表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/142

第114話 『奇跡の代償』

前書きと謝罪の言葉)


ひさしぶりの更新です。

さぼってごめんなさい〜ッ!

 イライアの部屋から出ると、礼二郎は激しい目眩に膝をついた。


 無理もない。


 時の流れを何千分の1縮めていた空間から、日常の時間軸へと戻ったのだ。


 初めて経験したものにとっては、二日酔いの気分を何百倍に酷くした感覚であろう。

 幸いにして礼二郎は、亜空間転移で似たような経験を数多くこなしている。 

 言ってみればベテランである。

 なので、さしあたっての不調は、ぐるぐると景色が回るのと、激しい胸焼けと、グワングワン殴られているような頭痛くらいだった。


「《高位治癒》」


 治癒魔法を自らにかけた。

 すると、テキメン体の不調は、きれいさっぱりどこ吹く風と消えて無くなった。


「ふぅ……」


 立ち上がり、辺りを注意深く見渡す。


「特に変化は……見当たらないな」


 そこは礼二郎宅のリビングだ。

 以前イライアがかけた魔術によって広くなっているのも、いつも通りだ。


 人影はない。


 時計を見ると、午後7時12分。

 風呂で加代が倒れていた時刻から、数分しか経過していない。


 おかしい。

 この時間なら、誰かしらリビングにいるはずだ。


 まさか、今の礼二郎には、世界中の誰も認識できないということなのか?


「もしそうなら、僕は世界でひとりきり……」


 礼二郎は、つい先ほど女神ファシェルの奇跡を使用していた。

 イライアの助言通り『礼二郎を世界の認識から除外する』という奇跡を。


 驚くことに、この奇跡の必要ポイントは、礼二郎が持っていたたったの3KPであった。

(イライアがいうには、加代を後遺症のある体に戻す改変エネルギーよりも、礼二郎の存在を消す改変エネルギーの方が低いため、世界が礼二郎に奇跡を叶えさせようとした結果らしい。ちなみに礼二郎にはいまいち理解できていない)


 妹である加代が事故で負った大怪我。

 歩くこともできない火傷だらけの体を治すため、礼二郎は自らを犠牲にしたのだ。


 そのためなら、自分がどうなろうと構わないと、礼二郎は覚悟していた。

 そうだ。

 どんな苦労だって厭わないのだ。

 小生意気でお調子者の、愛すべき妹を救うためならば。


 だが、困ったことになった。

 世界でひとりきりとなると、当初の予定が狂ってしまうからだ。

 予定では、礼二郎は憎き女神ファシェルの要望に不本意ながらも従い、善行を成し、奇跡ポイントを貯め、新たな奇跡を行使するはずであった。


『大萩加代の治療』そして『大萩礼二郎を再び世界の認識に加える』という奇跡を、だ。


 そうすれば礼二郎が、再び世界から認識されるのだ。

 さらに加代が事故後の後遺症にまみれた身体になることはない。


 なのに……。


 他人を認識できないのなら、人助けなどできるはずもない。

 つまり、奇跡を行使するための奇跡ポイントを貯められないのだ。


 またもや打つ手なし……か。


 このまま誰と会うこともなく、ひっそりと一人寂しく死んでいくのだ。


 あまりにひどい未来予想図に、がっくりと膝を落とした、そのときだ。


「しまったぁぁぁッ!」


 という声が聞こえた。

 場所はリビング奥にあるキッチンから。


「ほいっぷくりぃむを切らしているではないか! これではただのすぽんじけぇきだぁぁっ!」


 声の主は、間違いようもなく我が愛しきパーティーメンバー、ポンコツ風味のくっ殺女騎士――セレスその人――である。


「はぁぁぁ……」


 礼二郎は深く深く、安堵のため息を吐いた。

 この世界には人がいて、礼二郎にも認識できることがわかったのだ。


 いてもたってもいられず、礼二郎は立ち上がると、キッチンへ走った。

 無性にセレスに会いたい。

 会って抱きしめたかった。


 この喜びを二人で分かち合いたかったのだ。


 キッチンへつながるドアを開けると……いた!


 焼き上がったばかりであろうケーキ(スポンジのみ)の前で顔を両手で覆っている、エプロン姿の金髪女騎士セレスだ。


 どうやらケーキの仕上げに使うクリームが切れているらしい。

 相変わらず少し抜けている。

 だが、そんなところもたまらなく愛おしかった。


「セレス!」


 礼二郎が叫んだ。

 だが、セレスは顔を隠したままだ。


 よほどショックを受けているのだな、とそのときはこう思った。

 後になって思えば、違和感はあった。


 礼二郎はかまわず駆け寄り、セレスを後ろから抱きしめ……そして絶望した。


『大萩礼二郎を世界の認識から除外する』


 この奇跡がきちんと発動しているのか不安だった。

 だが、奇跡は確かに発動していたのだ。


 その証拠に、礼二郎はセレスに――触れることができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品を読んで頂きありがとうございます!
少しでも気になった方は、一度作品の評価をしてくれると、うれしいです、うれしいです、うれしいです!(☆☆☆☆☆をタップするだけです)

★★★★★で、応援していただけるとすごく励みになります!


ブクマもうれしいです! 超うれしいです!
気に入らなくなったら、遠慮なく評価を取り消して構いません(※同じ場所をタップすれば簡単に取り消せます)
script?guid=on<
『転生したら悪魔ハーレムでした!?~愛弟子に毒殺された錬成術師は魔人となり7人の美女悪魔を仲魔にして王族に転生する』
こちらもブクマ&評価で応援いただけると大変励みになります。
 小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] よっしゃー! 更新された 嬉しい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