番外 ソレイユの日常
閑話と番外ってよくわからんですが、時系列関係ない話になったので、番外ということで。
黄緑色のブチ柄牛に目を引かれた。
「あれ? この牛……ケガしてる」
ステータスを見るまでもなく、異常発見。
首のところに血の痕がある、既に出血が止まっている傷の具合を見ながらステータスを確認する。最近では知りたいことを望めばそこだけが表示されるので、確認がとても楽になった。
ケガの原因が知りたいな、ケガをするような危険な場所が放牧場内とかにあるなら修繕しなきゃいけないし。
■今朝方同じ仕切り内にいた気性の荒い牛により傷つけられた、現在も若干の痛みが残る。
「気性の荒い牛って、どの牛のことだろう?」
■アオ-〇二八番
牛の耳に付けているタグの番号は、名前ではないが個体を表すものだ。
あの牛か、そんなに気が荒いようには見えないんだけどなあ。
ケガの周囲を魔法で綺麗にしてから、ばい菌が入らないように傷口に保護の魔法を掛ける。傷を治す魔法もあるけど、なんでもかんでも治せばいいってものじゃないんだって。なので、大けがでなければ、手当をして終わる。
その後も数日、黄緑の牛を注意していたんだけど、毎日ケガをしているんだよね。
父に同じ仕切りに入れないように伝えるか、いや、そうしたらどうして黄緑がアオにケガをさせられてるってわかったのか伝えることになるかな。
ステータスのことはライゼス以外にヒミツだから、正直に言うわけにはいかないし。
牛たちが仕切りに入るのは夜だけだから、どの牛が同じ仕切りなのかわからないわたしには犯牛なんかわからないはず。
とすると、なにか監視するような魔法が欲しい。
遠隔で牛舎の様子を見られる魔法でわかりました、っていうのが一番スマートだよね。
「ということで、バンディ君、犯牛探しの為に、この鏡を牛舎のあの辺りに設置して」
少しだけ膨らみのある凸面鏡を、弟に恭しく渡す。
「犯牛探し? 黄緑だけ別の仕切りに移せばいいんじゃねえの?」
「正論だね。だけど、それじゃ面白くないでしょ!」
「面白さを求めるなよ……」
わたしの身長を超したくらいから、弟が生意気になってきた。
昔は一緒にノッてくれたのに。
「わかったわよ、自分で付けるよ」
「チビソレイユじゃ無理だろ」
「チビ、では、ない」
文句を言いつつも、牛舎の壁の高いところに鏡を設置してくれた。いい弟だ。
「それで? 鏡なんて付けて、どうすんだよ」
「それと、対になる鏡がこちらです」
じゃじゃーん! ともう一枚鏡を取り出す。
「お小遣いで購入した、一番お安い鏡です」
「こっちは、凸面鏡じゃねえのな」
「いいところに気がつきました。あっちは広い範囲を見えるようにしたいので凸面鏡だけど、こっちは映像を投影するだけだから、フツーの鏡なのだよ。さて、この種も仕掛けもない鏡に魔法を掛けます」
もう掛けてあるんだけどね。
「えいっ!」
鏡に向かって手のひらをかざすと、鏡の表面に凸面鏡が映している風景が現れた。魔力を通しただけだけど。
「うおっ! え? え?」
凸面鏡と鏡を交互に見て驚いている弟に、胸を張る。
「どうだね。これで、家の中にいても、牛舎の様子がわかるってもんですよ」
「すげえな……意味わかんねえけど。こんなので見なくても、交替で監視すればいいんじゃねえの?」
「かーっ! これだから、脳筋はっ! なんでも労力で解決しようとする! いいかね、人件費というのは立派な費用なのだよ。楽ができることは、ちゃんと楽をして、体を休める! これ大事っ!」
ヒヨウタイコウカという言葉が脳裏を過る。わたし、間違ってない、休憩は大事。
「この鏡があれば、今回に限らず、出産間際の牛の監視なんかにも使えちゃうわけなんだよ」
「……でも、誰かはこの鏡を見てなきゃならないだろ? 同じじゃね?」
「むきぃぃぃ!」
あー言えばこー言うっ!
「改良してやる! ぐうの音も出ないように、改良してやるっ!」
というわけで、無茶振りを叶えてくれる長兄の元に走った。
「カシューお兄ちゃん! かくかくしかじかなのっ! 一定の条件で光るか、音が出るように改造できる!?」
「……また、お前は」
長兄はフォークを下ろし、使っていた身体強化を解いて呆れ混じりの顔で見下ろしてくる。
「鏡から音は無理だろ。光ならどうだろうな、ちょっと見せてみろ」
わたしが魔法を掛けた鏡を渡すと、矯めつ眇めつ鏡を見て、それからしゃがみ込んで地面に小枝でガリガリと何か書いていたが、首を傾げ、わたしを見上げる。
「中々難しいな。ちょっと父さんと相談してみるから、待ってろ」
よしっ! この流れになれば、大体解決だ。
「ありがとう! カシューお兄ちゃんっ」
「まだできてないから、礼は早い」
三日後、鏡ではなく小型のランプが渡された。
「流血に反応して赤く光るようにした。ケガをしたり、出産があればわかる」
「なるほど!」
出産間近の母牛とちびちゃんたちが入っている子牛の牛舎と、黄緑の入る仕切りを対象にして凸面鏡が設置され、無事その威力を発揮した。
黄緑を角でケガさせていたのが青いブチの牛だということもこの道具で判明し、仕切りを分けることになった。赤く光ったランプに急いで牛舎にいけば、黄緑をどつきまわしている青がいたのだ。現行犯だ。
「設定を変えれば、色々応用ができそうだね」
父がノリノリで、特許の申請準備をしている。簡単ではないはずなのに、楽しそうにペンを走らせているから、父は本当に凄いと思う……畜産農家が本当に似合わないんだよね。
だが今回の申請は、既に類似品が登録されていたが、新規性が認められたから辛うじて通ったということだった。
まるっきり新しい特許じゃないから父が残念そうだったけれど、取れたんだからお祝いだー!
知り合いの畜産農家さんに、お試しとしてひとつずつ配ってきた!
父の改造のお陰で、魔法じゃなくて、魔石で動くようになったので、誰でも使えるのがとても素晴らしい一品となっているのよ。
アザリア苔で子牛が死ぬことは減ったけれど、出産はまた別だから、出産の発見が早いに越したことはないわけなのよ!
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「ソレイユは、ソレイユだなあ」
分厚い手紙を読み終えて、自然と笑みがこぼれた。
さて、再会した時にがっかりされないように、頑張らないとな。




