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其処へ、天の助けと言っても過言ではない言葉が飛び込んでくる。
「……お待ちください」
声の主は思いがけない人物…。
王太子だ。
――ラカール・ロズリンド――
王家の求心力低下の起因となった人物だ。
『だけど』…と、エリルシアは室内に視線を走らせる。
ムッと表情を歪めているのはホメロトス王だけで、ジョストル・ロージント公爵と護衛騎士は無表情のままだ。
フィミリー王太子妃とリモン・ギアルギナ公爵は、何処か気遣わしげな表情で、マーセル・ギアルギアは『困った』と言いたげに視線を泳がせている。
ちなみに父ティルナスはと言うと、おろおろと落ち着きがない。
「お前の発言は認めておらん」
「王陛下……ですが…」
「ええい、くどい!
この場に同席させてやっただけでも、ありがたいと思え!
それを口を挟む等、許し難い!
出て行け!!」
先程までの好々爺っぷりが嘘のように、怒りで顔を赤くしたホメロトス王に室内の緊張が高まった。
悔しそうに唇を噛みしめるラカールに、気遣わし気な表情を浮かべていた二人が、更に表情を暗くしている。
だが、その張り詰めた空気はロージント公爵ジョストルによって、あっさりと打ち砕かれた。
「ですがまぁ、先に条件の確認をしませんとな」
ジョストルがエリルシアへ顔を向ける。
「ウィスティリス家…あぁ失礼、ウィスティリス嬢からの条件は無利子融資…でしたかな?
ウィスティリス領の状況は調査し、ラカール殿下の口添えで兵団の派遣が決定済みですぞ。
融資の方は中央から無利子無期限で行うよう手配済み。僭越ながら我が家他からも、些少ではありますが見舞金を予定しておりますな」
何だかさらに手厚くなっている気がする。
(見舞金だなんて……もしかして返済不要とか!!??)
思わず目を輝かせたエリルシアを、王太子ラカールの声が現実に引き戻した。
「済まない…。
ウィスティリス領は自助力が高く、先に隣接領の復興を優先した為、後回しになってしまっていた…。
其方の近隣領の復興は目途が立ったので、今後は最大限の支援をさせて貰うつもりだ。
こんな茶番に巻き込む事なく、支援の手を伸ばすべきだったのに……本当に済まない」
辛そうに伏せた目元へさらりと落ちる髪色が、エリルシアの記憶を刺激する。
(…ん?
あの色……何処かで…)
だが、一瞬浮かんだ朧気な記憶よりも、広がる違和感の方に、エリルシアの意識が占拠された。
―――ラカール王太子は、本当に愚を犯した人物なのだろうか?
―――あまりに印象が違わないか?
成立していなかったとはいえ、国家間の関係性に影響を及ぼすような…しかもそれが恋愛絡みというのが、どうにもしっくりこない。
王族としての責務より、己を優先するような人物に思えないと言うのが、エリルシアの今の印象だ。
この部屋で、狼狽えるばかりの父ティルナスは横へ置くとして、ホメロトス王以外の反応は、そこまで王太子に否定的ではない。
当然だが、王家の一連の話は、祖父母から聞かされた事はある。
隣国…ネデルミス王国の公爵令嬢だった祖母ティリエラ・ウィスティリス(旧名はティリエラ・フランダルと言う)が、それに関与した結果、母エリミアがネデルミス王国から嫁いで来る事となり、マグノリア公爵家の令嬢がネデルミス王国に嫁いで行って、手打ちとなったと言う経緯があった為だ。
その時に王家の求心力低下他の話も聞いていて、現王家はハリボテのお飾りなのだなと思った記憶がある。
だから、てっきり原因となった人物……ラカール王太子に対する悪感情は拭えていないと思っていたのだが、どうやらこの場で悪感情を持っているのは、ホメロトス王だけのようだ。
まぁ、これまでは自領の再建に必死で、中央の事まで知ろうとする余裕もなかったのだから、仕方ないと言う所だろうか…。
何しろ自分の両親の忙しさも、今回王都に来て初めて知ったくらいだったのだから。
「ですが……これは王宮にて王子殿下に会って貰うと言う、ただそれだけです。
そう言う理解で宜しいですな?」
へらりと口元を緩めるジョストルの目には、違った色が見えた気がした。
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