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旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
5 終わりと始まり
22/246

青髪の聖女

 フォレストパレスの三階にある一室。宮殿だけあって豪華の極みだが、この部屋だけは特別だ。窓は広くとも鉄格子があり、部屋の外には番人がいる。


 広い部屋なので圧迫感はそれほどない。あるとすれば魔術書や恋愛小説などが山積みになり、いくつも塔ができているせいだ。読書しか娯楽が無いし、何度も脱走した。自業自得の結果がこれだ。


 逃げなければ檻は不要なのだが、すでに王宮神官たちの信頼を失い、王命により監視が厳しい。外出は認められず、必要なものは誰かに注文しなければ手に入らない。

「ああ~! 今日は新刊発売日なのに!!」


 シェヘラザールはやきもきしてベッドでふて寝する。



「!?」

 すぐに天蓋ベッドの分厚いカーテンを広げ、薄暗がりにする。


 頭から布団にもぐり、枕の下から鏡を取り出した。うす暗い中で、魔力を込めると鏡が黄金色の光を放っているが、非常に不安定だ。


 ――ハルトが危ない!


 シェヘラザールは回復の呪文を唱えたり、魂の保護呪文を唱えたりした。何度も繋がりが途絶えそうになり、苦戦しているようだ。


 ――まったく誰よ!? アタシの子に手を出したら承知しないわよ!


 “加護を送るね! 負けないで!”


 シェヘラザールは両手を組んで一心に願う。

 魂はまだ繋がっている。生きている証だ。


 出会ってから五年、何回も浅利陽翔と会話してきた。勇者を職業にしないで済んだ唯一の生き残り。浅利陽翔はハルトとして兄を守っている。それだけが彼の願いであり存在意義であるから、兄が傷つくようなことがあったら、陽翔も無事では済まない。


 ――何が起きているのかな。なんか心配。


 それから数日を経て、一通の手紙が届いた。

「ええ! ハルトがエルダールに向かっているの!?」

 治療は必要。けれどフォレストパレスで治療となれば、その後は勇者になるしかない。それは誰もが望まないこと。



 ※    ※    ※



 その日はシェヘラザールにとって、特別な日であった。


 まず、王都で流行している魔術書を手に入れた。


 その名も「1000% オトナ美人アップ術」

 超絶イケメン神官エストワールに振り向いてもらうためという理由で、シェヘラザールは内緒でこの本を注文した。


 15ページ。美人オーラを出してみよう

 52ページ。髪色自由自在! オトナな髪型魔法。

 95ページ。大人っぽくなるための10の方法


 シェヘラザールは密かに練習を重ねた。鏡の前でいつもと違う自分に惚れ惚れしている。青色の髪、手に入れた大人の豊満なナイスバディ。あとはこの子供っぽい顔を化粧でどうやって変えていくかだろう。


 メイドのアンナから私服を借り、準備は完璧だ。別人に変身するのは楽しい。


 コンコンと扉を叩く音がする。

「シェヘラザールさま。ファトン公爵さまがお見えになりました」

「お通しして。皆には内緒よ!」

 実はエストワールなんてどうでもいい。作戦は確実に良い方向へ進んでいる。


 アンナは不審な顔をする。

「先日まであんなに嫌っていらしたのに……どういうお心変わりでしょう」

「見て、どう思う? 大人っぽくなった?」


「魔法ですから。もはや別人です」

「そう、ありがとう!」


 アンナは感謝されて、顔を引きつらせた。

「またですか? ファトン公爵は悪い方ではありませんが……どうかお気を付けて」


「アンナ、ごめんね。どうしても助けたい人がいるの」



 そして数時間後、エルダール郊外の森で馬車が発見された。ファトン公爵は何者かに殴られ、気を失っていたが同乗者はいなかった。


 シェヘラザールも見つからなかったが、王宮神官たちはあまり騒がなかった。それは今までの脱出計画がことごとく失敗しており、必ずといって良いほどフォレストパレス内で見つかってきたからだ。


 しかしエストワールだけは見抜いた。内緒で本を手に入れたという情報とファトン公爵の来訪。そこに陰謀の匂いを嗅ぎつけた。ファトン公爵の性格を考えると、外へ逃げた確率が高い。


