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古びた…いや、歴史ある官舎館に横付けされたのは、真っ白で華美な装飾が目に眩しい1台の馬車だった。
暴れはしないものの、渋るエリルシアを宥めつつ、父ティルナスだけが同乗して王城に向かう。
母エリミアも同行したがったのだが、それは許可が下りず、泣く泣く引き下がった。
前日までエリルシアのドレスの準備等に忙しくしていたので、今日はのんびりして貰うのも良いだろう。尤も気が休まるかどうか…甚だ疑問ではあるが……。
それも仕方ない事だった。
届いた手紙には『王都に急いで来い』と言う事以外は書かれておらず、問い合わせる間もなく馬車に放り込まれたのだから。
持ってきた物と言えば、ポーラが慌てて準備してくれた、下着やワンピースを押し込んだ鞄が一つだけで、ドレスは疎か、リボンの一つさえも持ってきていない。その為急遽ドレス他を準備しなくてはならなくなった。
とは言っても、困窮を極めるウィスティリス侯爵家に金銭的余裕はない。
オーダーメイドドレス等勿論の事、既製品さえも当然の如く購入出来ないので、姉が着られなくなったドレスを手直しして準備した。
体型差がかなりあった為、手直しは母エリミア、メイドのスラニーとナジーが夜通しで行ってくれた。
エリルシアも手伝うと言ったのだが、当日に響くからと、強引にベッドに押し込まれた次第…。
とりあえず最低限の体裁は整い、今日という日に臨んだ訳だが、王宮と言うのがこれほど無駄に広いとは思わなかった。
ギィと大きな音と共に、城門が開かれる。
ピカピカの鎧に身を包んだ門番達が見守る中、エリルシア達を乗せた馬車が城門を潜り抜けた。
開かれた城門の閉まる音が、徐々に小さくなるのを聞きながら、窓の外へ視線を向ければ、目的地である城はまだ遠い。
もう暫くは馬車に揺られなければならないようだ。
エリルシアは窓に向けた顔を戻し、そっと両目を伏せる。
(えっと……御祖母様は確か……)
エリルシア自身は王宮等初めて見るし、初めて足を踏み入れる訳だが、話だけは祖父母から聞かされた事がある。
王との謁見を前に、それを思い出していた。
―――エリルシア、今から言う事を覚えておいてね
―――貴方は王都に行く事はないかもしれないけど……
―――もし私達に何かあって、両親が頼れない時は公爵様…
―――ギアルギナ公爵を頼りなさい
―――他には…そう、ロージント公爵とマグノリア公爵なら大丈夫なはず
―――だけど、トリーゴ公爵とトゥリパン公爵には頼ってはダメよ
―――後は………これは最終手段だけど、王太子殿下と妃殿下なら…
―――――んと…ぎある…ぎあこうしゃく?
―――ギアルギナ公爵よ
かなり以前にした会話だが、ちゃんと覚えている。
(そう言えば不思議に思ったのに、その後聞きそびれてしまってたわ。
どうして王陛下じゃなく王太子殿下と王太子妃殿下だったのかしら……
……ん…今考えてもわかる訳ないわね)
ふと意識を現実に引き戻し、エリルシアは対面に座るティルナスに目を向ける。
これから大変だというのに、暢気にうつらうつらとしてる父親に、エリルシアは苦笑を禁じ得ない。
父ティルナスが担当する仕事は外交関係で、日々忙しく、圧し掛かるストレスも半端ないのだろう。
王都に来てわかったが、父親と母親の忙しさも、領地でのエリルシアと大差ない。
夜遅くまで書類と格闘している姿を見ていたので、もう少し寝かせてやりたい気持ちはあるが、残念な事に馬車は再び速度を緩め始めていた。
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