1.ライゼスの実家再び
お久しぶりです!
ソレイユ、第四章のスタートです!
あとがきにて、ご報告があります(≧∇≦)ノシ
今回は余裕を持った日程の上に、わたしとライゼスが調子に乗って馬車を重力の魔法で軽くしたり、馬にヒーリングライトを浴びせたりしたせいで旅程がかなり短縮され、ライゼスの実家に三日も滞在することになった。ボロを出さずにいられるだろうか、心配しかない。
ライゼスとお付き合いすることになったことを、ご両親……領主ご夫妻に伝えるという重要なミッションがあるわけです。
お付き合いするだけなのに双方の親に報告が必要なのかな? って思ってしまうのは、わたしの中に日本人としての記憶というか感覚があるからなのかもしれない。いや、前世でもお付き合いをするときにちゃんと相手の親に挨拶に行く人も稀に居たな。となると、割と普通のことなのかも、それにコノツエン学園に通うわたしの後見もしてくださってるんだから、やっぱり挨拶は大事だ。
わたしは庶民だし、認められない可能性の方が大きいんだけど、そこら辺はライゼスが抜かりなくなんとかしてくれてると思うんだよね。丸投げだけど、なにせライゼスだから。
「珍しく、緊張してますねえ」
「そうだね、僕らの会話が耳に入らないくらいには」
一緒に馬車に揺られているライゼスが、小窓越しに御者をしてくれている護衛のトリスタンと会話をしている。
「聞いてますよー。もっとチーズを持ってきたかった話だよね? 荷物になるからやめる事になっただけですよー。なんなら、ライゼスのお家で、わたしが作ればいいだけだし。ほら、シリリシリリ草の粉末もちゃんとディーゴがくれたから、ばっちりだよ」
三男が大きめの瓶に入れて「一気に使ったら駄目だからね」と、何度も念押しをしつつ持たせてくれた粉を見せる。目の前で本気で「ライゼス兄さんに渡した方がいいかも」なんて悩まれてしまって、姉としての矜持がちょっと傷ついたのは内緒だ。
三女のティリスがフォローとして「小さなスプーンを入れておいたから、ちゃんと計って使ったら大丈夫だからね。目分量は駄目よ?」と……フォローじゃなかったな。ちゃんと対策を考えて行動するの、本当に偉いよねわたしの妹。
「生乳はあるよね?」
「料理長に頼めば、取り寄せてもらえると思うけど。作ってる時間はないかもしれないね」
ライゼスの意味深な言葉は、彼の実家……領主邸に着いて、顔合わせの場になって理解することになった。
* * *
まさか――着いた途端に、ライゼスの二人のお兄さんと対面するなんて思わなかった。
かわいい盛りのライゼスを独り占めしていたわたしが、謝罪しなければならない相手なのだ。緊張するなというほうが無理だ。
広々とした玄関のホールにて笑顔を何とか作っているわたしの前には、ライゼスよりもひとまわり体格のいい男性と、ライゼスと同じくらいの身長で細身の男性が立っている。
その後ろには、まだ若い女性と、小さな男の子が手を繋いでいる。
まずはライゼスが二人にわたしを紹介してくれた。
「マルキアス兄上、クロノス兄上、こちらが私の恋人のソレイユです」
恋人って言っちゃったぁぁぁ。
ライゼスはケロッとした顔だけれど、わたしは戦々恐々だよ!
「マルキアス様、クロノス様、はじめまして。ソレイユ・ダインと申します。この度は、お目にかかれて大変光栄でございます」
慌てふためく内心には蓋をして、母仕込みの微笑みで挨拶をする。
「はじめまして、ライゼスの兄のマルキアスだ」
濃い青の髪をひとつにまとめ、柔らかな茶色の目をしたひとまわり体格のいい方の兄が挨拶してくれる。
「はじめまして、同じくクロノスです。よろしく」
薄い青色の髪を短く切りそろえ、碧眼の兄が微笑んで挨拶を返してくれた。
これは……大丈夫そうかも? うん、多分、大丈夫だよね。
そして、長男のマルキアスが、後ろに立っている女性と子どもを紹介してくれる。
「私の妻のパメラと、息子のヨウエルだ」
マルキアスが少し横にずれて、少し後ろにいた妻と息子を前に出す。
子どもは三歳くらいかな? 母親と手を繋ぎ好奇心一杯の目でこちらを見ている。
そしてパメラと紹介された女性は派手さを抑えた機能的な服を着ていて、ライゼスのお母さんに少し雰囲気が似ているシゴデキキャリアウーマンな感じ。豪奢な金色の髪をひとつにまとめ、冴え冴えとした青い目が印象的だ。
「はじめまして、パメラ様、ヨウエル様、ソレイユ・ダインと申します。お目にかかれて――」
「ソレイユ・ダイン、あなたの噂はかねがね耳にしております。お義父様が後見をしているからといって、我が家に取り入ろうなどと。更には浅ましくも、恩義在るライゼス様を誑かすなど!」