 そこで助っ人を連れ、シェヘラザールを追跡した。聖女と勇者の繋がりが深いほど、お互いの居場所が分かるというから、フォレストパレスをうろついていた元勇者を連れていく。


 そして街はずれの小高い山の頂上に到着した。馬車からもそう遠くない距離である。少し開けた草原で、青い髪の娘が立っていた。


 両手を空に掲げ、何か呪文を唱えている。姿は違うが、魔力の質とオーラは隠せない。

 エストワールは音もなく背後に近づいた。


「冗談にもホドがあります。まさか本気で逃げる気でしょうか?」


 ドッキーン!!


 シェヘラザールが舌打ちしたので、エストワールは血管がキレそうだ。


「可愛い顔がその容姿と態度で台無しです。素直さが貴方の良いところではありませんか」


「褒めてくださるの? それとも皮肉かしら。連れ帰るためには心にも無いことをおっしゃるのですね」


「貴方は家族ですから、ちゃんとしてもらわねば困ります」

 平民から貴族に格上げしたのは聖女になるための王宮の都合だ。血の繋がった家族とは程遠い。けれどエストワールの権力は魅力的だ


「家族として認めていただけるなら……ひとつお願いをしてもよろしいでしょうか。もしそれが叶うなら……素直に帰ります」

 シェヘラザールはいつになく真剣な顔でエストワールを見た。

「いいでしょう」


※    ※    ※


 その時、空色の荒鷲が降り立ち、ほぼ同時に小太郎が草むらから飛び出てきた。


 エストワールは驚いたが、それ以上に小太郎が驚いた。エストワールに同行していたのはジェット・モーガンであった。

「お? おう、久しぶりだな」


 エストワールの困惑を無視し、ジェットは前に出て、小太郎と慰め合う。

「ディスカスは残念だった」

 ジェットの言葉に小太郎は無言で頷く。手紙で事情は伝えてあるが、想いを理解できるのは、この男しかいない。


「クラムをもらう」

 ジェットは小太郎の耳元で囁く。

「――何?」


「シェヘラザールの意思だ。事態は重篤で完治には数年を要する」

「まさか勇者にするつもりか!?」


 それは小太郎の予定にないことだ。

「俺が預かれば、小太郎はキャラバンに戻れるだろう。任務を怠るなよ?」


 小太郎は沈痛な面持ちで即答できずにいる。

「あいつは俺とディスカスの息子だ。宿屋になりたいそうだ。勇者にはならんぞ」

 ジェットは呟く。

「俺が鍛える。三人で俺たちの夢を叶えよう」


 シェヘラザールは一目散に走り、リリーの足元に転がる幼子を抱きしめた。眩しいほどの回復の光に、周囲の木々まで反応して異常なほど成長していく。


 光が収まると、二人は草と木に埋もれていた。

 ジェットと小太郎は慣れた動作で草をはらい、エストワールはその後方をついていく。


 茂みは深く濃くなり、草の壁に突き当たった。大きい蕾は固く閉じているが、中は空洞のようである。


 小太郎が剣を抜くと、ジェットが諫める。

「話し声がする」


 三人で蕾の壁に耳をあててみる。


 ※    ※    ※


 意識不明でリリーに運ばれ、気が付くと特別な場所にいた。


 窓も出入り口もない球状の空間。壁が光り、狭い部屋は白く明るい。


 俺は壁に凭れかかって、足を投げ出している。視線の先はつま先にあった。

 すらりと長い足に、お気に入りのブランドスニーカー。


 ――あぁ、これ手にいれるのに苦労したんだよな。久しぶりに履いたな。日本人向けのサイズが無くて……。


「――え?」

 左手をみると、大人の手。昔、包丁でざっくり切った傷もある。


 ――昔の俺だ。


「兄さん! ぼうっとして大丈夫?」

