表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/142

第72話 【地獄のトイレ、天国のフードコート】

※)本日3話投稿予定! そのラストの3話目です。サンキュードーモアリガトー!


※ほんのりグロ描写あり

「ふーん」

 

 青い目が真之の眼前まで近づく。

 甘い匂いがした。

 生クリームだろうか?

 いい匂いであった。

 が、皮肉にもその香りのリアルさが、真之の恐怖に現実味を与えた。

 

 ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!

 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、!


 心臓と呼吸の音が、耳を聾する。

 やがて永遠とも1秒ともとれる時間が過ぎ、少女はボソリと呟いた。


「嘘ね」


 ドクンッ!! 

 その言葉で少年の心臓が、破裂するほど大きく鼓動した。

 

 少年にはわかっていた。

 恐らくこの場をやり過ごせば、ここでの出来事を自分の都合のいいように解釈するだろうことを……。

 そして結局は加代という少女を、欲望のままに襲うだろうことを……。

 

 少年の卑しい心は、目の前の美しい少女にすべて読まれていたのだ。


 少女が真之から視線を外した。

 そのまま背を向けると、三歩進んだ。

 青い瞳から解放されたにもかかわらず、真之はピクリとも動けない。

 ただ少女の姿を見るしかなかった。


 ゴクリッ! 真之の喉がビックリするほど大きな音を立てた。


 恐怖に匹敵するほどの感情――劣情が沸き起こる。 

 少女の背中を覆う布は存在しなかった。

 褐色の健康的な肌が、すべて露わになっている。

 こんな状況にもかかわらず、真之は眼前の年端も行かない恐ろしい少女に、今まで経験したことのないほどのエロスを感じた。

 

 少女がクルリと振り返った。

 

「じゃあロリス、お願いね」

 

 そう言って、左手首にはめたブレスレットを外し、地面に落とした。

 すると少女の全身に青い紋様が浮かび上がる。

 恐ろしくも幻想的な光景だった。

 そのあまりの美しさに、真之は一瞬だけ恐怖を忘れ、見入ってしまった。


「クフフフ。さあ始めるわよ」


 さっきまでとは別人のような表情で、少女が少年へ腕を伸ばした。

 少年の眼前には、少女の開いた手のひら。

 これからなにをされるのか。

 再び恐怖のみが少年の心を支配する。


「嘘つきには罰を。まずは『加代を視姦した目』」


 グッと手を握る。


 ブチュッ!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁ!!」


 少年の右目が音を立てて潰れた。

 少女が触れていないにもかかわらずだ。


(いだ)(いだ)(いだ)(いだ)い!!」


 とんでもない激痛が脳を突き抜ける。

 少年は微動だにできず叫び声を上げた。


「クフフフ。いいわぁ。その悲鳴は嘘じゃないわね。次は『加代を触ろうとした腕』」


 少女が再び前に掲げた右手をキュッとひねる。


 ボキィッ!


「ひぎゃぁぁぁっぁぁっぁぁっ!!」


 左肘から先が、あり得ない方向へ曲がった。

 少年は残った左で白目を剥き、口からは大量の泡を吐き出した。

 意識を半分失っているにもかかわらず、少年は立っていた。

 少女は座ることさえ少年に許さない。


「その叫びも嘘じゃないわね。……あ」


 少女が自分の下半身を触りながら、なまめかしい声を上げた。


「いだい、いだいよぉ……。たず……だずげで」


「ああッ! もっと! もっとよ! もっと泣きなさい! もっと叫びなさい! もっともっと()()()()を楽しませるのよ、()()! アーッハッハッハッハ! 次は『加代の悲鳴を聞こうとした耳』よぉ! アーッハッハッハッハ! アーッハッハッハッハ!」

 


 それから長い時間、真之の悲鳴と少女の嬌声が、そして心の底から楽しそうな笑い声が、灰色の世界を彩り続けた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「ったく、なにやってんだよ」


 良夫が呟いた。

 なかなか部屋の戻らない友人を探しに来たのだ。

 トイレで別れてから15分は経っている。

  

