51 狭間の物語 ◇◇◇ レヴァン1
夜も明けないうちに目が覚めたのは、まだ部屋に慣れていないからだろう。
部屋だけでなく、全てにまだ違和感を覚えている。
隣国ネデルミスにある全寮制の学校に、幼い頃からレヴァンは預けられていた。
もう誰からも忘れられていて、そのまま朽ち果てるのではないかと思っていたくらいだが、思いがけず帰国要請の手紙が届いたのだ。
もう家族とか言う人々の顔形も、綺麗さっぱり記憶の彼方で、なんで今更…と思った事も事実。
だが、寮も学校も、レヴァンにとって居場所とは言えない場所だった。
誰に似たのか、無駄に顔面偏差値が高く、学内では令嬢達だけでなく令息達の、熱く煩い視線と声に辟易していた。
寮に帰った方がベッドもあるのだが、下手をすると帰寮途中で身の危険に晒されるかもと思えば、校内の研究室に籠る事がマシだった。
性別問わず懸想する…レヴァン自身が対象にならないのであれば、他人の性癖なんて興味もないし、好きにしてくれと思うだけだが、対象が自分になるなら話は別。
同性に襲われそうになるとか、理解不能を通り越して悪夢でしかない…いや、女性に襲われるのも当然嫌だったので、研究室に籠らざるを得なくなった。
おかげでずっと成績1位をキープ出来た事だけは、救いかもしれない。
手紙が届いて暫く経った頃、迎えの馬車がやって来た。
世話になった講師達に挨拶を済ませ、レヴァンはひっそりとネデルミス王国を出立する。
急ぐ旅でもなかったのか、無理のない旅程が組まれていて、生家だと言うロージント公爵邸に到着するまでに随分と時間を費やした。
それほど時間をかけて戻って来たのに……。
「…慣れないものですね…」
レヴァンは小さく溜息を零した。
ずっと一人だった為、レヴァンは自分の準備は自分で出来る。
ベッドを降りて身支度を整えていると、部屋の扉が微かにノックされた。
レヴァンの返事で扉を開けて入ってきたのは、従者としてつけられた中年の男性で、名をケラック・ギヨレーと言う。
穏やかな雰囲気と顔立ちで、若い頃は商人だったと聞いている。
彼の妻ロコアもロージント邸で働いているが、ケラック同様レヴァンのほぼ専属になるらしい。
そして護衛騎士には、彼等の息子であるヨハスが配された。
この一家はレヴァンの迎えにも来てくれていたので、他の使用人よりは馴染めている……かもしれない。
「レヴァン様、もう起きてらっしゃるんですか?
まだ成長期なのですから、もう少し休んで下さい」
物音を聞いてやってきたのだろう。
心配そうな表情に、レヴァンは困ってしまう。
とは言え、その感情が表情に出ないので、愛想のない子供だと思われているに違いない。
表情筋が死んだとは思わないが、仕事をしていないのは本当の事。諦めて慣れてくれと願うより他ない。
レヴァンはふと、ケラックが抱えた厚みのある袋に目を止める。
「それは?」
レヴァンの問いかけに、ケラックが困惑の表情を浮かべた。
「ぁ…これは……」
言うべきか、それとも言わざるべきか……そんな葛藤が隠せていない空気を感じ、レヴァンは無言で手を差し出した。
渡せと言う無言の圧力に、ケラックが肩を落とす。
「レヴァン様…気配が怖いですよ。
それにどうしてそんなに察しが良いんですかね…」
渋々と言った体でレヴァンに袋を渡せば、さっさと中を検め始めている。
無表情で眺めているが、室内の温度がどんどん下がって行く気がして、ケラックは震え上がった。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
もし宜しければ、ブックマークや評価、リアクションに感想等々、とても励みになりますので、何卒宜しくお願い致します。
ブックマークや評価等々くださった皆様には、本当に本当に感謝です。
誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~等々が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つけ次第ちまちま修正したり、こそっと加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>




