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「だいたいわかってます?
そういうのを際限なく受けてたら、領地の事は後回しになっちゃうんですよ?
そんな茶番に時間を割いてる暇なんてないのです!」
「で、でも……」
「でもも案山子もありません!
絶対に嫌です!
嫌ったら嫌です!!」
「うぅ……」
とうとうティルナスは、情けなく指先をつんつんと突き合わせて凹んでしまった。
膠着した室内に、沈黙だけが落ちていく。
それを小さなノックの音が破った。
その音に、ティルナスがパッと顔を上げる。
「ど、どど、どうぞ!」
重く圧し掛かる静寂から逃れられるとでも思ったのだろう。
表情には明らかに安堵の色が広がっている。
開かれた扉から入ってきたのは、先程泣き崩れたまま退室していった母エリミアだ。
結構な音量で張り上げたエリルシアの声に、気が気でなくなったに違いない。
「エリィ…貴方が怒るのも当然だわ。
親である私達が不甲斐無いばかりに……ごめんなさい。
まだ小さなエリィにばかり苦労を掛けて……許して頂戴」
悲し気な瞳を潤ませるエリミアに、今度はエリルシアの方が言葉に詰まる。
貧乏籤なんて絶対に真っ平御免なのだが、母にそんな顔をさせたい訳ではない。
「本当なら私達が食い止めないといけない事…。
それが叶わないなら、せめてエリィではなくティルが見合いをすべきなのだけど……あの子では到底……」
エリミアは項垂れるようにして肩を落とした。
そのエリミアを慰める様に、ティルナスが肩を抱き寄せる。
娘の前で恥ずかしげもなくいちゃつく両親に、思わず溜息が零れそうになる。
なるが……エリミアの言葉を反芻するように、エリルシアは一人思考の海に沈んだ。
(そう…ね。
お姉様じゃ確かに、思った事を直ぐ言葉にしてしまうし、その場凌ぎで適当な事を言ってしまうだろうし……百戦錬磨の貴族達相手では、簡単に丸め込まれてしまうだろうし!……………あぁ、御祖母様じゃないけど、ほんっと頭が痛いわ…)
最早逃げ場がない事はわかっている。
だが、心底嫌なのだから仕方ない。せめて抵抗くらいはさせて欲しい。
何より骨折り損の草臥れ儲けはしたくない。
だったら交渉するしかないだろう。
「……はぁ、わかりました」
がっくりと肩を落とし、嫌悪も露わな態度を隠しもしないエリルシアに、それでも両親はパァッと顔を輝かせた。
「ですが…」
両親が揃って『うっ…』と呻く。
「お父様お母様に無茶を押し付けた事を、公爵様達もわかっていらっしゃるんですよね?
それだけでなく御自分達が逃げたと言う自覚も」
「…それは………まぁ…」
「………え、えぇ…多分……だけど…」
エリルシアは冷ややかな視線のまま、座り直した。
「王陛下、王太子殿下御夫妻も……?」
ティルナスが大きく頷く。
「王陛下は申し訳ないとおっしゃって下さったと聞いている。
だからわかっていらっしゃると…思う……伝聞だし、自信はないけど…」
『てへ♪』とばかりに引き攣った笑いを追加する父親を睨み付ければ、『ヒッ』と声を漏らして震え上がった。
「では条件を……。
こんな王都くんだりまで出向かされたのです。
何のメリットもないままと言うのは、流石に困ります。
私が領を離れている間は、ポーラとゾラックが老体に鞭打って頑張ってくれているのです。
直ぐに戻るとしても、何らかのお土産は欲しいです。
ですので、王子殿下と会えと言うなら本気で嫌ですが、条件次第で妥協します」
ゴクリと喉を鳴らす両親に、淡々と続ける。
「では…追加の支援が欲しいです……出来れば無利子で…」
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
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