幕間 ライゼス・ブラックウッドの報告
UPする曜日を間違えたわけではなく、短めなので通常更新の合間にUPしました。
ライゼス視点の幕間です (´▽`)ノ
ソレイユの部屋を出たあと一旦自室に寄ってから、父母が居る執務室のドアをノックし中に入る。
正面の広い机には父が、その近くに直角に置かれた机には母が座って仕事をしている。
父の執務室には父母の二人だけだが、ドアで繋がった隣の部屋には数名の執務官が仕事をしている。
ここで領地内の代官から上がってきた報告書や提出書類をまとめ、要望書があれば内容を精査し、領地運営が円滑に進むように動いているのだ。
「父上、母上、ただいま戻りました」
「お帰り」
「お帰りなさい」
手を止めて顔を上げた父母に挨拶をし、持ってきていた報告書を渡す。
「マルベロース代官エンネス男爵の不正の裏取りと、粛正をおこなって参りました。また、偶然ではありますが、エンネス男爵子息の犯罪が発覚しましたので、捕縛してあります」
淡々と告げる内容を聞きながら、父が報告書を捲っている。
「親子揃って、ですか。息子が真っ当であれば、男爵位を継がせて、そのまま代官に据え置けましたのに」
母の表情から「面倒臭い」という思いが読み取れる。
「一応確認するが、更生の余地は?」
「ありません」
父の言葉にきっぱりと答えを返すと、父から溜め息が漏れた。
「当初の予定通り、ロウエンに代官の仕事を任せてありますので、次の代官の指名をお願いいたします」
護衛ではあるが文官並に仕事ができ、むしろ文官仕事の方が好きだと公言している彼をマルベロースに置いて対処させていることを伝える。
「ああ、準備が整い次第、早々に着任できるように取り計らってある。収穫期後のこの忙しい時期になってしまったのは痛かったな」
「ですが、これより後にしてしまえば、被害が広がるでしょうから、仕方ありませんわ」
母が苦々しくそう告げ、父も頷く。
増税以外の細かい不正についてはその前から行ってはいたようだが、エンネス男爵が増税をはじめたのは昨年なので、かなり早い段階で不正に対処できているといえるだろう。
「マルベロースの件、ご苦労だった。それで、ダイン家の人々はどんな様子だったかな?」
ワクワクとした様子で聞いてくる父だ、まだ何も言ってないのに絶対に何かあったと思ってるのだろうな。母も手を止めて話を聞く体制だ。
「皆さんお元気でしたよ。僕が行っても、気持ちよく受け入れてくださいました」
「なんだ、今回はなにもなかったのか……」
当たり障りない僕の言葉に、父はわざとらしく肩を落とす。
「いえ、エンネス男爵子息であるピオネル・エンネスから逃れる為に、長女のレベッカ嬢が、予てよりお付き合いされていた、冒険者のアレクシスさんと急遽結婚されました」
女性に対して変な執着を見せ、加虐趣味を持つピオネルの性癖を伝え、彼がレベッカ嬢を狙っていたこと。それにより、レベッカ嬢が予てより婚約していたアレクシスと早々に結婚することになったこと。それに伴い、ソレイユが撹乱のために豊穣祭にてミス・ルヴェデュのコンテストに出場し、ピオネルに捕まり、その際にピオネルが違法な魔道具を使用したために、それを理由に捕らえたこと等を伝えると、両親は揃って溜め息を呑み込んだ。
「そうか……まずは、ソレイユ嬢とレベッカ嬢が無事でよかった。気になることがあるのだが、レベッカ嬢の結婚相手のアレクシスというのは?」
目星がついているのか、楽しそうな顔で聞いてくる父に、焦らさずに答える。
「アザリアの遺跡を踏破した冒険者です」
「やっぱりそうか! 新進気鋭の冒険者じゃないか。また、凄いところと縁を結んだものだ」
流石ダイン家だと楽しそうにしている。
「それと、私もソレイユに交際を申し込み、承諾を得ましたので、学園を卒業後に結婚します」
「ああ、それはクロノスから聞い……結婚っ?」
次兄から付き合っていることは聞いてはいたらしいが、結婚というのは初耳だった父に聞き返され、頷く。
「はい。一応、在学中は学業がありますので、卒業してからとしましたが。問題がなければ、すぐでもかまいませんが」
むしろ婚約期間などいらないのだが、在学中に結婚すると色々面倒臭いらしいので、自重することにしたのだ。
「ライゼス、諸々の準備もありますから、すぐには無理ですよ。在学中の二年……一年半、猶予があるだけよかったと思うことにしましょう」
母がこめかみを揉みながらもあっさりと納得してくれる。
「そうだな。それで卒業後はどうする? 子爵位をやるから、ルヴェデュの代官でもやるか? あそこは発展が著しいから、やり応えがあるぞ」
手持ちの爵位のひとつをくれるという父に即答はせず、来年まで考える猶予をもらうことにした。
「それと、パメラ義姉上のことですが……」
目下の懸念事項を口にする。
「ああ、それもクロノスから聞いている。どうにも、変に思い込んでいるようだな」
父も腑に落ちないような顔をしている。
「あの子にしては、らしくありませんよね。どうやら、お茶会でなにか聞いたようですけれど……私もそれとなく話を聞いてみますから、ライゼスは少しお待ちなさいね」
実に不本意だが母に釘を刺されて、様子をみることを約束させられた。