激高する彼女に、慌てたのはマルキアスだ。
「ちょ、ちょっ、ちょっとまてパメラッ! 何を言ってるんだ!」
わたしの横にいるライゼスから、冷え冷えとした冷気があふれている。敢えて、魔力で冷気を放出しているのかな? クールダウンするためなら仕方ない。
「殿方はご存じないのでしょうけれど、わたくしはすべて存じておりますからねっ」
そう言うと踵を返し、怒れる母に驚いている息子を連れて部屋を出て行ってしまった。
ぽかんと取り残される殿方プラスわたし。
「す、すまなかった。なにか誤解があるようだ」
「マルキアス兄上?」
「誤解は解く、速やかに解くから、冷気を出すのは止めてくれ。寒い」
夏だったら、冷気も歓迎なのにね。
マルキアスの苦情を受け入れて、冷気を出すのを止めたライゼスが、盛大に溜め息を吐く。
「義姉上は、貴族主義だったか?」
「いや、そんなことはないはずだし、官吏も実力主義に移行しつつある現代で、貴族主義を掲げるのは愚の骨頂なのは、承知しているはずだ」
クロノスの言葉に、マルキアスが苦々しく応えている。
「はず、ばかりですね、マルキアス兄上」
ライゼスが静かに突っ込みを入れ、マルキアスが慌てる。
「ライゼス、まずは、私が誤解を解いてくるから、お前が動くのはちょっと待ってくれ」
そう言い残して、早足で部屋を出て行った。
パメラと話し合いをしてくるのだろう。
「義姉上は多少潔癖なところはあるけれど、道理の分からない人ではないから、兄の話を聞いたらちゃんと分かってくれると思うよ」
わたしに向かって取りなすように微苦笑で言ってくれたクロノスに、ライゼスが硬い表情を向ける。
「まさか、顔合わせで誹られるとは思いませんでした。クロノス兄上、なにか心当たりはありませんか?」
「それが、ないんだよね。社交は彼女任せにしている部分があるから、そっちで何か聞いて来たのかもしれないけれど、何かあれば兄には言うはずだ、けどあの様子じゃ、兄も何も聞いてないようだし」
社交かぁ……オブディティも、お茶会とかで、わたしに対するネガティブな情報を持っていたんだよね。もしかして、そんな感じなのかも。
「それにしても、付き合うことになったんだな。二人とも、おめでとう」
「ありがとう」
「ありがとうございます。あの、わたしは庶民ですけれど、いいんですか?」
思わず問いかけてしまったわたしに、クロノスはちょっと目を瞬かせてから、ニヤッと笑う。
「駄目だ、って言ったらどうするのかな?」
「愛の逃避行だね」
わたしではなく、ライゼスが楽しそうに言い切り、クロノスは笑い声を上げた。
「答えるのが早すぎるよ、ライゼス。私はソレイユさんに聞きたかったのに」
「ソレイユも、聞くだけ野暮ってものだよ。僕の家族は、君の功績に感謝しているし、僕がこういう性格だってことも熟知しているからね。僕が決めたなら、それがすべてだよ」
堂々と言い切るライゼスに、思わず肩が落ちてしまう。
「わかってはいても、確認したいことってあるでしょう」
「そういうものかな? じゃあ確認してみようか。クロノス兄上は、僕たちが付き合うのを、どう思う?」
「一足飛びに結婚じゃなくてよかったと思うよ。ライゼスなら、そういうこともやりかねないと思ってるからね」
「……僕の信用の低さに驚いたよ」
愕然と呟くライゼスに、クロノスが声をあげて笑う。
「冗談だよ。君は用意周到だからね、ソレイユさんが怯えて逃げるような真似はしないだろうけど。ちゃんとお付き合いからはじめて、偉いと思うよ」
冗談に聞こえなかったけれど、冗談だったんだね。貴族ギャグはわかりにくい。
「貴族でなければ、すぐに結婚してるよ」
疲れたように言うライゼスだが、そうか、庶民ならすぐに結婚してたのか。
その後、執事にいつまでホールで立ち話をしてるんですか、長旅で疲れている女性を早く休ませてあげなさい気が利かない男たちめというようなことを丁寧な言葉で言われて解散となり、以前使わせてもらった部屋へ案内された。
ライゼスがもう付き合ってるんだから、自分の部屋の隣でいいじゃないかと我が儘を言っていたが、笑顔で却下されていた。
この度、『ソレイユ・ダインだけが気づいていない』が書籍化することになりました! やったー!
詳しいことは時期が来ましたら発表させていただきますが、本日は取り急ぎご報告まで!
第四章も月水金の更新を予定しておりますが、明日の火曜日も特別に更新いたします
楽しんでいただけるよう、頑張ります!୧(⑉•̀ㅁ•́⑉)૭✧
(例によって例のごとく、後半まだ書き上がってな――げふんげふん)