 肩を揺さぶられて、息を呑む。鏡かと思ったら、頬に小さなホクロがあった。


「……あ、――あぁ」

 元気な陽翔が目の前にいた。


「陽翔ォ~!」


 押し倒して、ムギュッと抱きしめた。俺と限りなく似た大切な存在を、めいっぱい感じている。

「夢じゃないよな?」


「兄さん、大げさだよ。ずっと一緒にいただろ?」

「だって5年ぶりだぞ? やっと逢えた」


 ものすごくホッとした。

 もう泣きじゃくって、よく見えない。


 あの雪崩の日から、何年も無事であってほしいと願った。それがこうして無事な姿で現れてくれた。


 陽翔の笑い方が好きだ。その頬に触れ、実感する。

「――あ」


 一翔は青ざめた。幸せはいつだって一瞬で、長く続かない。


 陽翔の身体はじわじわと透明化して、存在が希薄になっていく。

「これで本当にお別れかな……」

「なんで!」


 陽翔は首を傾げる。

「兄さん、楽しかった。今までありがとう。あとは頼むよ」


 俺は耐えられない。今、やっと触れ合えたのに、これが最後だなんて!


「どうして! 俺が魔法使ったんだ! 消えるのは俺でいいだろ!」

 陽翔は言葉もなく、身体から光を放ち、眩しい塊になった。その黄金色の光も、どんどんは弱く、細く、小さくなっていく。


「嫌だ。やだよ。――こんな終わり方ないよ……俺が先なんだよ、一番に翔るのが俺なんだから、順番守れよ」


 “そうよ!”

 女の声がした。


「ちょっと、待ったぁあああ!」

 青い髪の女が現れ、光になった陽翔を両手で捕まえる。

「陽翔、ゲットしたよ!」

 ウインクしてお茶目な若い娘だ。二十歳前のナイスバディであるけれど、見覚えがない。


「――誰?」

 一翔は茫然とし、それしか問えなかった。


「時間が限られているので、陽翔を救うわよ」

 女は勢いよく立ち上がる。

「――では! さっそく」


 ガン!


 天井に頭をぶつける姿に一翔はドン引きする。

「……」

 一翔はこらえきれず笑う。

「よ……よろしく。お願いします」


 そこで咳払いをひとつ。

「重大な危機なのよ! 身体はボロボロ、魂はもっとボッロボロ!! 身体の損傷が酷いために、身体との絆が浅い陽翔の魂が先に離脱した。


 アタシが作ったこの特殊空間だから魂が留まっているけれど、あと数分しか保てないの。その間にどうにか何とかするわよ! ――返事!!」

「はい!」


 ――何だ、この体育会系のノリ……?


「まずは肉体の補修! 加護が届くようにするから、アタシに一翔の魂をちょうだい。繋がりが深くなることで、劇的に回復できるし、魂が身体に定着するお手伝いができる」


「加護って、君は……」

「質問は後!」

「はい! スミマセン!」


「問題は、一翔の魂はすでに奪われて欠けてしまっていることなの。アタシがさらに魂をもらうと、一翔はたくさんの魂を奪われ、人格が破壊される。だから陽翔くんと合体するのよ」


 一翔はロボットが合体するのをイメージして問い返した。

「同じようなものよ。二人は似ているから奇跡的に馴染みがいいの!」

「今までと何が違うんだ?」


「貴方も勇者ハルトになる。ちゃんとひとつになることで今までの倍の力が出るわよ? ま、今まで半分ずつシェアしていたものを、一個体として二人分の実力で戦えるわけ!」

「良いことづくし?」

 まるで訪問販売だ。良い事ばかり並べたてられて、急ぎだからと契約をし、結局後悔することにならないか?


「大事なこと隠しているだろ。ちゃんとひとつになるとはどういうことだよ。陽翔に危険はないのか? 合体する必要があるのは魂が欠ける俺だけだ。本当に陽翔にプラスになることなのか」


