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「おい、誰かいるのか?」
斥候女性達が両手で口元を押さえ。ヒッっと息を詰める。
エリルシアはその聞き覚えのある声に、面倒そうに眉根を寄せた。
実際面倒だ…。
冒険者ファングと言う男性は、普段はぶっきら棒で不愛想なのに、曲がった事を嫌う潔癖な所があり、こういう場面を見られたら、斥候女性達が後でどんな目にあうかわからない。
まぁ、名も知らぬ言い掛かり女性達が後でどうなろうと構いはしないが、それに付随する噂の可能性は排除しておきたい。
エリルシアは斥候女性達へ散れと言わんばかりに手をヒラつかせ、この場から離れる様に促した。
その手の動きに斥候女性と薬師女性は互いに顔を見合わせ、バツが悪そうにそそくさと去って行く。
それを見届けるとほぼ同時に、入れ替わる様に姿を見せたのは噂の当人だ。
「ぇ…お嬢……?」
「あら、ファング、こんな所で珍しいわね」
「お嬢こそ…」
エリルシアは内心で舌打ちをする。
ファングは冒険者としての腕も良い……つまり観察眼諸々も侮れないと言う事だ。
微妙な気配の残滓に気付かれても面倒と、エリルシアは口角を上げて笑みを貼り付ける。
「もしかしてサキュンツァの捕獲?
でも…そうね……もうこの辺りからはかなり減っているでしょう?
次の一手を考えないといけないわね。
ファングは何か思いつかないかしら?
高く売れそうな魔物素材とか……農作物はまだ安定しきっていないから、もう暫く別の主力が欲しいのだけど」
ファングがスッと双眸を細める。
「お嬢……はぐらかすな」
「…………」
『察しの良い奴は嫌いだよ』と、声に出さなかった事を自分で褒めてあげたいくらいだが、表情にはガッツリ出てしまっていたらしい。
「…お嬢」
「……あぁ、もう……大した事じゃないわ。
初めて会う人達と挨拶してただけ」
これもある意味嘘ではない。
100%言い掛かりな挨拶をを受けていただけだ。
だが、これ以上口を割る気はないと言う空気も察してくれたのだろう、ファングの方が溜息一つで引き下がる。
まぁ、口を割ろうにも彼女達の名さえ知らないのだから、割りようもないと言うのも本当。
「この辺は夜盗なんかがうろつく事もある。
送る」
エリルシアはなるほどなぁ…と独り言ちる。
やはりと言うか何と言うか…ぶっきら棒で不愛想な癖に、こういう気づかいや優しさをチラ見せしてくるから、世の女性達には堪らないのだろう。
だが……。
これは『断る一択』だ。
馬に蹴られる気なんて、微塵も持ち合わせていない。
「いえ、気持ちだけ…ありがとう」
更に断りの言葉を続けようとしたところに、ソッドの声が飛び込んできた。
「ちょ、兄貴~~~!!」
途端にファングが顔を顰めた。
エリルシアはこれ幸いと、軽く手を上げて脇を抜けようとする。
「ソッドが呼んでいるわ。
私は先に失礼するわね」
「待って」
エリルシアの手に向かって伸ばされた手を、スルリと躱す。
「私なら大丈夫。
もう目的地はすぐそこなのよ。
領邸だから。
それじゃまたね」
エリルシアの手を掴み損ねたファングの手は、所在無げに中空に留まったままだ。
通り過ぎようとする背に、ファングの視線が突き刺さるが、それに振り返る事なくエリルシアはその場から離れて行く。
「あれ、エリー様じゃん。
………って…あれ?」
駆け込んできたソッドが足を止め、上がる呼吸を整えながら、エリルシアとファングを不思議そうに交互に見つめた。
それにも軽く手を上げたエリルシアは、その場を立ち去って行く。
いつの間にか姿を消していたロザリーを、再び少し後ろに引き連れて……。
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