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「……ぇぇ、まぁ……間もなく領地に戻りますので、お土産を買いに……」
苦虫を思い切り噛み潰した顔で言ってから、エリルシアは今度はきちんとカーテシーをする。
「ですので、公子様もどうぞ御自身の仕事にお戻りになって下さい。
失礼致します」
さっさと身を翻そうとしたのに、レヴァンが遮る様に手を差し伸べてきた。
「まさか、貴方一人で出かける事を見過ごすような真似を、私がするとお思いですか?
心外です」
大根役者っぷりがいっそ清々しい。
大仰に泣き真似して見せるレヴァンに、エリルシアは思わず憐憫の目を向けた。
「どうかこの哀れな私にエスコートさせて頂けませんか?」
指先まで洗練された所作でエスコートをさせて欲しいと請うレヴァンに、エリルシアは声には出さず……。
(いやぁ、まさに貴公子って奴か~そうか~(棒読み)
けど、何もかも芝居がかってて、ちーとばっかし嘘くさい…なーんて思う私は、貴族令嬢と言う生物にはなれないのかもしれないわね…。
こんな美形だし、似合ってはいるのだけど……はぁ)
前世以前の記憶が戻ってからと言うもの、内心の口が悪くなる一方なエリルシアであった。
エスコートは丁重に辞退する。
当然だろう、エリルシアは我が身が可愛いのだ。御令嬢方々からの敵意等ノーサンキューである。
隣国から戻り、王子の側近となってからまだ日が浅く、社交界にもほとんど顔出ししていないと言うのに、御令嬢方々のハートを既にガッツリと掴んでいる。
こういう言い方はどうかとも思うが、害虫がくっついた王子殿下より、身綺麗な公子様の方が、御令嬢達にとって好ましく、ぶっ刺さるものがあったと言う事だ。
とは言え父親の仕事にキリがなさそうなのも事実。
唸るエリルシアに、官舎館まで戻る時間も勿体ないから、ロージント家の馬車を使おうとレヴァンが提案してきた。
瞬時に御令嬢方々からの敵視と嫌味による嵐、それと、領へ帰る為の土産ゲットの為の諸々を天秤に掛ける。
まぁ、メリットデメリットで考えるエリルシアの悪い所ではある。
今晩以降、エリルシアとレヴァンの話が、そこここで交わされる未来を予測し、降りかかる火の粉を懸念する事は出来る癖に、現状にメリットがあれば迷った末にそれを優先してしまう可能性がある……それだけの事。
これまでの生活を思えば仕方ないだろう。
自分に無頓着な所があり、達観した空気を醸すエリルシアに、未来の社交界や縁の薄そうな御令嬢方より、領と自分のメリットを優先するなと言う方が無理である。
それでも細やかな抵抗はする。
同行は渡りに船でも、エスコートは丁重にお断りする。
ロージント公爵家の馬車に乗り、商店の並ぶ区画へとレヴァンが御者に指示を出した。
静かな室内…と言っても別に二人きりではない。
レヴァンとて、その辺りの事には配慮してくれているようで、自身の従者と何故かスザンナも同乗させていた。
並んで座っている訳ではなく、端の補助席に静かに座っているだけだが…。
沈黙が重く、エリルシアは堪らずスザンナと従者に謝った。
「ごめんなさい。お父様と買い物にと思っただけなのです。
それなのに、結局スザンナさんや従者さんにも迷惑をかけてしまって……」
「エリルシア様、そのような御顔をなさらないで下さい。
出来れば最初から私におっしゃっていただけたらと思いはしますが、この短期間では、まだエリルシア様のご信頼を得るに至れなかった私の不徳でございます」
エリルシアとスザンナのやり取りと見ていたレヴァンが、ふっと気が抜けた様に笑った。
それに目を瞠ったのは従者の男性。
「レヴァン様のそのように安らいだ御顔…初めて見ました…」
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