36話「雲旅団、ドン引きする!」
一階層のボスを倒して、二階層へ降りる事になった。
「へぇ、そのまま降りるのか」
「何の話だ?」
「……いや、罠とかないなと」
前の世界じゃ、モンスターが出てこない安全地帯があって休めたりしてたんだよな。
ここではねぇのか。
二階層は遺跡に洞窟が侵食しているみたいな感じだ。
立派な壁と柱に、石壁などが張り付いている。ちょっと薄暗くてジメジメだ。
つーか、さっきから宝箱などなく、採れるのは貴重な鉱石しかねぇな。
様々な宝石や金属いろいろあるが……。
「警戒を怠るなよ」
ロクックは口癖のように言ってくる。
六本足の凶暴イノシシが群れて突進してきて、ギンボウが「おらぁ!」と乱暴に張っ倒していき、ノダークの爪連発で蜂の巣にし、クリランが電撃を纏って感電死させていく。
髄所でロクックの拘束が敵の動きを止めて、やりやすくなっている。
アッセーは立ったまま無造作に横薙ぎに拳を振るって、イノシシを粉々に弾き飛ばす。
「みんなもすごいのですが、アッセーはやはり群を抜いてるのです」
「そうだよね……。優勝するほどだし」
終わった後は、イノシシの肉片と血が散らばっている。
「その剣はフェイクか? 拳の能力を切り札にするなら、剣で戦った方がいい。いざという時に拳で敵に不意を付ける」
「それもそうか」
腰に差している剣は二本。安物の剣と聖剣だ。
アッセーは拳の能力と言ったが、実際は普通に強すぎて信じられない破壊力になってるだけだ。
従って拳で戦おうが剣を振るおうが大差ない。
「どんな誓約をかけてるか分からないけど、凄まじい破壊力ね。ぜひ入団して欲しいわ」
「いやぁ……」
「ケッ! 調子に乗るなよ」
ノダークは感嘆しているが、ギンボウは戦闘能力で嫉妬しているようだった。
同じ増強系能力者っぽいので、対抗意識持ってるのかもしれない。
歩いていくと、道を塞ぐように幾重に連ねられた糸が左右の壁から張られていた。
糸には反射光が煌めいていて鋭さを表していた。
アッセーがウザったそうに掴もうとすると、ロクックは「触れるな! 切断されるぞ!」と叫んできた。
「え?」
そのまま糸を掴んでしまう。
「そいつは鋼鉄をも易々と切断する『断鋼糸』だ。放射状に糸を結ばず、壁と壁を繋ぐように横と斜めに張って、通りかかった獲物を切断する。それを捕食する『惨殺蜘蛛』……、もういいや」
途中でロクックの説明が投げやりになった。
なぜなら、アッセーがそのまま引きちぎって糸玉に丸めていたからだ。
「どうせ似たような糸だろ」
ギンボウがオーラを纏って残ってた糸を掴むと、ザクッと裂けて血まみれになる。
「ぎゃあああああああああああ!!!」
たまらずギンボウは激痛に転がる。
指とか切断されなかったものの、裂傷は酷い。あの頑丈なギンボウですら裂くほどの切断力。
アッセーは「えー……」と、残っていた糸も続けて処理していく。
「さすが拳の能力だけあって、ものともしないわね」
勘違いしているノダークが安堵する。
「グアアアアアアア!!」
恐ろしい咆哮がしたと思ったら、鋼鉄に覆われたような巨大な蜘蛛が三匹這い寄ってきた。
怒りに満ちているようだ。
素早く口から目にも留まらぬ速度で糸を吐く。
アッセーは拳で払うと、断鋼糸は弾け散る。
「逃げろ!! マトモに戦うな!! この俺が拘束して……!」
アッセーはストレートパンチで正面の蜘蛛を殴り飛ばす。その衝撃で全てが振動する。吹っ飛んだ惨殺蜘蛛は粉々になりながら散乱していく。
左右から糸を吐く惨殺蜘蛛に左右の手のひらを突き出し「はっ!」と気合いを入れる。
糸ごと、蜘蛛を弾き飛ばし壁にグチャッと叩きつけて潰れたトマトのようになった。
「もう、終わったぞ」
振り向くと、なんかロクック、ノダーク、ギンボウ、クリランが呆然している。
ドン引きしているような気がしないでもない。
「も、もしかして……ただ強いだけなのか……?」
「バカ言うなよ……!」
ビビるクリランとギンボウ。やべ、誤魔化さねーと。
「ワ……一撃粉砕する拳の力だッ!!」
焦ってか、ついうっかり武力三〇万クラスの膨大なオーラを噴き上げてしまうアッセー。
たちまちダンジョン全域が震え上がっていく。
それは雲旅団にとって絶望するほど、途方もなく圧倒的すぎるオーラだ。
「な……に!?」
「こんな人が存在するって言うの!!?」
「まさか……! 世界天上十傑……ッ!?」
ギンボウ、ノダーク、クリランは愕然して、恐怖で震えるしかない。
人生懸けても到達し得ない底知れぬ質と量のオーラ……。
もしもそれがドス黒い悪意だったなら……、人類存亡に関わる恐ろしい災厄になりかねん……。
「恐ろしいな……。背筋が凍った…………」
冷静なロクックでさえ、冷や汗ブツブツ浮かべて強張っている。
アッセーを警戒していたロクック、ノダーク、ギンボウ、クリランの刺すような気配が引っ込む。
最初はお互い知らないもの同士で、どんなやつか分からない内は警戒してて、裏切ってこないか鋭い監視をする。
時には危険なやつであれば寝首を掻くとも……。
この『雲旅団』は長らく経験を積んできたベテランの冒険者。
それゆえに、視ただけで精神が折れてしまった!
「なんか顔青いぞ?? 風邪ひいたか?」
「アッセー……。君が何者かは検索しない。ただ」
「ん?」
敵対してはいけないと即座に判断してか、僅かな敵意すら潜めた。
パワー関係で嫉妬していたギンボウですら鳴りを潜めている。
すなわち、どんな手を打っても最悪な結果しかないと悟ったから……!
「できれば俺たちと敵対して欲しくない。最終目的の最下層魔人までは協力関係でお願いしたい。貴族と魔人の真相を暴きたいのは同じだからな」
「ああ、そのつもりだぞ?」
なんかドン引きされた気がする。
ノダークも勧誘する気が失せたのかもしれない。困ったな。
「道理で女の子二人を連れてノンビリ単独で冒険してたわけだ」
「……そうね」
「ふー、ロリで良かったぜ。もしグラマーな女がいたら寝取ろうと考えてた。命がいくつあっても足りねぇ」
「やはり、いざという時の人質作戦はムリだな。あのオーラはヤバすぎる……」
冷や汗かいて戦々恐々する『雲旅団』だった。




