28話「もう一人の双璧聖騎士! 迅雷迸る!」
タマリン王様は絶句した。
「な……なんなのだ……!? あの男……!?」
我が国最強として各国も一目置くほどの双璧聖騎士が一人、魔双剣の聖騎士ラヴューが子ども扱いされ、聖剣折られた挙句に完敗。
悪い夢でも見ているんじゃないかと頬をつねってしまう。
「お、恐らく……あの二本の聖剣で挟み込む秘剣がミスって自滅して、動揺したところを狙われたかと……」
「そうだよな!? そうだよなっ!?」
「カンダタは運が良かっただけです。こんなバカみたいな展開、ありえないです」
「だろう? だろうっ?」
動転しているタマリン王様と将軍。
「じゃあ聞くが、カンダタがナイフ一本でラヴューの剣を捌いていたのは、な……なんだ?」
「たぶんラヴューが舐めプしてたんでしょう。本気を出せば、あんな展開にはなりませんよ。遊びすぎて足元をすくわれてマグレで負けたとしか……」
「だよな~~?」
冷や汗たっぷりで空笑いして、現実から目を背けるしかなかった。
「次はもう一人の聖騎士をぶつけます。今度は最初っから本気でやるように言っておきます」
「ふっふっふ! そうしてくれ! 我が最強の騎士がマヌケな負け方で恥をさらすなど、あってはならんっ!」
「はっ!」
その後も大会は進み、決勝戦になった時にカンダタことアッセーが闘技場へ上がる。
観客は盛り上がって大音響を浴びせる。
「カンダター! あんたの戦いは面白いぜ!」
「また、愉快な戦いを見せてくれー!」
「ダークホースのカンダタ! あんたの優勝に賭けるわ!」
「顔見せてー!」
「チグハグな全身鎧なのに、決勝戦とは! やるじゃねぇか!」
「今まで同じ騎士ばっかり優勝争いしてて、つまらなかったんだー!」
「いいぞー! やれやれー!」
「今回も番狂わせを見せてくれー!!」
カンダタは無言で拳を上げると歓声が沸いた。
ユミはうっとり見惚れていて、アルローは自分の事のように「えへん! 妖精王様は強いのですー!」と胸を張る。
「調子に乗るのもこれまでだぞ。仮面男」
大きな大剣を携える渋めのイケメンな長身騎士が歩いてきていた。
「同じくらい強そうな騎士が来たぞ?」
「運が悪いな。さっきのは激情任せでドジを踏んだラヴューで運良く勝ったつもりだろうが、もはやこれまで」
「かもな……」
光のナイフで構える。
それを見て、深いため息をつく。
「せっかくだから名乗ろう。俺は双璧聖騎士が一人……、迅雷大剣の聖騎士ホマリン!」
「オレはアッ……、運がいいだけのただのカンダタだ」
「ほう」
ホマリンは軽々と大剣をグルグル回して軽やかに遊ぶ。
その度に烈風が余波として吹き荒れる。かなりの剛力を誇っているのが伝わる。
「では参るッ!!」
油断せず最初っから本気で、ホマリンは電撃迸るオーラを纏って瞬足で間合いを詰める。
稲光を纏う大剣が横薙ぎされるが、突っ立ったままのカンダタは光のナイフを立てて止める。ズン、と地響きを広げ烈風が巻き起こった。
「ぬ!?」
「その意気だ! 頑張れ!」
ホマリンは自ら渾身の横薙ぎが、突っ立っただけの妙な仮面男のナイフで受け止められたと実感した。
夢を見てるかのような光景だが、確かな現実。
まるで硬く重い何かにぶつけているかのような感触。手が痺れる。
「迅雷・雷帝連奏斬ッ!!」
まるで幾重の雷撃が交錯するかのような剣戟がカンダタへ迫る。
大剣の重量を倍々にする超高速の剣戟は、いかなる全てを粉砕し斬り刻む無敵の秘剣。しかしカンダタは光のナイフでことごとく切り払う。
火花が散り、重い衝撃が床を揺らす。幾度も絶えない剣戟を難なく捌ききっていく。
「ならば、迅雷・雷帝絶影無尽斬ッ!!」
今度は分身したかのようなホマリンがカンダタを包囲して、四方八方からの容赦ない剣戟が包む。
それでも片手のナイフ一本でことごとく捌かれる。
全身全霊で八つ裂きする勢いでやっているのに、傷一つすらつけさせない。
「ぐっ……!」
まるで結界を敷かれているかのように、ただの一撃も当てられない。
息切れしてか、ひとまず間合いを離すホマリン。
気付けば、カンダタの足元が円のようにタイルが残っている。ホマリンの剣戟の余波で削られているからだ。
「まるで剣の結界……。お主は……一体……? まさか『世界天上十傑』!?」
「残念ながら、まだランクインしてねぇ」
光のナイフを肩に乗せて首を振る。
そんなカンダタに、ホマリンはラヴューが負けたのがマグレじゃないと悟った。
「ってか、ホマリンさんも、さっきの騎士と同じくらいの強さ?」
「あ……ああ。だから“双璧”の聖騎士って呼ばれている。そしてタマリン王国が誇る最強の聖騎士として各国にも知れ渡っている」
「だったら国ぐるみでズルすんなよな。曲がりなりにも聖騎士なんだろ?」
「……この国は腐敗している。俺一人ではどうしようもない」
「各国からの冒険者を潰しているのを見て見ぬフリって、騎士の風上にも置けねぇぞ。オレも暗殺されかけたし」
「む……! そのような事が……!?」
「国が暗殺者とグルとか、腐敗しすぎだろ。各国も不審に思ってるだろうし、いつか戦争が起こるぞ」
構えていたホマリンは大剣をぶら下げて俯く。
「今は純粋に試合しようぜ」
「……これほど、上には上がいると思い知らされた日はなかった。正直言って俺も頂点に立ったつもりでいた。だが、ここまで子ども扱いされるとはな……」
「なんか最強の奥義とかねぇ?」
「あるにはあるが通用する気がしない……」
あらぬ方向から雷の矢が飛んできたので、カンダタは振り向きもせず光のナイフで弾く。
必死なのか、次々と雷の矢が飛んでくるがことごとく弾かれる。
「今度は魔法で狙撃かー。きったねぇな」
「すまんな。こんな腐敗した国で……」
観念したホマリンは自らプールへ飛び込んた。ドポン!
「な、なんと!? まさかのカンダタが優勝しちゃいました~~!!?」
「え?」
呆然するカンダタを尻目に、歓声が大音響で沸いた。
タマリン王様は「な、なんでだ……!? あのバカ……!」とワナワナ震えている。
もはやメンツが潰されまくって腸が煮え返る思いだ。
「ぐぐぅ……! やはり、アレを使うしかないようだな……!!」
「ええっ!? あ、あの兵器をっ…………!?」
王様の宣言で、恐怖に竦み上がる将軍。




