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【電子書籍化】30歳年上侯爵の後妻のはずがその息子に溺愛される  作者: サヤマカヤ
第七章

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26

 

 ドンドンと音が響くほど強く王女の部屋のドアを叩く。

 それでも応答がないことに、皆で顔を見合わせた。

 朝食の時間になっても王女が部屋から出てこず、何度ドアをノックしても応答がないのだ。

 まさか二日目の朝からこんなことになるとは。


 そっとドアノブをまわしてみると、鍵が掛かっていない。

 そこで、セレナに中を見てきてもらうと、少し慌てた様子で戻ってきた。

 セレナの様子を見たイヴァンがすぐに部屋の中に入る。


「フェリクス様……」

「どうした?何があった?」

「どこにもいませんでした」


 俺も部屋の中に入ると、確かに姿が見えない。

 奥にある風呂場からイヴァンが戻ってくる。


「こちらにもいない。だが、争ったような形跡もない」

「ただ出かけただけの可能性もある。探すぞ」


 すぐにイヴァンとマルセロが外へ向かっていく。


「行き違いになったら困るから、セレナはここで待っていて」


 王女の存在がどこかで漏れて拉致された可能性は否めない。

 だが、現時点で話が漏れたという可能性は限りなく低いはずだ。

 ヤンセン男爵夫妻が漏らすとは考えにくいし、そうなると城で漏れたことになるが、道中不審な人物は見なかった。

 そもそも、城にいる時点で話が漏れていたのだとしたら、俺たちが到着する前にどうにかできたはず。


(いったいどこへ……)


