52 狭間の物語 ◇◇◇ レヴァン2
ビクつくケラックの脇を通り抜け、レヴァンは父親の執務室へ向かう。
執務室の扉をノックし返事を待って入れば、祖父だという現ロージント公爵も居た。
「あぁ、レヴァン、どうしたんだい?」
声を掛けてきたのは父親だそうで、名をウッカー・ロージントと言う。
現王ホメロトスの弟らしい祖父ジョストル譲りの、青みがかった金髪の男性だが、柔和な顔立ちは祖母の方に似たのだろう。
他人事な物言いになってしまっているが、家族としての記憶も感覚も…何もかもが希薄なのだ。
レヴァンはウッカーに近付き、先程ケラックから少々強引に奪った袋を無言で差し出す。
すると何故か、ウッカーはにこりと表情を和らげた。
「あぁ、もう見たのかい?
少し早い気もしたんだが、レヴァンも来年には学院に入るだろう?
だから丁度良いかと思ってね。
御令嬢の生家であるユーソム子爵家は「お断りします」……え?」
レヴァンの無表情から感情を読み取るのは難しいだろうが、それでも纏う空気は決して穏やかじゃない。
それなのにウッカーは空気も気配も読まないのか、それとも読めないのか……。
レヴァンの一言に目を真ん丸にして固まっている。
丁度いた祖父の方は一見無表情だが、微かに眉尻を跳ね上げていたので、何か感じているかもしれない。
「えっと…気に入らなかったかい?
姿絵は入っていたと思うけど、ま、性格は…会って話してみないとわからないと思うよ」
ウッカーは話を聞けない人物なのだろうか……。
レヴァンは『断る』と言ったはずだ。
レヴァンとウッカー、双方を見てから、祖父ジョストルが口を開く。
「ウッカー…何の話だ?」
「え? あれ? 話してなかったっけ?
いやぁ、丁度良いタイミングでユーソム子爵家から、レヴァンに婚約話が持ち込まれたんですよ。
どんな御令嬢か知らないんですが、子爵家自体はそこそこ裕福で安定しているので、悪い話でもないかな~っと…」
本気で空気が読めないのかもしれない……いや、自分はレヴァンの為になる事をしていると思い込んでいるのだろう。
もし本当にそうなら、始末に悪いタイプだと思う。
ジョストルも小さく嘆息した。
現王ホメロトスの弟なのだから当然だが、ジョストルも結構な年齢である。
それでも未だ実の息子であるウッカーに爵位を譲らないのは、もしかすると彼の性格…と言って良いかどうか悩ましいが、そのせいで譲りたくても譲れないだけかもしれない。
「ウッカー、レヴァンは此方に戻ったばかりだ。
にも拘らず婚約話だと?
どう言う事だ?」
「あぁ、先日の夜会でトゥリパン公爵に会ったんですが、レヴァンの事を聞かれましてね。そろそろこっちに到着すると言う話をしていたんです。
それを聞かれたのかも……ですね」
レヴァンはその『トゥリパン公爵』とやらの為人を知らないが、ジョストルは知っているようで、今度は盛大な溜息を吐いた。
「ウッカー……お前は本当に…」
「え?」
大の男がきょとんとしても、可愛くとも何ともない。
いや、何ともなくはない……間違いなく苛々は助長されている。
「断っておけ」
「ええ!? ですがもう会う日取りも……」
祖父ジョストルはレヴァンの意を汲もうとしてくれたようだが、父親であるウッカーが踏み躙って行く。
「本人の意思も確認せずに日取りまで決めたと申すか」
ジョストルの様子に、流石に不味い事をしたかもしれないと、やっと思い至ったらしい……。
ウッカーはビクリと縮こまった。
「本当にお前と言う奴は情けない……。
自分の息子を何だと思っておるのだ…恥を知れ。
それにしてもトゥリパンか…あぁ、レヴァンの帰国が知れ渡ってしまうな…はぁぁぁ」
誇張でも何でもなく、ジョストルは顔を顰めて額を押さえた。
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