 鋭いツッコミに彼女は窮した。言葉で説得できないならと、一心に一翔の手を強く握った。


「陽翔の魂が身体に戻るためよ! 大丈夫。魂の欠けてしまった部分よりも、陽翔の魂が多いでしょうから問題ないわ」


 フレンドリーさに思わず心を奪われる。

「でしょうから? それって予測だろ。足りなかった場合はどうなる」


 一翔は鋭く追及すると、都合が悪そうに視線を逸らした。

「完全に同一化して……二人の境目がなくなり、陽翔は消える」

 一翔は激怒した。

「そんなことさせるか!」


「揉めている時間は無いの! 早くしないと、二人とも死んじゃうから!! これで終わりになっていいの!?」


「陽翔の魂を早く身体に戻せ。もともと絆があるんだからそれぐらいできるだろ。俺が出ていく」


「出ていく? 魂だけじゃ生きていけないよ」

「俺なんてどうでもいいんだよ! このまま生きてもどうせライカに利用されるだけだ。生きていてもーー」


 バンッ!


 一翔は平手打ちを食らって目の前がチカチカする。

「殴る? おまえ聖女じゃ……」


 バン、バチッ!


 女だから弱いなんて、ただの一般論だ。往復ビンタで床に這わされ、一翔は精神的に折れた。

「アホ兄貴! アンタ双子でしょ! なんで陽翔の気持ちが分からないのよ!」


 ――そういう時に双子説を出すなよ!


「何のために陽翔が異世界に来たと思ってんの? アンタのためでしょ! 陽翔の最後の願いは何!」


 一翔は顔を真っ赤にして唇を噛んだ。メンタルの強さに呆れる。けれど、彼女は膝が震えていたし、息が荒いのはこの場所を維持するのに必死だからだ。酷い説得なのは非常時で時間がないのだろう。


 ――完敗だ。

「畜生」


 あとは頼むといわれても……。二人とも無事でいる方法は?

 無理なのか?


 いや、最初からムリだって決めつけるな。もっと考えろ。

 まずは陽翔の安全が第一だ。俺が魂を削られても、正常でいれば陽翔はそのままでいられる。


 アブソリュートコネクトされた時を思い出せ。拒否反応ですごく苦しかったのはあれがライカだからだ。嫌なのに、無理矢理奪われたから苦しかった。


 でも今は違うよな?

 名前も知らないけれど、陽翔の味方で、俺を救ってくれる。それにこれは直感で出た答えだ。

「君だから大丈夫だよ」


 一翔は陽翔の魂が入っている両手を包むように握る。

「この状態が始まったのは、俺たちが終わりの時だった。俺は陽翔を守りたくて、陽翔と離れるのが嫌で、いっしょに連れてきた。五年、二人で一緒にこの世界を体験して楽しかったことしか思い浮かばない。全部、陽翔がいたからだ。


 俺より優秀で、明るくて真面目で、お人好し。俺と違うところが大好きなんだ。だからその陽翔を俺が飲み込んで、消してしまうなんてありえない。万が一、そういう状態になっても、俺はそのままの陽翔で受け容れる」


 一翔は軽く咳払いをした。

「――それと魂を君と繋いで、俺の魂が欠けたとしても狂わないよ。俺は君の一部分になって、求め続けるってこと。だから……だから」


 時間が無いのに、一翔は言うに戸惑い、耳まで赤くなった。

「だから何? 何なの?」


「君を求める心でいっぱいになるだけ。それって君を狂おしいほどに愛するってことだ」


 三回も殴られて、説教されても悪い気はしなかった。すごく想ってくれて、必死に助けてくれる。降って湧いたような、特別な感情を抱いた久しぶりで自然なこと。

 嬉しかった。ちょっとドジするくらい活発で、こっちが心配になる。大好きなもののために一生懸命になるけど、要領がいいやら悪いやら。


 一翔は言いすぎたか心配だ。彼女は真っ赤な顔で混乱の極みだ。


 ――完全にテンパってるな。でも、悪い反応じゃなくてよかった


「アタシの名前も知らないのに! あぁもう、ホントに時間ないじゃん!!」

「一目惚れの何が悪い。終わったらいろいろ聞かせて。名前とか連絡先とかね!」


 魂が欠けているなんて嘘っぱちだ。実は溢れて余っているくらいだ。寂しくなんかない。陽翔もいる。キャラバンの人々、小太郎。ディスカス……皆に愛されてきたし、皆を愛しているから。


 そして俺が愛すべき存在がもうひとつ生まれた。

 心はいっぱいで、魂は叫んでいる。


 今すぐにでも、君に分けてあげたい。


「俺は君と直接繋がりたい。いい?」


 娘は頭の頂まで赤くなりながら、コクコクと頷く。フランスではこれくらい当たり前のことなのに、意外と恋愛慣れしていないみたいだ。


「ねぇ呪文を教えて。俺も唱えるよ」

 まるで結婚式の誓いみたいで、嬉しそうに娘は頷いた。輝くような笑顔で耳元に寄りそう。


 一翔はちょっと狼狽した。

 ――それは近い! 近いよ!!