「おいこら、真之! いつまでクソして……」


 良夫がどなりながらドアを開けると――


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 ひとりの男がトイレの床に転がり、ブツブツと謝り続けていた。


「うぉッ! なんだよ!」

 

 男は真之と似たような服を着ていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 男は良夫を見ようともせず、しゃがれた声で謝り続けた。

 良夫はこの異様な光景に、言い知れぬ恐怖を感じた。 

 真之ではなかった。

 見たこともない顔だ。

 そもそも真之とは、似てる似てない以前の問題なのだ。

 この男が真之で()()()()()()()()()

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 男の両手両足、そしてほとんどの指は、あらぬ方向に曲がっていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 さらに片耳はなく、片目の眼球があるべき場所には、真っ黒い大きな穴が開いている。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 血は一滴も見当たらなかった。

 つまりこの男は曲がった手足のまま、ここへ移動してきた?

 それに男はなにを謝っているのか?

 なぜ謝っているのか?

 そして誰に……。

 良夫の恐怖がさらに大きくなった。

 

「まさ……ゆき、なのか?」


 良夫はカラカラに渇いた喉で、無理矢理に声を絞り出して尋ねた。

 まさか、と思いながらの質問であった。

 走って逃げたかった。逃げるべきだったのだ。

 だが、妙な責任感と少しの使命感、そして愚かな好奇心が、良夫の逃走を妨げた。


「ごめ……」

 

 男の呟きがピタリと止まった。

 残った方の目が血走り、恐ろしいほど見開く。

 ギ……ギ、ギ、ギ……

 男――()()()()()がゆっくりと良夫に顔を向け、言った。


「よじお……たずげ……で……」


 そして、良夫の声が店内に響き渡った。

 それは、この世のものとは思えないほどの絶叫であった。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「大丈夫だった?」


 加代が腰掛けたまま言った。

 ショッピングセンターのフードコートは大勢の人で溢れている。

 大量に買った服やぬいぐるみは、配送サービスを利用して家に送った。

 おかげで現在は、ふたりとも手ぶらである。


「ごめんなさい! すごく人が多くって」


 トイレから戻ったロリが申し訳なさそうに言った。

 四人がけなのに、加代の隣に腰を下ろす。


「謝らないの。10分も待ってないんだし。まあ日曜だしトイレは混むよね。それにしても」


「どうかした、加代ちゃん?」


「ロリちゃん、なんだかすごくスッキリしちゃってるね」


「スッキリ?」


「うん、なんか、ずっと我慢してたのを出し切ったぞって感じ。礼兄ぃもたまに同じ顔してるよ」


「出し切……って、やだ、加代ちゃんってば! ここはご飯食べるところでしょ!」


「あはッ、ごめんごめん! ――じゃあ行こうか?」


 加代が立ち上がる。


「うん!」

 

 ロリもすぐに立ち上がり、加代の左腕に抱きついた。


「あはは。ロリちゃんは甘えんぼさんだぁ。なんだか、お姉さんになった気分ね」


「ウフフ。今からどこに行くの、お姉ちゃん?」


「そうだね。カラオケでも行ってみる、妹ちゃん?」


「カラオケ?」


「あれ? 知らない? 歌をうたうところだよ。ってロリちゃんは行ったことないか」


「……一度だけあるわ」


「へ? そうなんだ。大声で歌うと気持ちいいよね」


「うん!」


 ロリが上気した顔を、加代から隠すようにして呟いた。

 

「……すごく気持ちよかったわ。クフ……クフフ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品を読んで頂きありがとうございます!
少しでも気になった方は、一度作品の評価をしてくれると、うれしいです、うれしいです、うれしいです!(☆☆☆☆☆をタップするだけです)

★★★★★で、応援していただけるとすごく励みになります!


ブクマもうれしいです! 超うれしいです!
気に入らなくなったら、遠慮なく評価を取り消して構いません(※同じ場所をタップすれば簡単に取り消せます)
script?guid=on<
『転生したら悪魔ハーレムでした!?~愛弟子に毒殺された錬成術師は魔人となり7人の美女悪魔を仲魔にして王族に転生する』
こちらもブクマ&評価で応援いただけると大変励みになります。
 小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