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第43話 【異世界組の方針】

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 

 


「なによこれぇぇぇっ!」


 リビングへのドアを開けた加代が絶叫した。

 眼前に広がるは、まるで貴族の屋敷だった。

 映画でしか見たことのない、広々とした豪華絢爛な部屋だ。

 呆気にとられる女子中学生の元へ、黒いドレスの女性が近づく。


「お主が我が弟子の(いもうと)()か。ふむ、あまり似ておらぬな。今日から世話になるゆえ、少し屋敷を改造しておいた。なに勝手にやったことじゃ。金は取らぬから安心するが良い」


「え、誰、()……モゴモゴモゴモゴ」

「にゃにゃにゃ!」「わーっ!」



 加代の口を、猫娘シャリーとJKこず枝が物理的に封じた。



「『お』……じゃと? 『お』とは、なんじゃ……? いま、なにを言いかけたのじゃ……?」



 本日三回目の全滅フラグが立ち、こじらせ魔女の黒髪が、さわさわとうねり始める。

 これはダメにゃ、とシャリーは、小さな脳をフル回転させた。



「お……お、おっぱいにゃ!」



 言うと、あとは任せたにゃ、とシャリーがこず枝を見て、頷いた。

 以心伝心、こず枝は頷く。



「そ、そう! おっぱいです! イライア()()()()のおっぱいが大きくて、加代ちゃん、びっくりしちゃったんです! ね、そうだよね? ね? お願いだからそうだと言ってぇぇっ!!」



 シャリーとこず枝が、大粒の汗を流す。

 必死に形相で、こず枝が加代へ、パチパチとウィンクをした。

 さすがに何かを感じ取った加代は、口を封じられたまま頷いた。

 恐る恐る、二人が加代から手を離す。

 任せてと言わんばかりに、二人へニカッと笑い、加代は魔女へ向き直った。



「そうなんです! ()()()()のおっぱいが大きくて、わたしびっくりしちゃった! いいなぁ、うらやましいなぁ!」



 加代、まさかのファインプレーであった。

 普段、信じられないほど空気を読まないとは信じられないほど、空気を読んだ発言だった。

 途端、魔女の髪は、スッと元に戻った。

 


「なんじゃ、そうじゃったか。――よし、ワシの魔術で、お主の胸を……」


「わーっ! それより加代ちゃん、部屋! 部屋に行ってみよう! イライアさんがすごく素敵に改造してくれたんだよ!」



 こず枝が慌てて加代の手を取り、二階へと引っ張り去った。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 


 加代とこず枝が去った後、セレスに生暖かい視線が集まった。



「ど、どうしてわたしを、そんな目で見るのだ!」


「セレス様……」「セレス、ちゃんと、わかってるかにゃん?」



 ロリとシャリーがジトッとした眼差しを、セレスに向ける。



「少しはわたしを信用してくれないかッ。ちゃんとわかっているッ。加代殿に、我らの目的を悟られないようにすればよいのだろうッ」

 


 プンスカすたセレスの言葉に、イライアが意外そうな顔をした。



「ほう、ちゃんとわかっておったか。その通りじゃ。妹御には絶対に気づかれてはならぬ」



 言ったイライアを、ロリが不安そうに見上げた。



「イライア様。どうして加代様に秘密にしなくてはならないのでしょうか? 本人に協力してもらえば、計画が早く進むと、ロリは思うんですが」



 これに答えたのは、シャリーとセレス。



「わかる気がするにゃん。もし、ご主人様が今までずっとアチシの幸せを優先して、自分をないがしろにしてるなんて知ったら、アチシはきっと、自分が許せないにゃん」


「そうだな。そうなれば、加代殿の幸せが遠のく気がしてならん。やはり内密に事を進めた方がよかろう。しかし、どうしたものだろうか。我らならば話は簡単なのだが、実の妹殿ではな」



