギンボウ、クリランも、カイガンも無差別に欲や悪意など悪いモンを吹き飛ばした。
《あああああああああああああああッ!!!!》
そして一番効果抜群だったのは、魔人。
元から肉体を持たず、生物の体を乗っ取って活動する魔人は浄化攻撃にめちゃくちゃ弱い。
《こんなはずでは~~~~ッ! せっかく不老不死を叶えたバカを乗っ取って無敵の魔人として世界を支配しようとする企みがああああああ~~~~!!》
「え? だったら自分で願い叶えればいいじゃんか?」
《そ……そんな……事ができたら、わざわざ深いダンジョンの底で待って他人の望みを叶えるなんてクソ面倒な誓約と制約要らんわあぁぁぁ~~~~!!》
「あ、それもそっか」
《どうしてくれんじゃボケええええぇぇぇぇ…………ッ!!》
血涙流し悔やみながら魔人は散り散りに消し飛んでいった……。
今度は周囲の細胞壁が悲鳴を上げるように唸り声を立てて、振動しながら散り散りと溶け消えていった。
更に密閉状態のダンジョン故に浄化の音色が循環してしまい、一人残らず魔人を消し飛ばしてしまう。
世界最大のダンジョンを謳ってバカな人間を餌場におびき寄せていく居心地良い住処として、世界から集まってきた魔人にとってすごーく致命的だった。
《ぎゃあああああああああ!!!》
《ぐわあああああああああ!!!》
《あばばばばばばばばばば!!!》
《ぎええええええええええ!!!》
《ばぼぼぼぼぼあああああ!!!》
こうして魔人は一人残らず絶滅してしまった……。
アッセーは後頭部をかいて「ごめ、やっちゃった……」と苦笑いするが、魔人としてはやりきれないだろう。
アルローは呆然する。
「まだ願い叶ってもらってないのです……」
「なんかアッセーさんを自分のものにしたいと願おうとしてすみません……」
賢者モードになったユミの頭を撫でる。
「魔人が消えても、不老不死は消えてないな」
ロクックは拘束したドクセー公爵を嬲って、再生が続いている事を確認していた。
一方で同じく性欲が浄化されたノダークとクリランは恥ずかしそうにそっぽを向き合っていた。
妖精王から人間へ戻ったアッセーに、カイガンがズカズカと歩み寄る。さすがにバレたか!?
「トコロテン抜刀斎も妖精王なら、メンバー選ばれてたのによー! そんでナッセたちにも勝てたじゃん! なんで隠してたんだよー!」
いやバレてなかった……。つかバカだなこいつ。
「殺生は無用でござるよ。さぁ帰ろう」
「待て!」
呼び止めたのはロクック。
「その腕輪、確か硫酸の池へ転送させるやつあっただろう?」
「え? そうだが?」
「こいつ送れないか?」
「ひっ! や、やめてくれ!! それだけは~~~~!」
ドクセー公爵が怯えた顔で命乞いを始めた。
「じゃあ、そうすっか」
「大陸地中深くの硫酸池に転送先を設定してある! どう足掻いても出られないから証拠隠滅にうってつけだったんだー! 頼む、そこだけはやめてくれえええ!」
「ほう、都合がいい。こいつをのさばらせたくないから、送ってくれ」
アッセーはうーんと、悩んでからドクセー公爵へ尋ねる。
「これまでしてきた悪行を正直に言ってくれ」
「わ、分かった! 正直に話そう!!」
浄化の音色を浴びてたせいか、洗いざらい正直に吐き出した。
出ること出ることえげつねェ悪行だらけで、弁解しようがない。さっきロクックが拷問してきた以上の非道な行為を罪のない人々に長らく繰り返してきたようだった。
奴隷市場の促進活動、麻薬売買、性奴隷の為に誘拐、魔人の住処へエサを送る為に世界最大のダンジョンを謳っていた、立場と権力でパワハラや強姦など好き放題やってた元凶。
これだけ犠牲者をたくさん生み出しながら、証拠隠滅して潔白の身を装ってきた極悪人。もう庇いようがない。
「よし送れ!」
「イエッサー!」
「なっ、何をするきさまらー! やめろおおおおおおおおっ!!!」
腕輪をちょいちょい設定し直して、ドクセー公爵及び、悪徳貴族全員を硫酸池へ転移させた。
不老不死のドクセー公爵だけは、燃焼と再生を繰り返す灼熱地獄を味わう事になった。
こうしてもぬけの殻となったフカオックイ王国と、ただの広いだけの鉱山が残った。
宝石や鉱石は確かに高値で売れるが普通に重い。坑夫がトロッコに乗せて地上へ送らない限りは効率が悪い。
そして要となる腕輪による転送機能が貴族全滅によって失われた。
なので一攫千金を求めて多くの冒険者が行き交っていたが、次第に過疎っていったのは言うまでもない。
一気にダンジョンをゴリ押しで脱出したアッセーたちは疲れを癒した後、フカオックイ王国の門を潜って出国した。
「これで俺たちは行くよ」
「おう! でももう会いたくねーわ」
「短い間だったけど楽しかったわ。あとクリランと結婚するね」
「ああ。ノダークは俺が幸せにしよう」
雲旅団は手を振って、どこへとも知れぬところへ旅立っていった。
カイガンは気づいたら、いなくなっていた。
「さて行くか!」
「なのです」
「うん」
アッセーは晴れ晴れとした気分でアルローとユミと一緒に馬車に揺られて、次の国へ向かっていった……。
その一方で深い森林の中の獣道で、カイガンは猫背で、時々後ろへ振り返りながらドギマギしていた。
「後で思い返してみたらナッセ本人じゃねーか! 剣を使う白い妖精王ったらあいつ以外いねー! つか知らずに人違いしてイキっちまったよ!」
報復してこないか、心が穏やかではなかった。




