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第84話 【三つ目の(訳あり)神器】

「どチクショーッ! まさか、亜空間から自力で脱出するなんて!」


 礼二郎はベッドに腰を下ろし、上の頭を抱えた。


「電源も落としていたのにィッ」


『はい、残念でしたぁー。あたしの電源は基本入りっぱなの。ずっと寝たフリをしてただけよ。あーおっかしー、プークスクス。そんなことより敬語を使ってもらえるかしら? あたしは女神様の神器なのよ? あと手は洗いなさい。その手でフリックされたら、ウィルス感染しちゃうでしょ。物理的に』


 フラフラと空中を移動しながら、携帯電話が口汚くしゃべっている。


「だれが、お前なぞに敬語を使うか! ん? 電源が入りっぱ……? ま、まさか、お前、僕と師匠の!?」


『ええ、聞いてたわ。大事なところにいたっては、バッチリ録音しちゃってるわよ。なんなら再生しましょうか? ――「師匠、大丈夫です。死んだりしません。でも、もしものときは……僕もすぐに後を追います。それでは、ダメですか?」まぁ、なんて臭――コホン、素敵なセリフなんでしょ。プークスクス』


 携帯少女の声が、途中から礼二郎の声に変わった。

 それの音声は紛れもなく、デート中に剣帝エバンスな(とんでもなく臭い)セリフを吐く礼二郎であった。


「ぐぉぉぉぉぉッ! ななな、なんてことを! 返品だ! クーリングオフしてやる!」


『あれれ? そんなこと言っていいのかしらぁ? 〝神器〟であるあたしがその気になれば、君の写真と、こっ恥ずかしい音声を、全世界に配信できるのよ? ワールドワイドでアソコと赤っ恥を晒したいわけ?』


「やっぱり盗撮してやがったな! なにが神器だ! 呪いの魔道具じゃねぇかッ!」


『呪いとは失礼ね。君がケンカを売るからでしょ?』


「お前が盗撮したからだろ!」


『証拠は? 言っとくけど、あたしのデータを見ても無駄よ』


「さっき、〝アソコを世界に配信するって〟って言ったんだろうがッ!」


『さてなんのことかしら。証拠不十分ね。はい、残念でしたー。あのね、あたしは女神様に言われて、ここにいるわけ。簡単に返品されたら、たまったもんじゃないわ。いいから観念して、()()()()()()を使いなさい。()()()()()()()()()()()()()()()()いいの?』


「セリフがまんま悪党じゃねえか、ちくしょーッ! 《ステータスオープン》!」


 前方に四角い電子的な画面が浮かぶ。

【ステータスウィンドウ】だ。

 礼二郎は画面右にある人型の絵をタッチした。

 ブーン。

 別ウィンドウが立ち上がる。そこにはびっしりと並んだ文字。


 すべて、礼二郎が所有している武器や鎧の名前だ。

 その文字のひとつが、まるで合コン会場で頼まれてもいないのにヤレヤレと腹の立つ顔をしつつ最初から最後まで押しつけがましく料理を取り分け続けるズレた自己アピールに必死な婚活女子がごとく、高速点滅している。

 礼二郎は、その痛い女子にロックオンされた大富豪イケメンがごとく、ため息をついた。

 ちなみに礼二郎は、合コンに行ったことはない。

 これらの比喩情報は、すべてネットの受け売りである。


【神器OH(オリハリコン)バトルスーツ・女神改】


 そう書かれた、自己主張の激しい文字をタッチする。

 最初の画面、人型部分に【神器OHバトルスーツ・女神改】の文字が追加された。


「……《次元装着(アダプテーシヨン)》」


 礼二郎が鏡の前に立ち、呟く。

 全身が光に包まれる。1秒とかからず光は消えた。

 礼二郎は、恐る恐る目を開け鏡を見ると……


「なんじゃこりァーーーーッ!?」


 太陽に吼えた。


★後書き★


これで第8章は終わりです。お疲れ様でした。

日本に転移して1週間がやっとこさ経過したわけです。


ちなみに女神様からもらった三種の(訳あり)神器は


1 偽礼二郎(詳細不明)

2 毒舌携帯電話(口汚い)

3 女神製バトルスーツ(詳細不明)


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