 セレスの言葉に、イライアは息を吐いた。



「……セレスの言うとおりじゃ。じゃが、ここで話したところで答えは出ぬじゃろう。ワシ等のまずやるべきことは、この世界の知ることじゃ。――もうひとつのことは、わかっておろうな?」


「はい。でも、れいじろう様……お辛そうです……」


「あの匂いからすると、かなり我慢してるにゃん」


「そ、そんなにか! なら、いっそ、わたし達が……」


「……セレス、お主、まったく理解しておらぬではないか。もし、あやつが衝動的にワシ等と一線を越えてみろ。あやつは、ワシ等と妹御への責任を、同時に背負い込むことになるのじゃぞ。そうなれば自己犠牲厨のあやつが自分を責め、潰れてしまうのが目に見えておる。――じゃが、もしあやつから求めてきた場合は、各々の判断に任せることとする」


「つまり、ロリたちは……」「()()()()()一線を越えないようにしにゃがら……」「それぞれ、良妻賢母ぶりをアピールすればいいのだな!」

 

「その通りじゃ。これはワシ等の中での戦いじゃ。あやつは複数の女子(おなご)を伴侶とすることをよしとしておらん。もちろん、その考えが変わるに越したことはないのじゃが」


「でも、もし、ひとりしか選ばれないとしたら、ロリは……」


「そのときは、恨みっこなしにゃん」


「あぁ、選ばれないときは、大人しく身を……身を引こう……くぅっ」



 涙ぐむセレスへ、三人の美女が哀れみの視線を送る。



「セレス様、()()泣かないでください……」


「セレスが圧倒的に不利とはいえ、()()勝負はついてないにゃん」


「セレスや、結婚だけが人生ではないのじゃ。()()()()、早まるでないぞ?」


「わたしが選ばれない前提でなぐさめるのは、止めてくれぇッ! ……グスッ」




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「にゃあ、ロリロリ……」


 

 魔女、女騎士が去ると、猫が幼女に話しかけた。



「その質問の答えは、“いいえ”よ。シャリー」



 ロリが断言した。



「にゃるほど。まさか、ロリロリがご主人を諦めるとはにゃ」


「ウフフフ、違うわよね? こう言おうとしたんでしょ? 『バカ正直に、このままプラトニックに行くのかにゃ?』ってね」


「にゃにゃ! ロリロリは心が読めるのかにゃ!?」


「まさか……。そんな便利な力があったら、今頃れいじろう様とふたり――いえ、()()で子作りをしてるわ。ねぇ、()()()



 言って、ロリがブレスレットを外した。

 ロリの全身が薄く、青色の光を放つ。

 猫シャリーは平然とそれを見つめる。


 

()()()、お前はどうするつもりにゃ? まさか、バカ正直にプラトニックにいくつもりかにゃん?」


 

 ロリスと呼ばれた少女には、全身に青い紋様を浮かんでいた。

 大きく背伸びをすると、ロリスは大人びた笑みを浮かべた。



「あら、こんにちわ、()()()()()()()。もちろんルールは守るわよ? かんしゃく持ちの()()()()を敵に回したくないもの。()()()()()の一線を越えなければいいのよね? ()()()()()越えなければ、ね。クフ……クフフフ……」



 言いながら、妖艶に、そしていたずらっぽく、ロリスは(わら)う。

 シャリーは嘆息し、無駄とわかっている説得は、口にしなかった。

 

 ★

 

【おまけ話】

 

『わー! なにこれ! 部屋が広くなってるぅっ!』

『すごいわよね……。ベッドなんて天蓋がついて、まるでお姫様の部屋だわ』 

『ねぇ、こず枝さん……、もしあの人に“おばさん”って言ったら……』 

『だ、ダメよ、加代ちゃん! 全員もれなく殺されるわよ!』 

『えーっ! じゃあ、“老けたおねえさん”は?』 

『ギリギリを探るのは止めてぇぇっ!』


追記) ちなみに礼二郎は異世界組を警戒しつつ、風呂に入っています。

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