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第60話 【ろりかよ、コンビ誕生秘話】

「ロリス? ねえ、ロリスってば……」


 自室のベッドに腰を下ろし、ロリは呼びかけた。

 だが、ロリのもうひとつの人格であるロリスは、答えなかった。


「ねえってば」

 

 それから何度か呼びかけても返事がないので、ロリはあきらめた。


(ロリスは、れいじろう様に、なにを言ったのかしら?)


 ダンジョンでロリスに代わり、再び身体の主導権を取り戻したのは、イライアの部屋だった。

 そのとき目の前には、落ち込んだ顔の礼二郎が立っていた。

 それを見たロリは、ゾクリとした快感が沸き起こると同時に、不安にもなった。


(まさかロリスが《魅了》を使って、れいじろう様と……)


 風呂へ入ったときに、一線を越えていないのは確認済みである。

 だが、それに近いことをしたのでは……。

 ロリはそこまで考えて、首を振った。


(そんなはずはないわ。だって、ロリスは約束したんだもの)


『レイジロウと話をさせてもらえないかしら? 大丈夫よ。《魅了》は使わないと約束するわ』


 ロリスは、そう言った。

 疑う余地はない。

 ロリスは、ロリに対してだけは、嘘をつけないようになっているのだから。


(じゃあ、一体なにが……。でも、なにが起こったにせよ……)

 

  ロリのやることは変わらない。

 今夜も、皆が寝静まった頃に、()()()()()礼二郎の布団に潜り込む。

 そして、〝悪夢を見てうなされる振り〟をするのだ。


 卑怯で卑劣な手段だった。

 それはロリも承知している。


(今日も、れいじろう様の優しさにつけ込むのね)

 

 ロリは自分を嫌悪した。

 だがセレスに勝つには、他に方法がなかった。


(でも、もしこれでうまくいったとしても、ロリは……)


 コンコン。


 そのときノックの音が聞こえた。

 ビクッ! ロリの身体が跳ね上がる。


(まさかイライア様……?)


 他に思い当たる人物はいなかった。

 一瞬シャリーかもと思った。だが違う。

 あの猫娘はノックをしない。


(イライア様が、ロリスを消しに来たんだわ)


 ダンジョンでロリスがなにかをして、それがイライアの耳に届いたのだろうか。

 ロリの全身から、血の気がサァっと引いていく。


(どうしようッ、どうしようッ)

 

 予想は外れた。


「ロリちゃん、わたしよ。まだ起きてる? 入っていいかしら?」


 聞こえてきたのは、少女の声だった。


「え……? は、はいッ。起きてます。どうぞお入りください」


 ガチャリ。

 ドアを開けて入ってきたのは、ピンクの寝間着姿の少女。

 

「お邪魔しまーす。うわぉ、ロリちゃんの部屋、初めて入っちゃった」


 少女が、キョロキョロと部屋を見渡して言った。

 加代であった。

 枕を抱えている。


「あの、加代様、どうされたのですか?」


 まっすぐ立ち上がって、ロリが言った。


(どうして加代様が?)


 ロリは懸命に考えた。しかし答えは出ない。

 すると、もじゃもじゃに膨らんだ髪の少女は、モジモジしながら口を開いた。


「ねえ、ロリちゃん、今日は一緒に……寝ない?」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「あはは、誰かと一緒に寝るだなんて久しぶり!」


 ベッドの右側を占拠した加代が、うれしそうな声を上げた。

 ロリは、50センチほど離れた位置で、仰向けに寝ている。


「あの、加代様」


 横目で加代のもじゃもじゃ頭を見ながら、ロリが呟いた。


「なに? ロリちゃん」


 加代がごろんと寝返りをうって、ロリの横顔を見つめた。

 と言っても、真っ暗闇だ。おぼろげにしか、ロリの顔が見えないはずである。


「どうしてロリと一緒に?」


 ロリが顔を右に傾け、少女の瞳を見つめた。

 暗闇にもかかわらず、ロリの目には、ハッキリと加代の顔が見えている。

 ロリの身体に半分流れる魔族の血が、それを可能にしている。


「だってロリちゃん、ずっと泣きそうな顔してるんだもん」


「え……?」


「ずっとだよ。お風呂のときも、ご飯のときも、ずっとずっと、泣きそうな顔してるんだもん」


「そんな……ロリは別に泣きそうな顔なんか……」


「もう隠さなくてもいいんだよ。どうしてだろうね。ロリちゃんが泣きたいのを我慢してるってわかっちゃうんだ」


 ロリはずっと笑顔を絶やさなかった。

 自己嫌悪でぐちゃぐちゃな心を、笑顔の仮面で必死に押し隠していた。


(ど、どうして……)

