第111話 【500KPの誘惑】
午後7時。
礼二郎は自室の椅子に座り、難しい顔で目を閉じ、腕を組んでいた。
「うーむ」
眉間の深い皺が、悩みの深刻さを物語る。
「れいじろう様、どうかされたのですか?」
褐色美幼女ロリが、心配そうに顔を覗き込む。
「やかましいッ」
一喝すると、礼二郎は再び目を閉じた。
「主殿、ひどいではないかッ! ロリは主殿を心配して……」
「やっかましいわッ」
パツキンに対しても、怒りの声をあげた。
「レイ、見損なったわッ」、とJKこず枝。
「ご主人様、にゃんだか怖いにゃ」、と猫耳娘。
「礼二郎君、いったいどうしちゃったの?」、と美人OL春香。
「だ~か~ら~やかましいッつってんだろううがッ! 勝手にセレス達の姿を使ってんじゃねぇよッ! 肖像権侵害だ、ごらァァッ!」
礼二郎の叫びに、佐々木春香だった物が、形を変える。
「いや、暇だったんで。――しかし、イライア様のコピーができないのは、残念だよなぁ」
と、礼二郎の形をした物が言った。
先ほどから、七変化で礼二郎をからかっていたのは、この神器ホムンクルスだった。
「べ、別に、残念だなんて思ってねぇしッ!」
「ところで何を悩んでるんだ? 本物殿」
『お兄ちゃん、ちょっと聞いてよ。チェリーボーイったら、アタシのことを、いつも邪魔者扱いするのよッ。プンプンッ』
フヨフヨと宙を漂う携帯がほざいた。
携帯型神器、サナダだ。
「なにぃ? おうおう、本物殿よ。うちのかわいい妹に文句でもあるってのかぃ! なんなら出るとこ出てもいいんだぞッ!」
「やかまし……え、ちょっと待って。お前ら兄妹だったの?」
∮
『今何ポイントあるんだっけ?』
携帯神器サナダが言った。
神器ホムンクルスは、目の毒なので、次元収納に放り込んでいる。
「503ポイントだな」
礼二郎が腕を組み、うーん、と唸る。
『〝魔王討伐報酬に関しての記憶の回復〟でしょ? やっぱり、お姉さんはオススメしないなぁ』
「言いたいことはわかる。〝記憶を消したのには理由がある〟だろ? ――大体、次の目標が遠すぎるんだよなぁ」
『〝加代ちゃんの幸せ〟2万ポイントだっけ?』
「ああ。――今の女神様を疑った状態では、正直モチベーションが保てんのだ。2万だぞ? 2万ポイントだぞ? 500ポイント溜めるのに1ヶ月かかったっていうのに」
『ちょっとッ。うちの女神様の、どこが疑わしいのよ?』
「おいおい、僕はいきなり異世界に拉致されたんだぞ? しかも勝手に精神的な去勢をされてたんだ。ムッカーッ。今考えても腹が立つッ。――どうやって信用しろってんだッ」
ゴワンッ。天罰のタライが落ちてきて頭を強打した。
覚悟の上だったのか、礼二郎はとくにリアクションをとらなかった。
『た、タライ慣れしてきたわね。――うーん。そもそも、それがおかしいのよね』
「それ? どれのことだ?」
『〝いきなり拉致〟ってところよ。相手の承諾なしに別世界へ連れて行くなんて、あの方はやらない――いや、できないはずなの』
「できないことはないだろ?」
『できないのよ。それができるんだったら〝魔王〟なんて、宇宙の果てに捨てちゃってるわよ』
「おお、すごく納得したよ。サナダ、お前賢いな」
『フフン。そうよ。アタシは賢いのよ。もっと誉めなさい。――つまり、拉致時点の君の記憶は書き換えられてる可能性があるってわけ』
「〝拉致時点の記憶〟と〝魔王討伐報酬の記憶〟……ふたつがどう繋がるんだ?」
『そりゃ繋がるでしょうよ。拉致時点で、君が願い事をしてたのなら、それも消さなきゃ。じゃなきゃ〝討伐報酬の記憶〟を消した意味が無くなるでしょ? バカなの? チェリーなの? 死ぬの?』
「クッ、これについては言い返せんッ。つまり僕は、去年のクリスマス・イブに、学校近くの河原でお願い事をしたってわけだな。どこの乙女だ、それ」
『クリスマス・イブでもあるし、〝君の誕生日〟前日でもあるわよね?』
「おい……やめろ」
『君はそろそろ、〝自分の誕生日〟に向きあうべきなんじゃない? ご両親の……』
「やめろッ! それ以上言うなッ!」
『いいえ、言わせてもらうわ。ご両親の事故は、君のせいじゃ……』
「頼む、サナ……言わないでくれ。頼む……」
『……』
「頼むよ……」
『……わかったわよ。悪かったわ……ごめんなさい。もう言わないわ。――ところでその〝サナ〟って呼び方を、そろそろ定着させてくれないかしら?』
「……すまん。だが断る。――ステータスオープンッ」
礼二郎は眼前のステータス画面を見つめる。
〝報酬〟部分をタッチする。
報酬についてのツリーが表示される。
【魔王討伐に関しての記憶回復】
点灯したその文字を、礼二郎は一瞬迷って、タッチした。
【KPを使用しますか?】
【はい】【いいえ】
礼二郎は指を伸ばし、止めた。
「どうしても気になる……。しかし、もし取り返しのつかな……」
そのとき、
ピリリリリリリリッ!
サナダ本来の仕事――電話の着信音が鳴り響いた。
ビクッ!
驚いた礼二郎は、
「あ」
【はい】を指で押していた。
【後書き】
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