 ふと窓の外を見ると、王女の部屋から見える大通りに露店が立ち並んでいた。

 往路ではなかった朝市だ。

 王都で計画書を作っていた時点でも、朝市の情報はなかった。

 規模は小さいが、密集していて人も多い。

 窓を開けてみると、ここまで賑やかな声が届いてくる。

 近くにいた宿の者に聞くと、『先月から隔週で朝市が開かれるようになった』と言う。

 興味を引かれて外に出た線が濃厚だった。


 外に出てみると、この小さな宿場町のどこにそんなに人が?と思うほどの人の多さで、思うように前に進むこともできなかった。

 一通り見ても見つからず、宿の前に戻るとマルセロも戻ってきた。


「いなかったか」

「はい。俺が捜索した方向にはいませんでした」


 もしも、イヴァンが見に行った方向にいなければ――と考えていると、イヴァンが険しい顔をして一人で戻ってきた。


「こちらにはいなかった」

「こちらもだ」

「まずいですね」


 最悪の展開だ。

 本格的に拉致された可能性も視野に入れて行動しなければならない。


「あちらも移動していてすれ違いになったり、人混みで見落としたりした可能性もある。もう一度――」

「あっ!おはようございます。皆さんも散策ですか?」


 声のしたほうへ三人が一斉に振り向く。

 そこには、王女とヨーシアがいた。

 目が合えば、にっこり笑顔を向けてくる王女。

 拉致ではなかったことに心底安堵したが、呑気な様子の王女に苛立ちを覚える。


 この緊迫感のなさ。

 本当に自分が王族という自覚を早く持ってもらわねば厄介だ。


 それにしても、俺は帰れと命令したのに、なぜここにヨーシアがいるのか。

 ちらりとマルセロを見やれば、目を逸らした。


「おはようございます。部屋に戻りましょう」


 すぐにでも注意したいところだが、ここではできない。

 宿の中に入ることを促せば、ヨーシアへと向き直る王女。


「あっ。道を教えていただきありがとうございました。知り合いに会うことができました」


 そういうことか。俺は余所行きの笑顔を作り、ヨーシアを見る。


「あぁ、なるほど。友人を送ってくださったのですね」

「へ?」

「感謝します、心から」

「いっ……、いえ。ボクは、何も……何もしていません……」


 ヨーシアの顔が引きつっている。


「イヴァン。アンナ様と先に戻っていてくれるか?セレナも心配している。俺はマルセロと少し用を済ませてから戻る」

「了解。行きましょう」


 イヴァンと王女が宿の中へ入ったことを確認し、ヨーシアに向き直る。


「どういうつもりだ?」

「ボ、ボクは今、休暇中ですから」

「…………」

「フェリクス様が仰ったんですよ、休んでいいって。だから、休みを使って好きなように、して……」


 俺が睨めばヨーシアは目を逸らしてしどろもどろになった。


「俺は帰って休めと言ったんだ。マルセロ、なぜ黙っていた?何が目的で隠した?」


 俺が睨めば、マルセロは肩を竦めた。


「目的など。俺も昨夜遅くに気づきまして。今朝はあの状況でしたので、報告のタイミングを逸していました。申し訳ございません」

「兄さんは悪くないです!ボクが勝手に!……申し訳ございません」


 マルセロを叱れば、ヨーシアはしょぼんと眉を下げた。

 少しは反省しているのだろう。


「はぁ……。それで?アンナ様とは?」

「朝食時に登場して驚かせようと待っていたら彼女だけが一人で出てきたので、気になって尾行しました。楽しそうに市を見ているだけだと思っていたら、突然きょろきょろしだして。どんどん宿から遠ざかるので迷子になったのだと思い、声を掛けました」

「そうか。まあ……助かったのは事実だから、今回に限り許さなければならないか」

「ですよね!?良かったぁ」


 俺が許すと言えば、ヨーシアは嬉しそうに笑っている。

 反省している様子がみられないヨーシアに呆れた眼差しを向けていると「なんだかんだフェリクス様だってヨーシアに甘いじゃないですか」とマルセロに言われた。

 無視してやった。


「だけど、同行は許さない。一人で帰れよ」

「えー!?」

「まだセレナはお前のことを怖がっている。セレナの前に姿を見せることを当面禁止する」

「……わかりました」


 部屋に戻ると、王女が謝ってきた。

 部屋で待っていたセレナの様子から、心配かけてしまったことを感じ取ったらしい。


「早朝からいったい何をされていたのですか」

「こっち側の窓から朝市が見えたので、どんなものが売っているのだろうと気になって。そうしたら、うちの領で最近作り始めた青いりんごが売ってたの!ちゃんと流通してると思うと嬉しくて、他にうちの領のものはないかと探してたら、他にもあったの!」


 興奮気味に答える様子に、本心では自分の行動がまずかったと微塵も思っていないことが伝わってくる。

 本当に頭痛がしそうだ。

 だが、土地勘のない場所で、王女が一人で出かけるとは思わなかった俺の落ち度か。


 今はまだ治安のいい田舎だし、偶然ヨーシアが保護してくれたからいいが、悪い者はどこにでもいる。盗賊が出ているという報告もあるのだ。

 今後も自由に行動されては困る。部屋から勝手に出るのは大問題だが、鍵を掛けぬまま出掛けるのも不用心すぎる。


(まさか、夜も鍵をせずに寝たわけではないよな。わざわざそこまで言うこともないと思ったが、それも言うべきか……?)


「…………」

「あの、そんなにだめなことでした?ごめんなさい」


 王女相手に何からどう注意すべきか迷っていると、察した王女が小さくなった。

 思わず嘆息してしまう。


「今後、一人で行動するのは絶対に控えてください。どうしても外に行きたいときは、私かイヴァンに必ず声を掛けてください」


 俺が「護衛としてイヴァンを伴に付けていただきます。必ず」と続けると、王女は明らかに面倒臭そうな顔をした。


「そんな大袈裟にしなくても。付き合わせるのは悪いし、今後はちゃんと言ってから行きますから。ちょっと出かけるくらい――」

「自分が王族であることを忘れないでください。貴女を無事に王城までお連れするのが我々の仕事ですので、外出時は必ず伴をします。万が一、アンナ様に何かあった場合、私たち全員の首が飛びますので」


 大袈裟に言っていると思っているのか、まだ不満そうな表情をしている王女に「物理的に」と付け加えると、王女は目を見開いて驚いた顔をした。


「処刑ってこと?私が勝手にしたことでも?」

「それがこの国の理なのです」

「……わかりました。ご迷惑をおかけしました」

「では、朝食に行きましょう」



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