幕間 ライゼス・ブラックウッドの思惑
オブディティ嬢の決定により王都へ行くことになったが、これは僕にとっても渡りに船だった。
「噂の出所はやはり、王都のようです」
寮の部屋に戻り、ストルテ・アリュートの報告を聞く。
「申し訳ございません、それ以上の詳しい情報は、自分では追うことができず」
悔しそうに言う彼だが、現時点ではそれだけ分かれば問題無い。
「いや、王都であるというところまで分かればいい。義姉にろくでもないことを吹き込んでいた方々には、直接ご実家や婚家へ苦情を入れさせていただいたお陰で、すっかりおとなしくなったし」
「おとなしくといいますか。あれは、苦情なんていう生易しいものでは……」
歯切れ悪く言うストルテは無視する。
「両親の顔もありますから、様子を見ていたが」
「泳がせていたの間違いでは?」
今度ははっきり言う、彼は中々面白い人材だ。
最初は見切りを付けようと思ったが、すぐに挽回してきたのもいい。
「ともかく、こちらは収束したと見ていいだろう。噂話の火消しに回る、などという面倒はしたくなかったが、折角の指名依頼だから、王都へ向かおうと思う」
「ソレイユ様と、仕事にかこつけての婚前旅行ですか?」
今度はさらっと聞いてくる。
「ストルテ、君はそんなに喋る人だったかな」
「やめましょうか?」
「いや、構わない。婚前旅行と言いたいところだが、今回はオブディティ嬢も入れた冒険者パーティでの依頼だから、色気のある話ではないな」
「それは残念ですね。折角の機会なのに」
「学園を卒業すれば、いくらでも旅行をする機会はあるだろうしね」
庶民には旅行が一般的ではない世の中だけれど、冒険者という肩書きがある僕たちなので、いくらでもその機会を作ることはできる。
「その時は、是非自分もお供させてください」
最近冒険者の資格を取り、着々とランクを上げているのは聞いていた。
思いのほか真剣に申し出る。
「トリスタンよりも強くなったら、考えるよ」
幼い頃から僕を守る彼の名を出せば、ストルテはグッと口を噤んだ。
トリスタンたちが学園内に入れないが故のストルテという配置なので、学園を出てしまえば彼は任を解かれることになるだろう。それ以降は、僕やブラックウッド家の考え次第となる。
「せめてランク五にはなってくれないと、連れては行けないからね」
ソレイユとオブディティ嬢も既にランク六になった。僕は二人に内緒で依頼をこなしているので、既にランク五になっている。
しかし、来年は最終学年だ。果たしてダンジョンに行く暇があるかどうか。
前期くらいまでなら大丈夫だろうか、オルト先輩もずっと部活に出ていたし。
「ランク五なんて、高ランクに入るではないですか」
ストルテが文句を言うが、そのくらいの気概がなければ、使うことはできない。
「そうだね。さてと、僕らはあと一週間授業があるから、そろそろ休もう」
「わかりました。お休みなさいませ」
ひらりとストルテに手を振って自室に入った。
領都の噂は力尽くで消したが、まだ根強く残っているのを感じている。
「やはり、貴族主義がソレイユをつるし上げることで、自分たちの立場を誇示している、ということだろうか?」
口に出して呟いたが、腑に落ちないものを感じる。
王都に行けば良くも悪くも、事態は進展するだろう。
危険もあるだろうが、こちらには王弟という切り札もある。
手をこまねくばかりでは、不安の残るこの状況を打開することはできないように思えていた。
今回は短くてすみません。
次話『新年の長期休暇』です(≧▽≦)ノシ