 彼女はそっと呪文を教えてくれた。

 それは聞くだけで恐ろしい呪文であったはずなのに、今は素敵な言葉に聞こえた。


 二人は互いを見つめ合い、願わくばそれが赤い糸となることを願った。

『アブソリュート・コネクト』


 陽翔、祝福してくれ。

 陽翔にシェヘラザールがいるように、俺にも大事な人ができたよ。


 その瞬間、一翔は暖かい光の中へ意識が吸い込まれ、塵のように意識が分散した。


 覚悟したのに、それよりもっとスゴイ衝撃!


 ――え? 俺って、もしかしてザコなの!?


 ※    ※    ※


 山頂で大きな蕾が花開き、その中に二人の子供が座っていた。

 一人は黒髪の五歳児、もう一人は十代前半の桃色の髪の少女だ。


 シェヘラザールは勇者ハルトを抱えながら、大粒の涙をこぼして泣いている。

 あまりの悲観している姿に見守っていた男三人が緊張した。


 小太郎は一番に駆け寄り、愛する息子を抱きしめた。まだ温かく、呼吸は安定しているし、血色は良い。具合が悪いことは確かだが、以前より好転している。

「?」


 シェヘラザールは逃げるようにその場から去り、ジェットに抱きついた。王宮神官エストワールは察しが良いほうだ。小太郎が追っていた少年を回復するためにシェヘラザールは変身し、それは成功したようにみえる。

 ならば、なぜそれほどに泣いているのだろうか。

「シェラさま、どうなさいました」


「もう終わりよ! 失敗したの!」

 小太郎はビクリと身体を震わせてシェヘラザールを見る。


「――今、なんと? まさか意識が戻らないのですか?」


 シェヘラザールは興奮しながら首を振る。

「殴っちゃった!!」


 エストワールは眉間に皺を寄せる。

「殴った?」

「だって一発で分からないから、往復ビンタして床に這わせてしまったの!」


 小太郎は丁重に聞き返す。

「まさか聖女さまのビンタで、意識を失い戻らないと……?」


「阿保なこと言わないで。アタシの仕事は常に完璧よ! でも初対面なのに、イメージ悪すぎでしょう! 急ぎの仕事だから了承してくれたけど、絶対に彼、内心ではドン引きしているわ。シェヘラザールは暴力女だと嫌っているわよ!」

 シェヘラザールはひどく喚いた。


 小太郎はホッとして微笑む。

「変身されていたなら、嫌われるとしたら青い髪の女性ではないでしょうか。もっとも私の息子はおしおきビンタ程度でか弱い女性を嫌ったりしませんよ?」


 シェヘラザールは、ハッとして泣き止んだ。

「そう、そうね! 彼はまだアタシの正体に気付いていない! 良かった~。皆さん、このことはどうか内密にお願いしますね?」


 エストワールはため息を漏らした。

「お仕事がお済みでしたら、帰りましょう」


 シェヘラザールは頷く。

「ジェット、ハルトのこと宜しく頼みます。彼なら貴方の思う理想の勇者に育つはず!」


 エストワールは帰りがけにシェヘラザールに聞いた。

「ハルトという勇者の子供。まさかRBCから脱走したのですか?」

 シェヘラザールは微笑する。

「コタローの隠し子だったりして!?」


 エストワールは対応に困った。

「いずれにしても勇者ならばRBCに戻す必要があります。昔のようにはいきませんよ?」


 シェヘラザールは一度振り返ってハルトを見た。

「あの子なら大丈夫よ」


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