第87話 【防御頼む】
『朝っぱらから、何やってんのよ。思春期か』
イヤホン部分から声が聞こえた。
「やかましい平面体。しゃべるな、話しかけるな。あと、思春期だ」
礼二郎がマイク部分へ罵った。
通学路を、徒歩で駅まで向かっている最中である。
『イヤホンマイクをつけなさいよ。さもないと、あらゆる着信音が、君の恥ずかしいセリフをラップ調に編集したものになるわよ?』
と、自分の携帯から脅され、仕方なくイヤホンマイクを装着している礼二郎であった。
ちなみに、この口の悪い携帯が冒頭に言ったセリフは、礼二郎とイライアのイチャコラ――なぜか朝っぱらから感極まった礼二郎がイライアに抱きついた結果、危うく、イライアのプライベートルームに連れ込まれそうになった件――についてである。
『ねえ、そろそろ仲直りしない? あたしが君に必要だってことは、いくら君のカボチャ頭でも、昨夜の件で十分わかったでしょ?』
携帯電話が言った。
「……言いたくないが、確かにお前は役に立つ」
最強賢者が言った。
『なによ、ちゃんと意思の疎通ができるじゃない。いよいよ、ニホン猿の言語プロトコルをインストールしなくちゃ駄目かしら、と本気で思ってたところよ。言葉が通じるなら〝平面体〟とか〝お前〟って呼ぶのは、そろそろ、お姉さん止めて欲しいな』
「ん? お前、名前があるのか?」
『無いんだな、これが。だから今決めましょ。そうね、これから相棒になるわけだし、君の右腕って意味で【ミギー】はどうかしら?』
「それは、いろいろとマズくないか?」
『マズいってなにが? まあ、いいじゃない。そのうち【ミギー防御頼む】ってくらい、いいバディーになるかもね』
「さらにマズいことになってるな。ところで、お前の動力源はなんだ? いいバディうんぬんは別にして、お前の活動を停止させたいのだが」
『君だよ。君の魔力を、ちょっこし頂いてるの。つまり、君の健康状態が、あたしにも直結するわけ。だから、できるだけバランスの良い食事を摂ってもらえると、お姉さん助かっちゃうな。あ、死ぬまでチューチューするわけじゃないわよ? 君の魔力が30%を切ると、あたしの電源が落ちる仕組みだから、安心してね』
「まるで寄生虫だな」
『あたし達、携帯電話業界からしたら、この地球を蝕む君たちの方こそ、寄生虫だけどね。いや、虫じゃないわね。寄生じゅ……』
「おっと、そこまでだ。これ以上は防御できん。とにかく〝ミギー〟は却下」
『じゃあ、どうするのよ?』
「そうだな。待てよ、バランスの良い食事か。うん、そうだ。料理において、主役ではないが、健康のためには必要不可欠な存在である〝サラダ〟。そこから取って、〝サナダ〟ってのはどうだ? 頼りになる相棒のお前にピッタリじゃないか」
『サナダ、か。なんか、かわいいし、語呂もいいわね。それに縁の下の力持ちって感じな名前の由来も悪くない……。うん、いいんじゃないかしら。よし! 今から、あたしの名前は〝サナダ〟よ!』
「そうか、決まりだな。これからよろしく頼むぞ、サナダ」
礼二郎は、ニチャリとほくそ笑んだ。
その名前が超メジャーな寄生虫『サナダ虫』由来であることは言うまでもない。
そして、2時間目の授業中、そのことに気付いた寄生携帯電話生命体サナダ(♀)が、礼二郎恥ずかしラップを大音量で奏でたことにより、礼二郎は先生からこっぴどく叱られ、クラスメイトからは失笑を買ったのであった。
※投稿度点数減少創作意欲激減作者意気消沈更新意欲消滅次回未定虞兮虞兮柰若何




