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ソレイユだけが気づいていない~ステータス鑑定で遊んでいたらとんでもないことになりました~  作者: こる
第五章

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4.卒部式

 渋るオルト先輩をライゼスが口説き落としてくれて、なんとか卒部式開催ですよ!


 嫌がる人間を引きずり出していいのかどうかは、終わってみなければわからない話ですからねっ! 良くも悪くも思い出になると思うのですよ。

 いや、思い出にするのだ!


「随分、派手に飾り付けたな」

 部室に入っての第一声がそれですか。


「頑張りました!」


 色とりどりの紙の輪のチェーンを作り、それを光らせる魔道具を制作したのですよ!

 イメージは電飾で、ライゼスが特許の書類を作ってくれています。オモチャのような魔道具なので、誰も作ったことがないらしいです。魔法で光をちりばめることもできるし、あんまり使い処がないのかもね。

 現在は魔石もふんだんにあるので、思いついたら何でも作りますよわたしは。


「オルト先輩、一年間ありがとうございました」


 オブディティがしんみりとした様子で、オルト先輩を定位置に案内する。

 机の上には、オブディティが綺麗な刺繍入りの布を敷き、その上にお菓子や飲み物を並べてある。


「俺は何もしてねえよ」

 ぶっきらぼうに言いながら、椅子に座ってカップのお茶を飲む。


 時間に合わせてオブディティが煎れてくれたお茶なので、丁度いい温度で美味しいのよ。

 オルト先輩も味わうように口にして、ほうっと満足そうに息を吐いていた。


「あれだけ口喧くちやかましく指導してくれたのに?」

 わたしが指摘すると、オブディティに頭をコツンと叩かれた。


「お前が危険なことするからだろうが。基本をぶっ壊そうとするのをやめろ」

「試行錯誤しないと、新しいものなんて生まれないじゃないですか」


 口を尖らせたわたしに、オルト先輩が「それが危なっかしいんだよ」と苦笑いする。


「そういえば、オルト先輩の就職先ってどこなんですか? 確か末っ子だから、家を出るって言ってましたよね?」

「よく覚えてんな。まあ、魔道具を作れるところに就職が決まったから、ホッとしてるよ」

「仕事で魔道具を作るとなると、経費が職場持ちだからいいですね!」

「まあな、そこんところは、ありがたいよな」

 オルト先輩が深く頷く。


「どちらの工房ですか? 領都ですわよね」

 オブディティの質問に、オルト先輩が目に見えて硬直した。


 おん?


「もしかして、領都を出られるのですか?」


 少しだけ沈んだ声でオブディティが確認すると、オルト先輩は急にバクバクと、用意してあったお菓子で口をいっぱいにした。


「あらあら」

 オブディティはちょっと呆れ気味に、追加のお茶を煎れている。


 ……もしかして、就職先を追求されたくないのかな?

