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「そんな訳で……すまない…隙をつかれた。
王家の暴走と言うだけなら、侯爵位でも抵抗出来たかもしれないのだが、公爵家も静観の構えのようでな…」
「はぁ……」
エリルシアは考える。
「つまり私はスケープゴートって奴に選ばれたって事ですね?
王家のハリボテの体面を保つ為、身分だけでも高位貴族の令嬢と、一度でも見合いさせたという既成事実を作らせとこうって事でしょうか…。
それは伯爵位以下に納得させる為ですか?」
ティルナスがポカンとした豊穣で、自分の娘を見つめる。
「おま……どこでそんな言葉を…と言うか、本当に8歳か?」
信じられないと言いたげな父親に、エリルシアは呆れるしかない。
「はぁ、たった一人領地で踏ん張る私が、いつまでもお子様でいられる訳ないでしょう?
まぁ……そんな現実も然りながら、何より…今は亡き御祖父様、御祖母様の教えの賜物です」
ふんすと鼻息も荒く、自慢げに胸を張りながら、エリルシアは祖父母の言葉を思い出していた。
―――私達の息子夫婦…エリィにとっては両親ですね。
―――性格も良く、私達も自慢です。
―――本当に良い子に育ち、良い縁に恵まれ、可愛い孫まで……。
―――ですが、どうしても甘い……抜けている所がある…。
―――本当ならこんな事、孫に言うなんて情けない事ですが…
―――エリィがしっかりしなくてはなりません。
―――同じ孫だと言うのにティルシーは勉強嫌いですし……
―――エリィだけが最後の頼みの綱なのです……あぁ、頭が痛い…
そうして幼子には厳しすぎる指導を受けてきたのだ。
(御祖父様、御祖母様、私、頑張ってます!)
呆ける父親は置いて、エリルシアは胸元で手を組んで目を閉じ、天国の祖父母に話しかけていた。
祈りを捧げ終わったのか、エリルシアは顔を戻すと、スンと半眼になる。
「はっきり言って良いのでしたら……嫌です。
そんな狂言に付き合ったって、何も利益がないじゃないですか。
私にも、我が家にも!
どうせ公爵様達に、済まないが形だけでも…とかなんとか言って迫られて、断り切れなかったのでしょう?」
「エ…エリィ…」
ズイッと詰め寄るエリルシアに、父親の威厳もなくティルナスが身を引いた。
「まったく……御自身のやらかしは、お父様自身がどうにかしてください。
領地の事は、お父様もお母様も王都での仕事もあるからと、私が頑張る事も吝かではありませんが……。
お父様の言葉じゃないですけど、私、まだ8歳なんです。
社交だとか駆け引きだとか、そういうのと無縁でいられる年齢のはずですよね?
なのに、そう言う面倒を子供に押し付けるって、どうなんですか……」
「ぐ………」
ぐうの音も出ないとはこの事だろう。
次第に汗を浮かべ始めたティルナスに、エリルシアは追い打ちをかける。
「嫌ですからね」
「……そ、そうは言うが……こう、貴族の令嬢として、だな…」
冷ややかに父親を見据える。
「貴族令嬢ねぇ…。
私、ドレスで優雅にお茶だのお菓子だのと、ゆっくりする暇なんてないんですけど。
毎日擦り切れた服で、新たな魔具を探そうとギルドに依頼を出しに行ったり、自分でも遺跡に潜ったり……おかげで冒険者ランクがまた上がりました。
水の取引も待ったなしですし、食糧確保も手を緩める事は出来ません。
果ては農作業に害獣、害虫……魔物も交じりますね、それらの駆除。
一番大事な新しい水脈の探索!
他にも上げ始めればキリがありません!
これのどこが貴族令嬢なんですか!? 私は義務を果たしていないと言うのですか!!??」
「う……す、すまん…」
あくせくと働く労働幼女の現状を突きつけられ、ティルナスはたじたじになった。
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