 

 すべて見透かされていたのだ。

 目の前の、魔法もスキルも使えない少女に……。


「加代様……」


「ロリちゃん、礼兄ぃとなにかあったんでしょ?」


「…………」


「礼兄ぃのこと、好き?」


「そんな……ロリなんかが、れいじろう様のことを好きだなんて……」


「でも、好きなんでしょ?」


「ダメなんです……。ロリは、れいじろう様のことを好きだなんて言っちゃいけないんです」


 ロリは礼二郎の奴隷だ。

 しかも礼二郎は、魔王を倒した救国の英雄である。

 身分が違いすぎる。


「ロリちゃん。人を好きなるのは誰にも止められないし、好きになる自由は誰でもあるんだよ? ――よいしょっと」


「か、加代様!」


 ロリが驚きの声を上げた。

 加代がロリの頭を抱き寄せ、胸に押しつけたからだ。


「ロリちゃんは、礼兄ぃのことを大好きなんだよね。あはは、全然隠せてないよ?」


「加代様……」


「ねえ、礼兄ぃの、どこがそんなに好きなの?」


「え? そ、その、笑った顔が……」


「あー、わかる。礼兄ぃの笑った顔って、赤ちゃんみたいでかわいいよね」


「あ、あと……ロリがわがままを言ったときの困った顔が……」


「それもわかるわ。『やれやれ、しょうがないな』って、まんざらでもない顔でしょ?」


「……好きです」


「うん」


「れいじろう様の、笑った顔が好き……です」


「うん」


「れいじろう様の困った顔が好きです……」


「うん」


「れいじろう様の温かい手が好きです。匂いが好きです。やさしい声が好きです。怒った声が好きです。ロリは、れいじろう様が好きですッ。大好きなんです! なのにロリは……ロリは……うわぁぁぁぁぁん!」


 加代の身体にしがみついて、ロリは泣き叫んだ。


「よしよし。大丈夫だよ。なにをしたのかわかんないけど、わたしが許してあげる」

 加代がロリの背中を、頭を、やさしく撫でて、言った。

「礼兄ぃが許さなくても、他の人が許さなくても、わたしが許してあげるからね」


「加代様。加代様ぁ! うわぁぁぁぁぁん!」


 それからロリは長い時間泣き続けた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「シャリー、そこで、なにをしているのだ」


 セレスが廊下で声を上げた。

 見ると、枕を抱えている。


「お前と同じことにゃ」


 ロリの部屋の前で、猫娘シャリーが言った。

 その腕にも枕が。


「そ、そうか。ならば、みんなで一緒に……」


「その必要はないにゃ」


「なに? どういうことだ?」


「アチシ達の出番はないってことにゃ」


「つまり、ロリはもう大丈夫ってことなのか? まさか主殿が……」


「いいからそっとしておくにゃ。もしかして、自分がさみしいのにゃ?」


「ば、バカを言うな! さみしくなんか!」

 セレスが顔を赤くして言った。

「少しだけ……」


「みなまで言わにゃくていいにゃ。しょうがないにゃいから、今日はアチシが一緒に寝てやるにゃ」


「こ、子供扱いはしないでくれ! だが、そうだな。今日はふたりで寝るとするか! さあ、どっちの部屋で寝ようか?」


「セレスの部屋で寝たらポンコツ菌がうつるにゃ。アチシの部屋で寝るにゃ」


「ぽ、ポンコツ菌ッ? クッ、なぜか否定できない!」


「それじゃ行くにゃ」


 シャリーがセレスの背中を押して言った。

 自分の部屋に戻る途中、ロリの部屋の方へ振り返って――


(ロリが、あんなに心を開くだにゃんて……)


 ――シャリーは、少しだけ悔しそうな顔で微笑んだ。


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