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領地では冒険者としても活動していて、ランクは既に5階級である。
前世的感覚から言えばCランクに相当し、中堅入りしようかと言った所。
8歳という年齢では異例の昇級スピードだ。
強い魔物が出没するとかではないが、そこそこの魔物や獣は途切れる事なく現れるので、日々対処している間に、討伐数だけは稼いだと言うのが実情である。
今世ではそれが上限で、それ以上に強くなる必要もなかったから、自分でも必要最低限のレベルだなと笑ってはいたが……ラフィラスに出し抜かれたのは、少しばかり凹んだ。
「……ウィス……エリルシア嬢?」
不意打ちのように名を呼ばれ、ハッと顔を上げる。
酷い顔をしていたのか、ラフィラスは驚いたように身を引いて悲し気に目を伏せた。
「ぁ、ご、ごめん……そのダメかな……?
僕が名で呼ぶのは……」
「ぇ…ぁ………その…公子様にも話した通り、色々と差し障りがあるかと……」
内心で勘弁してくれと頭を抱えたくなった。
エリルシアは前世以前の記憶があると言う部分を除けば、今はただの女の子でしかない。
貧乏だから日々忙しかったし、お洒落だなんだに気を回すより、知識を蓄え実績を積み上げる事を優先せざるを得なかった。
祖父母が他界してからは、更に領地経営の為に覚える事も多く、冒険者活動も領資金の足しにと思えば、休む事なんて出来なかった。
そんな已むに止まれぬ事情のせいで、女の子である事を後回しにするしかなかっただけなのだ。
だから、ラフィラスやレヴァンの様な、所謂美形を前にそわそわしてしまうのも、当然と言えば当然なのである。
しかも此処へきて、妙に思わせぶりな言動行動となれば、気持ちがふわふわしても仕方ない。
だが…と、エリルシアはふるんと首を振って、自身の頬をパシンと叩いた。
(しっかりしなさい、エリルシア。
貴方はただの生贄……スケープゴートでしかないの。
浮かれて舞い上がったって、後で泣きを見るのは自分なのよ。
……大体8歳よ?
最初から成立する話じゃなかったのだから、分を弁えなさい。
伯爵家以下、もしかしたら更に低位貴族の婚約者を迎える事になるかもしれないから、王家としても仕方なかったのだと他貴族達に見せ、納得させる為の茶番でしかないのよ。
それに王子サマには既にお姫様がいるの。
もう姿を見かけなくなって結構経つけど、アーミュさんとの告白劇を目撃したのは自分でしょう?
誤解して曲解して……自分に都合良く考えるのは止めなさい…)
兎に角話題を変えようと、エリルシアは周囲を見回し、ラフィラスが一人である事に気が付いた。
「あら……王子殿下、公子様は御一緒ではないのですか?」
突然の話題転換についていききれていないのか、ラフィラスは一瞬ポカンとする。
だがすぐにムッと眉間に皺を寄せた。
「エリルシア嬢はレヴァンが居ない事が気になるの?
レヴァンの方が良いの?」
「いえ、良いとか悪いとか…そう言う事ではなく、公子様は王子殿下の側近でいらっしゃいます。
御傍近くに控えているものではないかと思っただけです。
それと、名は家名でお呼びください」
ラフィラスが眉間の皺を緩める。
「……ごめん。
レヴァンは撒いてきた。
僕が君と……エリルシア嬢と二人で会いたかったから」
しれっと名前の件はスルーされてしまった……くそう…。
本当に仕方のない王子サマだと思う。
彼の恋心はアーミュのモノで、エリルシアに向けられているのは義務感や責任感と言った、とてもドライなモノ。
名を呼ぼうとするのも、レヴァンに対する対抗意識と、対外的に見せる為の演技にすぎない。
そのレヴァンにしたって、自分より幼い女の子に対する、軽い揶揄いの様なモノだろうから、本当にいい迷惑である。
最初から成立するはずのない、お子様な婚約者候補を尊重しようとしてくれているのだから、それだけでも十分だと…エリルシアは自分に言い聞かせる。
実際に剣を交えた事はないが、子分扱いなのも影響しているかもしれない。
まだ女性らしい曲線を描く事のない胸に、ツキリと鋭い痛みが刺さった。
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