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両親と共に医師の話を聞く。
まず初めに聞かされたのは、既に事件の日から3日経っていると言う事。
多量の出血、発熱も相まって、かなり危うい状況だったとも言われた。
落ちてきた短剣は存外深く突き刺さってしまったらしく、血液の流出が止められなかったのだそうだ。
傷跡も恐らく残るだろうとの事。
その言葉を聞いた途端、母エリミアが泣き崩れた。
父ティルナスの顔色も悪い。
エリルシア自身は、いずれ魔法で治せる可能性がある事を知っているので落ち着いたものだ。
いや、落ち着いて見せる事が出来ていただけ…かもしれない。
可能性は何処までいっても可能性でしかないのだから。
領地は持ち直しつつあり、更に無利子融資や見舞金等で、先行きに若干の光が届いたような気はするが、冒険者としての稼ぎも最近ではそこそこ大きくなっていたので、不安がない訳ではない。
周囲はショックで放心していると思っただろうが……。
まぁ、強ち間違いではない。
事実として、エリルシアに貴族令嬢としての価値は無くなった。
その事自体は、やはり心に圧し掛かるものがあるにはある。
ただでさえ学院にも通えない可能性が高く……言葉は悪いが、売り物にするには厳しい条件だったのだ。
それでも子爵位以下の低位貴族、安定した商家、高位であっても後妻等ならワンチャンあったかもしれない。
しかし身体に傷が残り、更に後遺症までとなると、最早商品価値はゼロだ。
嫁げなければ、侯爵家にとってはお荷物でしかない。
医師達も、令嬢にとって死刑宣告に近い話をするのは辛かったのだろう…揃って俯いていた。
重い空気の中、医師達やスザンナ達侍女も一旦退出し、現在は室内にエリルシアと両親だけになっている。
エリルシアはベッドから上体を起こそうとするが、痛みで失敗してしまった。
諦めてベッドに身を横たえたまま、静かに言葉を紡ぎ出す。
「お父様、お母様、申し訳ございません」
淡々と紡がれた言葉に、ティルナスもエリミアも、石化してしまったかのようだ。
「貴族令嬢としての価値は私にはなくなってしまいました。
ですので、早々に籍を抜いてください。
動けるようになり次第、領地に戻り、邸からも出ていきます。
………家にとって役立たずになってしまい…本当に…申し訳ございません」
「馬鹿な事を言わないで!!」
普段からおっとりとして、父ティルナス同様頼りなく見える母エリミアの怒鳴り声等、エリルシアは初めて聞いた。
初めても何も、物心ついてから顔を合わせた事も数える程しかないのだから、当然と言えば当然である。
「傷なんかどうだっていい、エリィは私の大事な娘なの!
それは変わらないの!!
だから……お願いだからそんな事を言わないで!!」
狂ったように泣き叫ぶエリミアを抱き締めながら、ティルナスも頷く。
「エリミアの言う通りだ。
エリィは役立たずなんかじゃない…。
こんな事になってしまったのも、私達がエリィを呼び寄せたから……私達のせいだ…許してくれ…」
ティルナスはそう言うが、誰のせいでもないとエリルシアは思う。
あえて言うなら巡り合わせ、だろうか…。
けれど、どんな言葉なら両親に届くのだろう……気にしていない、と…言えば言う程、両親の心に影を落としてしまいそうだ。
そんな事、エリルシアは望んでいないのに。
―――コンコンコン
痛ましい嗚咽に塗れた空気を、小さなノックの音が切り裂いた。
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