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フェリとアリア、連携する


 迫りくるファイアブレスを前にアリアが前に出る。


「ホーリーシールド!!」


 掲げられたメイスが輝き、光の壁が現れた。


 馬車全体をカバーするほどのサイズに唱えたアリアも一瞬驚くが、即座に思考を切り替え魔法に集中する。


 炎を押し返しながら馬車はレッドドラゴンの脇を抜けていった。


“うおおおおおおおおおおおおおお!!“

“でかくない!?“

“こんな広範囲をカバーする魔法だったっけ?“

“本来は一人守るか、密集した三人くらいが限度だぞ“


「僧侶系魔法の強化についても別にモンスターを倒す必要はない。回復魔法を唱え続ければ自然と鍛えられる」


 そして冒険者になった僧侶もまた、魔法使いと同じ問題を抱えている。

 パーティが強くなればなるほど、回復魔法を使う機会が失われ成長が遅れるのだ。


 その結果、高位の僧侶系魔法は使えても魔力量や練度が低いという現象が起きる。


 基礎をおろそかにするなと言ってもやはり冒険者は言うことを聞かない。

 どんどんダンジョンに潜ってどんどん死ぬ。


 だから、アリアをダンジョンに潜らせるのを止め、簡易神殿でひたすら負傷者を治癒させつづけた。

 

 その結果がこれだ。


「全然疲れない……! まだまだいけます!」


 しばらく実践から離れていたため、タルトほどではないとはいえ半信半疑だったアリアがメイスを握りしめる。


 防御・攻撃・補助・回復・状態異常対策と複数の役割に魔力を振り分ける僧侶職にとって、豊富な魔力量はそれだけで大きな武器になる。


 アリアは元々世話焼きで何でもやりたがる性格だったが実力が追いついていなかった。

 よかったなアリア。これからは好きなだけ動けるぞ。


 さて、これで俺はアイシクルランス(柱)とホーリーシールドを目視した。

 こいつらがミスっても、俺が尻を拭いてやれ……。


「アリア! 9時方向!」

「……! ホーリーシールド!!」


 フェリが僅かなブレスの兆候を捉え、アリアに指示を出した。


 遅れてカッカッカっと、着火音がする。


 俺達の視界から外れていたもう一体からの攻撃だ。

 地面に伏せるようにした放たれたファイアブレスを難なく受け止めていく。


 本来死角である真横からのファイアブレスにも対応できているな。

 

「フフーン!」


 フェリが俺を見て笑う。

 こいつ、俺の指示を先読みして得意げになっていやがる。


“今回フェリだけ何もしてなくない?“

“しょうがないって、ドラゴン空飛んでるし“

“こういう場合、戦士は何もできないよな……“

“かけだし戦士:ドラゴンスレイヤーはどうやって戦ってるんだーーー!!“

“いちおう銀:いや、フェリはちゃんと指示だしてるから何もしていないわけでは“

“本当か~~~?“


 ほとんどの視聴者はフェリの価値に気づいていないが、フェリはむかつく様子も見せない。

 僧侶職が魔法行使に集中している間、敵の攻撃に思考を割き連携の要となる意味を理解しているのだ。


 何より素晴らしいのはこの短時間でフェリが俺の指示を見て勝手に学び、自分の物にしたという点だ。


 単なる戦闘能力の向上とは話が違う。

 こいつは今、俺の技術を見て盗んだのだ。


 これは始まりに過ぎない。

 先が楽しみだ。


 面白いな、本当に。


 的確な連携でドラゴンブレスをさばき続け、タルトのアイシクルランスを当てていく。


 久々の連携、それも初めて戦う敵だというのに繰り返す度にどんどん練度が増している。

 成長したな。


 ダリアはというと、とにかく指示通り馬を駆り続けている。

 動揺が少しでも馬に伝わって恐慌状態に陥れば、その時点で俺達は機動力を失い敗北すると理解しているのだろう。


 それでいい。

 頼むからそのまま無心でいてくれ。


「あれ。着地した?」


 無傷のレッドドラゴンが俺達から距離を取り、羽を休めている。


 それを見た傷らだけの方のレッドドラゴンが急にキレ散らかした。


「グアァァァ! ギャアアアアアアオオオオオオオアアアアアアア!!」


 無傷のどこ吹く風と言った素振りに、傷らだけは咆哮をあげる。


 俺はこんなに苦しんでいるのに、なぜお前は楽をしているのか。

 これは不公平だ、と抗議しているかのようだった。


 せっかっくだ、攻撃が止まったのをいいことに馬車を止めて馬を休ませる。


“え、なにこれ“

“どうした“

“仲間割れ?“


 「あーー。ドラゴンも生物なので感情があるんですね~~。せっかくなので利用していきましょう!」


“ひどいwww“

“そんなことしていいのか?“

“倫理的にダメな気がするんだがw“


 笑い話みたいになってるが、冗談じゃない。

 俺は少し真面目な声を出して視聴者を威圧する。


「モンスターとの戦いは命がけなので、使えるものはすべて使います。討伐に失敗すると場合によっては民間人も死ぬんでね。これは遊びじゃないんで、ホント」

 

“すみません“

“すみませんでした“

“申し訳ない“

“よくわかりました!“


「わかればいい」


 俺の言葉にコメント欄が引き締まっていく。


 配信者は面倒だ。

 フェリたちだけではなく視聴者も育てていかねばならない。


「ふーーーっ」


 隣を見ると、フェリが浅く息を吐いて集中力を高めていた。

 これから何が起こるか経験則でわかるのだろう。


 やはりひたすらダンジョンアタックさせて正解だったな。


 その読み通りに傷だらけのレッドドラゴンが咆哮し、こちらへ突貫してきた。

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