69
やっとタイトル回収まで来ました(笑)
動けないエリルシアの代わりにティルナスが返事をするが、扉の先に居たのは思いがけない人物。
ラカール王太子の妃であり、ラフィラスの母でもあるフィミリー王太子妃だ。
彼女は部屋に入るなり頭を下げた。
そして丁寧に謝罪と感謝の言葉を口にする。
恐らく、そう言った事をする為に、一人でエリルシアの部屋を訪れたのだろう。
王族が一臣下にすぎない侯爵家とその令嬢に頭を下げる等、とてもではないが公に出来る事ではない。
だからあくまで非公式の見舞いとして、他の誰でもなく妃だけが訪れたのだと思った。
そしてフィミリーは痛みを堪えるような表情で、エリルシアに静かに問いかけた。
ラフィラス、もしくはレヴァンとの婚約を望むかと……。
フィミリーは王太子妃でラフィラスの母親だ。
だから心配になったのではないだろうか…真意はわからないが、十分考えられる事だ。
エリルシアが傷と後遺症を盾に、婚約者の座を欲するのではないかと…。
馬鹿な事をと一蹴するのは簡単だが、フィミリーはエリルシアの為人を知らない。
であれば、理解出来ない危惧ではない。
傷も後遺症も、貴族令嬢にとっては致命的だ。
しかも今回は王族及び中央の希望で、領地から態々召喚されている。
確かに其処を突かれると厳しいと思っているのだろう。
だが、当然エリルシアにそんな事を望む気持ちはなかった。
何も感じない訳じゃない。
廃棄寸前の本まで探してくれたラフィラス。
回りくどい方法だったけどエメラルドを贈ってくれたレヴァン。
振り返ればあんなに回避に必死になっていたのに、思い出はやけに鮮やかで眩しい。
下手に前世以前の記憶があるせいで、その思い出に名を付ける事は難しくはない。けれど耳を塞ぎ、目を逸らす事で蓋をする。
「いいえ、望みません。
いずれは破棄になるのが確実なのに、婚約を望むなんて面倒事を増やすだけではありませんか。
あぁ、そうですね……不敬を問わないとお約束して頂けるなら……私の方から拒否を……婚約拒否を、お願いします…」
ほんの少し、胸が痛むような気はしたけれど、笑って言い切る事が出来た。
呆気にとられたような表情のフィミリーだったが、両親の手も借りて丁重にお引き取り頂く。
そして両親に頼み込んだ。
「お父様、お母様、その……我儘を言っても良いでしょうか……。
私を連れ帰って頂けませんか?」
「何を言ってるの!?
まだ目覚めたばかりで、傷だって……」
エリミアが取り乱して言葉を詰まらせる。
そんなエリミアの肩をティルナスが宥めた。
「いや、エリィの願う通りにしよう。
ただ医師は同行して貰わないといけないだろうが……すぐ頼んでくるよ」
部屋を出ていこうとするティルナスに、エリミアが首を横に振る。
「でも!
……でも、無理に移動なんてして、エリィに何かあったらどうするの…?」
「うん、だから医師に同行を頼んでくる。
妃殿下がどういう意図であんな事をエリィに訊ねたのかわからないが、そんな危惧があるなら早めに王宮を出た方が良い。
こんなに傷ついたエリィが、更に嫌な目に晒される方が、私は嫌だよ…」
「………」
両親には申し訳ないが、王家や中央の不安を取り除くのも、臣下の役目だろう。
エリルシアに疑惑の目が向けられるのなら、向けられないようにさっさと王宮から去るのが一番だ。
ラフィラスやレヴァンに別離の挨拶さえ出来ないのは心残りだけど、それはそれで仕方ない。
その日、エリルシアは王宮から静かに立ち去った。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
もし宜しければ、ブックマークや評価、リアクションに感想等々、とても励みになりますので、何卒宜しくお願い致します。
ブックマークや評価等々くださった皆様には、本当に本当に感謝です。
誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~等々が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つけ次第ちまちま修正したり、こそっと加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>




