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【電子書籍化】30歳年上侯爵の後妻のはずがその息子に溺愛される  作者: サヤマカヤ
第七章

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16

 

 王女様と二人きりでしばらく話していると、話し終えたフェリクス様や男爵夫妻が居間に戻ってきた。


「あ、アンナ……帰ってきていたの」

「うん。ただいま――どうしたの?お母様、また具合が悪いのではない?横になってたほうがいいわよ」


 ヤンセン男爵に肩を抱かれながら、居間に戻ってきた夫人の顔色は優れなかった。

 元々ほっそりしていてあまり体が丈夫そうに見えなかったけど、今は体調が悪そうなほどだった。

 活力溢れる雰囲気だったヤンセン男爵も、今は神妙な顔をしている。

 それも仕方がないだろう。


「大丈夫よ。それよりも……」


 夫人が視線で促した先には、フェリクス様とイヴァン様がいた。

 男爵家の屋敷の中は掃除が行き届いているとはいえ、家具も調度品もかなり年季を感じるもので、その中にいる高位貴族の二人は場違いに見える。


 王女様は、小さく「あ……」と声を漏らし、私に視線を送ってきた。

 私に紹介してほしいと言っているのかと思い、フェリクス様を見ると大丈夫というように頷く。


「王城より遣いで参りましたフェリクス・ハーディングと申します」

「同じく、イヴァン・ヘルツベルクと申します」

「あ、娘のアンナです」


 二人は簡易的に立ったままではあるものの、少し丁寧に胸に手を当てて腰を折り挨拶をした。

 まだ王女であることを告げていないから、通常王族にする慇懃な挨拶は避けたのだろう。

 ただ、イヴァン様はにっこりと爽やかな笑顔だったけど、フェリクス様はほぼ真顔だった。いつも通りと言えばいつも通り。

 その顔はあまりにも美麗で怜悧なので、相手に妙な緊張感を与えていそうだと思った。

 予想通り王女様の目が泳ぎ、私と目が合う。

 すすす……と、王女様は縋るように私の横へ移動してきた。

 大丈夫ですよ。と気持ちを込めて微笑みかけると、少しほっとしたような表情になった。


 間近に視線を感じると思い、見ると隣に移動していたフェリクス様が笑みをたたえて私を見ていた。

 私にとっては見慣れた――むしろいつもより甘さを抑えた笑みだったけど、隣から「わぁ……」と感嘆したような声が聞こえる。

 王女様を見ると、フェリクス様を見る目が輝いていた。

 瞬間的に、新婚旅行時の嫌な記憶が思い出されてしまう。

 もしも、王女様がフェリクス様に一目惚れして所望されたら……。

 一瞬で嫌な想像をしてしまったけど、気づけばフェリクス様がいつも通り私の腰を抱いてきた。


「さすがセレナだ」


 フェリクス様は嬉しそうな声色でそう言うと、指の背でするりと頬を撫でてくる。何が『さすが』なのかわからない。

 一撫でで満足したのか、フェリクス様は王女様に向き直った。


「我々は王城からの遣いと申しましたが、内密の案件で伺いました。アンナ様にも重要な話がございます」

「えっ。私にも、ですか?」

「はい。アンナ様に、です」


 フェリクス様は宰相補佐官としての声を出している。淡々としていて冷たいくらいの声。

 だけど、私の腰を抱いて、私をフェリクス様と王女様の間に挟んだまま。

 キリッとしても、間に私がいては締まらないだろうと思ったけど、王女様はフェリクス様の表情や声色に一瞬で緊張したようだった。

 真剣な声色を聞いた王女様は、確認するかのようにご両親を見る。

 ヤンセン男爵夫妻は揃って頷いた。


「わかりました。お願いいたします」


 承諾する声には不安が表れていた。


「では、応接室で。参りましょう」


 王女様に向かってそう言うと、フェリクス様は私の腰を抱いたまま応接室へと方向転換する。

 今度は私が戸惑う番だった。


「えっ、フェリクス様?離してください」

「どうして?嫌なの?」


 重要な話をするのに、私は同席できないだろう。そう思ったのに、私の腰を抱いたままフェリクス様は足を止めようとしない。

 仕方ないので、小声で「私が聞いたらだめな話をするんですよね?」と訴える。


「今度はセレナに一緒にいてほしいんだ。いるだけでいいよ」

「えっ、でも……」

「一対一ではないとはいえ、男性二人と女性一人。密室で話すのはね」


 なるほど、貴族のマナー的なものかと納得した。

 それなら、私は置物に徹しようと思ったのに、「セレナがいてくれたほうが、心強いと思うし」と言われ、ちらりと王女様を見やる。

 緊張が顔に表れていて、目が合うと縋るような視線を送られた。

 フェリクス様が私に「いるだけでいい」と言っていた意味が少しだけわかった気がした。



 ◇


「……信じられない」


 一通りフェリクス様の話を聞いた王女様は、唖然と呟いた。


「ご自分が養女であることは承知されていると伺っていますが?」

「それは聞いてます。生みの親は誰なのかわからないって聞きました。でも、だからって……」


 当然の疑問だ。


「王妃を直接見たことはありますか?」

「いえ、ありません。新聞などの姿絵でしか」

「正直に申しますと、私も証拠はあるのかと思っておりました。先ほど、ヤンセン男爵にこの話をする前に、殿下を拾ったときの話を確認させていただきました。すると、殿下を街角に置いた側仕えが証言した内容と、時間や場所、状況が一致していました。まだ、この国の王女殿下だと伝えていないのに。それに、王妃に似ておられるなと感じました」

「だけど……」

「ヤンセン男爵も、御母堂様は王妃似の美人だったのだろうと、成長するたびに思っていたそうです。まさか生みの親が本当に王妃とは思わなかったようですが」

「お父様が」

「あまり時間はありませんが、よく考えて答えをお出しください。一応、行かないという拒否もできます」


 端的に話すフェリクス様にハラハラしてしまう。けれど王女様はもう臆していない。


「拒否したらどうなるんですか?」

「残念ですが、我々は一度王都へ戻ります」

「一度ということは」

「また伺わなければならないかと」


 フェリクス様の答えを聞いて、考えている様子の王女様。

 話を聞いた直後に答えを出せというのは、あまりに酷。


「数日以内に答えをお聞かせ願います」

「わかりました……」



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