21.走行
さて、本日はとうとう自走ボードの屋外試験走行ですよ!
人通りの少ない遊歩道で道路の使用許可が取れたので、勉強で忙しいオルト先輩に声を掛けたら、食い気味に参加を表明してくれました。
授業が終わるとすぐに校舎裏手にある遊歩道に、魔道具創作部の全員で集合した。
「今日はわたしが乗ります!」
スカートの下にはズボンを穿いているのでバッチリですよ。
「まあ、言っても聞かないだろうし、いいんじゃないのか?」
オルト先輩は言いながらライゼスを見る。
「そうですね、言っても聞かないでしょうから」
「ソレイユさん、くれぐれも安全運転ですよ。無理なスピードや、急ハンドルは事故の元ですからね」
オブディティがオカン化してきてる! とは、本人には言えないので、心の中で突っ込んでおく。
「安全運転だから、大丈夫だよ。じゃあ、ちょっと走らせてみるね!」
言いながらレンガが敷いてある道で、自走ボードに動力となる魔石を付けてから乗った。
手元にあるレバーを操作すれば自走ボードが走るので、ゆっくりとレバーを握る。
ゆるゆると動き出す、自走ボード。
うん、これなら余裕かも!
レバーを更に握り込んでスピードを上げていく。
足下はレンガでガタガタしているけれど、スプリングを付けてあるので多少はクッションが利いている。
うーむ、もっと速くならないものか。
道が悪いせいか、オルト先輩が室内で乗った時よりも速度が出ない。
ある程度走ったところで、じわりとスピードを落としていき、最後は足で後輪の上に付けたペダルを踏み込むことでブレーキを掛けた。
思ったよりも余裕。
自走ボードを反転させて、みんなの方へ戻るべく、レバーを握る……。
やっぱり、ゆっくりだよねえ。人が乗っていないときにタイヤを回したら、もっと速く回るんだけどな――もしかして、重さが軽くなれば速くなるのではなかろうか!
画期的な思いつきに、反重力の魔法で自分の体重を軽くする。
グンッ……と速くなる速度。
景色がどんどん後ろに流れていく!
楽しい! 無茶苦茶楽しい!
あっという間にみんなの所へ戻って来てしまった。
「よし、次は俺だ」
「気をつけてくださいね」
意気揚々と自走ボードに乗るオルト先輩を見送ったが、じれったいほどのゆっくり走行だ。
レバーは目一杯握っているので、やはり重さの影響が大きいんだな。
「やっぱり軽さが重要だよね」
腕組みをして、ウンウンと頷く。
「……反重力の魔法でも使ったのかい?」
「もちろん! 汎用性があるよね、あの魔法」
戻ってきたオルト先輩は、思ったように速度が出なかったので不本意そうな顔をしている。
次に、ライゼスが乗った。
最初から反重力の魔法で軽くした上でレバー全開でいい勢いで走って行く、そしてほどよいところで、片足だけ地面に付けて自走ボードを蹴るようにして半回転させ、勢いそのままに戻ってきた。
なんだろう、かっこよさが違う、ズルイ。
「これは、面白いですね。夢を感じます」
楽々と乗りこなしたライゼスに、強く同意する。
「確かに、夢、あるよね!」
自走ボードを受け取り、もう一度走らせる。
今度は最初からレバー全開だし、反重力の魔法で体重を軽くして、体重移動で蛇行走行もやって悠々とスタート位置に戻ると、オルト先輩が無茶苦茶悔しがっていた。
「反重力の魔法が使えれば、俺だって……っ!」
地団駄を踏む勢いで悔しがっている。
「反重力の魔法だったら、掛けることできますよ?」
「は?」
そういえば、オルト先輩知らなかったっけ? いや、一番最初は木の棒だったんだから知ってるよね?
オルト先輩もそのことに行き着いて、ハッとした顔になった。
「そういえばそうか! よし、ライゼス、頼む」
自走ボードを抱えて、いそいそとライゼスの所へ行く。
「えええ、そこはわたしじゃないんですか!」
重力の魔法を編み出したのはわたしですよっ。
「信頼感の差ですわね」
オブディティにトドメを刺されて、わたしはしゃがんで地面にのの字を書く。
ライゼスはオルト先輩に反重力の魔法を掛けて送り出し、オルト先輩はいい速度で往復した。
「あれ? 蛇行はしないんですか?」
スラローム走行楽しいのに。
「うるさい」
体重移動するのが怖いらしく直線走行のみだけど、それでもかなり楽しそう。
「みなさん楽しそうですわね。わたくしも、ズボンを穿いてくればよかった」
オブディティだけ、自走ボードに乗れずにションボリしている。
「ゆっくり走るなら、スカートでも大丈夫だと思うよ。スカートが捲れるのが心配なら、わたしが後ろに一緒に乗ろうか?」
「いや、オルト先輩の方がいいだろうな。ソレイユは、うっかり速度を上げそうだから」
ライゼスの意見により、自走ボード初の二人乗りはオブディティとオルト先輩になった。
ボードの前の方にオブディティが乗り、後ろに乗ったオルト先輩がハンドルを握る。
ライゼスが二人を魔法で軽くしてから、オルト先輩がゆっくりと自走ボードを走らせた。
オルト先輩がしっかりと安全運転して、オブディティはとても楽しそうに笑い、時々振り向いてオルト先輩に声を掛けているみたいだ。
「ソレイユ、僕たちも後で二人乗りをしないかい?」
一人で乗った方が自由度が高くて面白いと思うんだけどなあ。
二人だと重心移動が難しそうだから、単調になっちゃうよねえ。
「ソレイユ?」
笑顔が深くなったライゼスに反射的に「乗ります!」と答えてしまったんだけど、残念ながらそれは果たされることはなかった。
「モーターって本当に魔石の消費が激しいな」
走行途中で魔石の魔力が切れて、オルト先輩が手で押して戻ってきた。
用意していた魔石の換えは全部使い切ってしまったので今日はもう終了だ。
「部室に戻って、魔石に魔力の充填をしておくか」
「そうですね!」
使用済み魔石を入れた袋を持って、元気に部室を目指すわたしに、ライゼスが近づいてきて魔石袋を持ってくれた。
「次こそは、二人乗りをしようね、ソレイユ」
妙に強い圧を感じながら、コクコクと何度も頷いた。
短めですが、これにて第四章が終了です
第五章は現在鋭意執筆中ですので、もう少々お待ちくださいヾ(*´∀`*)ノ
来る令和7年12月5日
本作『ソレイユだけが気づいていない~ステータス鑑定で遊んでいたらとんでもないことになりました~』が一迅社アイリスNEO様より刊行されます!
書影はまだ出ておりませんが、朝日川 日和先生によるソレイユとライゼスの素敵な表紙となっておりますので、書影が解禁されましたらいそいそとご報告させていただきます(´,,•ω•,,)ノ″




