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第93話 【エッチ、しない?】

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「僕達兄妹はわかる。だが、なぜセレスの名前が……」


『おーい』


「異世界組で加代と一番親密なのはロリだ。なのにどうしてセレスが……」


『おーい、考えても無駄だってば』


「〝加代の幸せ〟にはセレスが必要だと言うのか。それとも……」


『だ~か~ら~ッ、いくら考えてもわかるわけ無いっつってんのよッ。簡単に解決するなら2万KPも必要ないってーのッ。話を訊け、このチェリー野郎ッ』


「チェリー言うなッ! 奇蹟とは、そういうものなのか?」


『多分そうよ。知らないけど』


「知らないのかよ」


『とりあえず、君の目標は【2万KPを貯めて、妹ちゃんを幸せにする】でいいじゃない。そしたら気兼ねなくハーレム生活を、エンジョイ&エキサイティングできるんでしょ?』


「そうだな。ハーレム云々の下世話な話は置いといて、ようやく目標ができたよ。正直、セレス達に何もできない自分に苛立っていたんだ」


『何もできない、ねぇ。へー。ふーん』


「え、エッチな意味じゃないぞッ」


『エッチな意味もあるでしょうが。ところで、妹ちゃんの〝髪をまっすぐ〟はダンジョンの薬草を使えばすぐじゃない。どうして叶えてあげないのよ』


「仕方ないだろ。龍神様に嘘をついたせいで、今の僕はレベルが低いってことになってるんだから。この世界にダンジョンは、龍神様の【次元迷宮】しかないんだし」


『ダンジョンの中で暴れたら、龍神に筒抜けだものね。例の薬草は〝熱帯林層〟だっけ? 』


「だな。〝熱帯林層〟は散々世話になったよ。食料になるものが沢山いたからな。〝トレントキング〟みたいなやっかいな敵も多かったが」


『〝トレント〟か。なら〝レベル20〟は必要ね』


「加代には悪いが、こず枝のレベルが上がるのを待つしかあるまい」


『待たなくていいわ。コソッと潜ればいいのよ。』


「コソッとって、お前な……」


『大丈夫よ。女神様印のバトルスーツなら存在すらバレないわ』


「マジでッ? あの龍神様を騙せるの? すごいな。見た目は最悪だが、さすがは女神様謹製って――あ痛ぁぁぁッ」


 ゴワンッ。天罰のタライが脳天を直撃し、携帯から呆れ声。


『君も懲りないわねぇ。それともすぐに忘れちゃうのかしら。鳥頭ってやつ?』


「これは悪口じゃないだろッ。あんな背中に女マークの入った緑色の戦闘服、ジョーク以外のなんだって言うんだ――あ痛ァァッ」


 ゴワンッ。(以下略)


『……あのね、女神様はそのバトルスーツのデザインに三日かけたのよ? なんと三日よ? 一週間で世界を創造できる御方が三日もウンウン悩んで完成させた〝神のデザイン〟よ? チェリーには、このセンスがわからないのかしら。それがチェリーのチェリーたる所以よね』


「やかましい平面体ッ。くそーッ。この天罰め、相変わらず地味に腹立つわッ。ん? そうか。〝奇蹟〟を使ってこの天罰を無効にすればいいのか。毒をもって毒を制す、だな。〝僕の天罰が消えますように〟っと――お、出てきたな。なになに〝大萩礼二郎の天罰無効化――200000000KP〟おっと、いかんいかん。どうやら僕は疲れているようだ、ハハハ。いったん目を閉じてっと――さてと、どれどれ、いち、じゅう、ひゃく、せん……うぉぉぉぉぉいッ。ににに、2億KPってどういうことだぁぁぁッ。〝迷子の男の子を家に送り届ける――1KP獲得〟なんだぞ。迷子になった日本人全員を家に送り届けろってかッ」


『そりゃそうよ。女神様直々の呪……コホン、天罰システムよ? なまなかな奇蹟で消せるはずがないわ』


「おい、サナダ虫。今お前〝呪い〟っつったよな?」


『虫って言うなぁッッ。さて、なんのことやら? これ以上は弁護士を呼んでちょうだい。ところで魔女はいいとして、お兄さんや佐々木春香ちゃんには、願い事を訊いてあげないの?』


