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【電子書籍化】30歳年上侯爵の後妻のはずがその息子に溺愛される  作者: サヤマカヤ
第四章

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19

 

 城では防犯上の理由で定期的に部屋替えをする。

 それも、その日の朝に通達された数名がその日のうちに部屋を替えなければならない。


 城に部屋を持たない下級メイドのテレーザさんはその決まりを知らなかった。

 しかも、男性の出した連絡が行き違いになってしまい、夜までにテレーザさんの元に届かなかった。

 そして、そこがフェリクス様の部屋になったことを知らずに、いつもの部屋を訪れた。


 フェリクス様の部屋から出たときに、運悪く誰かに見られていたようで、一瞬にして王城に噂が駆け巡ってしまった。

 間違えた先がせめてフェリクス様の部屋でなければ、そこまでの噂にならなかっただろうに……。


 その結果、恋人である男性に誤解され、取り付く島もなく弁解の機会を与えてもらえなかった。

 フェリクス様とテレーザさんの噂は人々の間で面白おかしく広がり、傷心の男性は魔術師を辞めて城を去ってしまった。


 男性とは別れを迎えてしまうが、テレーザさんはロイを授かっていたことに気づいた。

 しかし、男爵があれほど反対していた男の子供だとばれたら、堕ろせと言われるのでは……と危惧したテレーザさんは、噂を利用することにした。

 まるでフェリクス様を庇うかのように否定して、男爵が誤解し続けるように、敢えて勘違する言い方をした。


 生まれた子供はフェリクス様に似た色を持って生まれた。

 テレーザさんはすぐに隔世遺伝で彼の両親の色合いを引き継いだのだとわかったが、男爵を誤解させ続けるには好都合だった。

 テレーザさんにとって一度は諦めた恋だったが、ロイは成長するにつれて父親を恋しがった。

 そこで、テレーザさんはもう一度だけ頑張ってみようと決意する。

 男性に本当のことをもう一度説明して、親子三人で暮らせるように――――


「それなら、どうしてロイを置いていったりなんか……」

「それについては申し訳ありません。ロイにも寂しい思いをさせてしまって……。でも、あの子は一見、フェリクス様に似ているので。連れて行くと彼に余計誤解されてしまうのではと怖くて」


 それは確かに……。

 ロイの本当の父親は、テレーザさんがフェリクス様に乗り換えたと思っていたのだろうし、ロイを見たらフェリクス様の子供だと思ってしまうだろう。

 最悪、フェリクス様に捨てられたから都合よくヨリを戻しに来たと思われかねない。

 怒らせて、二度と話を聞いてもらうことさえできなくなってしまう可能性もあるだろう。


「それで、父には一週間程度仕事で家を空けるからと嘘をついてロイのことをお願いしました」


 ロイには、『お父様と一緒に暮らせるようにお話をしてくるから、お祖父様と良い子にして待っていてね。きっと一週間で戻るから』と言って家を出たらしい。


「まさか父が、すぐにロイを捨てるようなまねをしているとは……」


 テレーザさんの話とロイが本邸前にいた日を照らし合わせると、ヘンウット男爵はテレーザさんが出かけた翌日にはロイを侯爵家の本邸の前に置き去りにしたことになる。

 テレーザさんが家を空けると知って、男爵はすぐにこの計画を思いついたのだろう。


「お前が、この子の父親はハーディング侯爵だと勘違いさせ続けるから!だから、私はこれがチャンスだと思って!」


 ヘンウット男爵は、テレーザさんがロイの父親であるはずのフェリクス様に働きかけようとしないことにジレンマを感じていた。

 男爵がフェリクス様にロイの存在を知らせようとするたび、テレーザさんは強めに否定してくるので、思い切った行動ができずにいた。


 そのうちに、フェリクス様の結婚を知ることになる。

 その相手というのが、私……家庭の経済状況は似たり寄ったりの低位貴族の娘。

 ヘンウット男爵からすると、身ごもった自分の娘は捨てておいて、似たような貴族の娘と結婚するなら、自分の娘でいいじゃないかと思うのは無理もない。

 そして、テレーザさんが子供を残して家を出たので、チャンスは今しかないと思い、すぐに行動した。

 冷たいと噂されているが、さすがに小さな子供が一人でいれば保護されるだろう。

 無事にハーディング侯爵家に保護されたら、実子だと認めさせる。

 できればその後で娘を妻として収められたら完璧だ。と考えていたそうだ。


 ヘンウット男爵の行動理由はわかったけど、それはロイやテレーザさんのためではなく、結局は家の再興を目指す自分のため――ロイのことを駒のように考えている身勝手さに、私は腹が立って仕方がなかった。

 一番の被害者であるロイが、今はこの部屋にいないのは救いだ。

 大人同士の話し合いになるだろうと思って、親子の再会が落ち着いた後にセリオに別室に連れて行ってもらったのだけど、正解だった。

 こんな祖父の言葉をロイに聞かせたくない。


「し、しかし!あの噂は?ハーディング侯爵とテレーザは体の関係があったのでは?一度でも関係があるのなら、子供の父親の可能性は否定できませんぞ!!」


 起死回生のような男爵の叫びに、テレーザさんも負けずと声を張り上げる。


「だから!フェリクス様と私には何の関係もないの!間違えて部屋に入っただけ!今までの話、聞いていなかったの?」

「その通りだ。俺と彼女の間には何もない。俺がロイの父親である可能性はゼロだ」

「そんな…………」


 フェリクス様からも否定され、侯爵家との縁を信じていたヘンウット男爵はがくりと項垂れた。


 私は心の底から安堵していた。

 テレーザさんはパメラの言う通り、フェリクス様と恋人関係になかったのだと――――


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