 じゃあ仕方ないか。追求するのは野暮ってもんだよね。


「そうだ! オルト先輩に、魔道具創作部のみんなからお礼の手紙を書きました! 気が向いたら読んでください!」

「気が向いたらって……向かなかったらどうすんだよ」

「じゃあ、後で読んでください」


 三人分の手紙を、オルト先輩に手渡す。


「これは、僕ら三人からの餞別です。オルト先輩の特許を綴ってあります」

「おおおお! すげえな! 最初に目次まで付けてくれたのか! 三人で作ってくれたんだな。最高だ、ありがとう!」


 今日一番テンションが上がっている。

 結局このプレゼントが一番嬉しいだろうってことで、三人でまとめることにしたんだ。


「目次はオブディティさんが書いて、革表紙の革はわたしが獲った一角兎の素材を使い、オルト先輩のイメージカラーの赤に染色してもらいました!」

「現在出願中のものはこちらに別にしてあります。承認通知は、オルト先輩のご実家に届くように指定してありますので、必要でしたら住所の変更をお願いします」

 もう一冊の冊子を渡しながら、ライゼスが説明する。


「何から何までありがとうよ。すげえ嬉しい」

 噛み締めるように言ったオルト先輩に、わたしたちは良いプレゼントを渡せた達成感を感じていた。


   * * *


 そっかー、オルト先輩という天敵がいなくなったから……。


 顧問のタブ・レイドロップ先生が、頻繁に部室に来るようになった。

 正直に言って、どうして、魔道具関係の先生が顧問じゃないのだろうと恨めしく思うのですよ。オルト先輩が抜けた今、ちゃんと教えてくれる人が欲しいじゃないですか。


「魔法力学について、習ったことはある? 熱量と魔力消費量の関係性は?」

 魔道具を作っているわたしの横で、真面目色っぽいタブ先生が質問してくる。


「せんせーそれって、魔道具制作に関係ないと思いまーす」

 テンション低く発言すれば、タブ先生は顔の前で人差し指をチッチッチと左右に振った。


「魔道具というのは、魔法を道具で発現させるものですから。とても関係がある話ですわ」

 きっぱりと言い切るタブ先生に、確かにその側面はあるなと、手を止める。


「あらあら……」


 オブディティが呆れた声を出すのが聞こえたけれど、たまには先生の話を聞くのもいいんじゃないかと思うんだよね。

 インプットは大事。


「魔法力学ってどんなことですか?」

「魔力の流れと保存の法則のことね。魔力をいかに効率的に循環させるかということね。ソレイユさんが考案した、ソレイユ式魔法習得法はこの分野ね」

「そうなんですね」

「体内を循環する魔力の流れを、意識的に流すことで、魔法の習得が早まるというのは画期的でした。流れを把握することはしても、動かすという発想がなかったのですから。ですが、よくよく考えれば、魔法を使うということは、放出する、即ち意識して魔力を動かすということに違いないのですものね。放出なのか、体内での循環なのかの違いなだけで」


 タブ先生、楽しそうだなあ。


「近すぎて見えないことってありますよね」


 当たり前すぎて意識してこなかったんだろうなあ。

 子供の頃の自分、グッジョブ!


「力学が学問になってるということは、空間の把握や、時間についての学問もあるんですか?」


 もしも、あるなら、もしかしたら空間収納の魔法を実現できるかもだよ!

 そうすれば、オブディティの能力も大っぴらに使うことができるわけだよ!


「空間、ですか?」

「そうです、例えば、点が零次元、線が一次元、面が二次元、立体が三次げ――あ痛っ」

「ソレイユさん、それは『まだ』ですわ」


 オブディティに険しい表情で待ったを掛けられてしまった。


「地動説はあるのに……」

 ぶうたれたわたしに、首を横に振る。

「それとこれとは、別ですわ」


 そっかぁ、別次元に収納するという理論はまだないのか。魔法なんて、トンデモ能力があるんだから、次元なんて理解されてるもんだと思ってた。


「なんの話をしているのです? 点や面になにがあるのですか」

 興味深そうに聞いて来たタブ先生に、内心慌てながら別の話を振る。


「声を遠くに届ける魔法はないんですか? 声は音の波だから、その波形を遠くにある受信機などから出せるようにするとか」

「無いわけではありませんよ。ですが、送信機も受信機も大型で、克つ、魔石を大量に喰うので、上の方々しか使うことはできませんね」

「あるんですね! 見ることとかは?」

「できません。どこに設置されているか、正確な場所も秘匿されております」


 思ったよりも機密っぽい。


「情報の伝達速度というのは、政治に大きく関わるものだからね」

 本を読んでいたライゼスが、教えてくれる。


「なるほど? でも、もっと通信が手軽になれば、社会の発展が早くなるだろうにねえ」

 スマホが恋しくなっていましたよ。


 ゲームとかはなくていいから、音声通信だけでも実現できないかな。

 電波塔が無いと音は飛ばせないのかなあ、魔力があればそこまで厳密に考えなくてもできないかな。


「あー……オルト先輩が居てくれたら、相談できるのに」

「オルト君ですか。中々、我の強い子でしたけれど、素晴らしい所に就職できて良かったですよね」


 え? タブ先生、オルト先輩の就職先を知ってるの?

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誤字脱字報告、大変、大変っ助かっております!
ありがとうございます!!

゜・*.✿*書籍化決定しました!*✿.*・゜
一迅社のアイリスNEO様より令和7年12月2日に発売となりました!

読んでくださる皆さまのおかげです!
ありがとうございます。°(°´ω`°)°。ウレシ泣キ
― 新着の感想 ―
第四章 18.ラスト部活動 で 「俺は、王都の魔道具開発研究所に就職することに決まった、だからもう部室には来ない」 って宣言してるので、矛盾してるように思います
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