「春香さんは僕から連絡はしないし、できない。兄ちゃんは……」


『ま、いいわ。君たち兄弟はいろいろあるみたいだし、深くは追求しないわよ』


「サナダ虫、お前、実はいい奴なのか?」


『だーかーらー〝虫〟って言うなっつってんでしょッ。ぶっ殺……シッ、誰か来るわ』


 耳を澄ますと、確かに廊下を歩くスリッパの音がした。

 そして、それが部屋の前で止まる。

 コンコン。

 少し間を置いて鳴ったノックの音に続き、少し恥ずかしそうな声が聞こえた。

 ()()()()、こず枝がやってきたのだ。


「レイ……あの、準備できたから、入っていい?」


 ゴキュリ。礼二郎の喉がビックリするほど大きな音を立てた。

 

「ああ、どうぞ」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



 こず枝が、少し震える声で言った。


「後ろを向いて、電気……消してくれる?」


 礼二郎は部屋の入り口にある電灯のスイッチに手をかけた。

 

「……わかった。消すぞ」


 パチン。礼二郎の部屋(チェリールーム)に闇の帳が降りた。

 パサッ。背後で服が床に落ちる音。


「いいよ……こっち向いて……」


 暗闇の中、礼二郎は振り返る。

 同じく上着を脱ぎ、床へ落とした。

 うっすら見える影を頼りに近づく。

 手を伸ばすと指先がこず枝の肩に触れた。

 ピクッ。こず枝の身体が震えた。

 胸を隠していたであろう両手を降ろし、礼二郎の腰と背中に回す。


「……すごい筋肉。いつのまにか、こんなに逞しくなってたんだね」


 礼二郎の耳にかろうじて聞こえるほどの囁き。

 礼二郎は初恋の背中にそっと手を回した。


「こず枝。力を入れるぞ」


 言って、礼二郎は幼馴染みの女の子を強く抱きしめた。


「あ……」


 こず枝の呻きとも吐息ともつかぬ声が、礼二郎の耳をくすぐる。


「痛いか?」

「ううん、大丈夫……でも、恥ずかしい」

 

 密着する16才の肌と肌。

 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。

 心臓の音がうるさいほど聞こえた。

 こず枝の心臓か、礼二郎の心臓か、もしくは両方なのか。


 異様なほどやわらかく、細い身体であった。

 そして信じられないくらい熱い。

 風呂上がりの髪はクラクラする程いい匂いだった。


「行くぞッ。《神の(レジストリ)采配(ビユーション)》ッ」


 二人の身体を淡い光が包み込む。

 こず枝の呼吸が荒く、そして熱くなった。


「なに……これ? あ……あぁッ。レイ、レイッ」


 叫び、こず枝は礼二郎の背中に激しく爪を立てた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「終わったぞ。これで、こず枝はレベル5だ。――こず枝? もう離れていいんだぞ? あの、菊水さん?」


「すごかった……今でも心臓が爆発しそう……」


「す、すまん。あの、それはそうと離れないと……」


「レイの心とわたしの心が重なったとき、理解したわ。レイがどんなにセレスさんのことを想っているのか……これがイライアさんの言ってたことなのね」


「師匠の?」


「でも同時に、レイがセレスさんには感じなかった想い――その、わたしで興奮してるのも伝わったわ。あの、レイの方にも、わたしの、その」


「う、うむ、そうだな。でもこれは、男と女なら仕方の無いことで、決してこず枝が特別スケベェな訳では」


「ねえ、レイ」


「な、なんでしょうか?」


「ダンジョンでわたしに訊いたよね? 〝願い事が叶うなら〟って」


「ああ」


「願い事はあるわ、いえ、今願い事ができたの」


 こず枝がそこで言葉を止めた。

 

 ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ


 密着したままの胸。

 尋常じゃない速さの鼓動。

 礼二郎の首筋に、こず枝の荒い吐息。

 シャンプーの匂い。

 こず枝の匂い。

 

 ゾクゾクするほど背徳的な快感。

 

「こず枝……」


 耳にかかる礼二郎の囁きに、こず枝の身体は震え、吐息を零す。

 熱い吐息が小さな呻きへ。

 そして呻きはきっかけとなる。


「はぁ……レイ……」

 

 こず枝は意を決したように、一度大きく深呼吸をし――小さく囁いた。


「このまま……エッチ、しない?」

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