第107話 【お姉様】
「ロリちゃん、どう? おかしくないかな?」
リビングにある姿見鏡の前、、寝間着の加代が不安そうに言った。
髪の左サイド、編み込まれた部分を触る。
「すっごく可愛いわ、加代ちゃん。――セレス様、すごくお上手です。さすがです」
セーラー服姿のロリが、嬉しそうに言った。
「そ、そうか? うむ。我ながら会心の出来だ。もう少し伸ばせば、もっといろいろできるのだが」
エプロン姿のセレスが、少し物足りないふうに言った。
「うーん、伸ばしたいけど、長いと走るとき邪魔なんだよね」
「加代ちゃんは長くても短くてもかわいいよ!」
言いながら、加代の寝間着の裾を、ロリはずっと握っている。
まさか、ロリがこんなに懐くとは誰が想像しただろう。
セレスは感嘆を禁じ得ない。
あの礼二郎ですら、まともに話せるようになるまで、半年はかかったと聞く。
最恐魔女イライアも、人嫌いのシャリーですら、加代をいたく気に入っている。
天然人たらしとは、こういう人物を言うのだな。
大萩加代、恐るべし、だ。
かく言うセレスも、加代に魅了された1人だった。
コロコロと笑う加代を見ていると、心が温かくなる。
だからこそ……。
「ん? どうしたの、セレスさん? 孫を見るおばあちゃんが縁側で大往生したみたいな顔してるよ?」
「お、おばあちゃんッ?――すまない。少し考え事をしていたのだ。しかし加代殿。その不思議な比喩をイライア殿に使ってはダメだぞ?」
死にたくなければな、の言葉を呑み込み、セレスは、待てよ、と考えた。
もし年齢絡み暴言を加代が吐いたとして、はたしてイライアは暴走するだろうか。
いや、しないと思う。
根拠は無い。
だが、恐らくその予想は当たっている。
魔力も無い。闘気も持たない普通の少女。
なのに、何か大きな力に守られているように感じる。
不思議な子だ。
「あはは、大丈夫、言わないよ。でもイライアさんってば、あんなに綺麗なのに、どうして歳を気にするんだろうね。あれ? 今何時? ――大変ッ。早く着替えないと、あの人が……」
ピンポーンッ。
加代の言葉を、呼び鈴が遮る。
セレスが加代を見やる。
セレスさんお願いッ、と焦った声を残し、加代は慌ててドアを開け出て行った。
キャーキャー叫びながら、玄関前を素通りし、2階自室へ走る。
さて、どうするかな。
加代が出て行ったドアの向こう――玄関を見つめ、セレスは渋面で腕を組んだ。
――今、イライアは……無理だ。
自室に籠もっている。
そもそもの話、あの方は人を出迎えるために動くことは無い。
それ以前に、怖くて頼めんッ。
――礼二郎は……無理だ。
ものすごい仏頂面で座っている。
意地でも出ようとしないな、これは。
――家政婦のアルファは……無理、じゃない。
無理じゃないが、朝食の片付けで忙しそうだ。却下。
――シャリーは……ん? そう言えば、どこに行った?
ま、まさか、またトイレに入ったのか?
クッ、あの猫めがッ。金貨10枚返せッ。
ならば……と、隣を見る。
――論外だ。
可愛い顔が、原形をとどめないほど歪んでいる。
こんなにイヤそうな表情、そうは作れない。
と、なると……。
セレスは、ハァ、とため息を吐く。
「結局、わたしだけか……」
重い足取りで玄関へと向かう。
ガチャリ、と鍵を開けた瞬間、
「おはようございますッ、お姉様ーーーーーッ!!」
勢いよく(勝手に)ドアを開け、1人の少女が飛びついてきた。
「あぁん、会いたかったです、会いたかったです、今日も素敵過ぎますぅッ。お姉様、お姉様、アタシのお姉様ーッ!」
グリグリグリと、セレスのエプロンに顔を押しつける。
「何度も言っているだろうッ。わたしは、そなたの姉上ではないッ!」
挨拶を返すのも忘れ、セレスが少女を引き離そうとする。
だが、吸盤でもついているかのように、離れない。
「お姉様の匂い……、ああん、トリップしちゃいそう……。クンカ、クンカ、スーハー、スーハー」
「だれか、なんとかしてくれぇッ」
セレスの悲鳴に、もう1人の人物がドアを開ける。
「お邪魔します。お嬢、少し落ち着きなせぇ。セレスさんが困ってるでしょう。――よっと」
と、慣れた手つきで少女を引き離す。
「風見殿、助かった……」
セレスが胸をなで下ろす。
「あぁぁぁぁッ。お姉様、お姉様、お姉様、お姉様ぁぁぁぁッ!」
「だから、違うと言っているだろう。クッ、どうしたらわかってくれるのだ、樹理亜殿ッ」
離された少女は、狂ったように暴れている。
「お姉様ァァァァァァァッ!」
狂気を全身に纏うこの少女は、〝鬼頭樹利亜〟。
加代の学校の先輩だ。
「いえいえ、いつもお嬢がご迷惑をお掛けします。いつもは大人しいのに、どういうわけか、この家に来ると、この有様で」
黒いスーツ姿の青年が頭を下げた。
彼は、〝風見竜司〟。
鬼頭樹利亜の家で、住み込みをしている男性だ。
〝ヤクザの客分〟と言う立場らしい。
よくわからない。
そもそも、ヤクザという職業が、セレスにはわからない。
わからないので〝盗賊ギルドの助っ人〟と解釈している。
「コノーッ、風見、テメェッ、離しやがれッ、おじいちゃんに言いつけ……ひッ」
ピタリと動きを止め、樹利亜が顔面蒼白となる。
その視線は、セレスの後方に縫い止められている。
セレスが振り返ると、
「おはようございます。樹利亜先輩。朝から元気ですねぇ」
殺気ダダ漏れの幼女――ロリがゆっくりと歩み寄る。
「そんなにはしゃぐと、また大怪我しちゃいますよ?」
~後書き~
登場人物
鬼頭樹利亜:中学三年生、ギャル
加代の先輩、広域指定暴力団組長の孫娘
加代をいじめた人物。ロリの逆鱗に触れ、何度も殺される(?)
風見竜司:初登場、優男
年齢25才、オールバック風短髪、身長182
樹利亜の家に居候、職業ヤクザ(祭りなどで屋台を取り仕切るヤクザさん)
暴力嫌い 子供好き
セレス:身長175 くっ殺、金髪、ポンコツ、むっつり、パツキン
ロリ:身長 132ヤンデレ、美幼女、トンガリ耳、褐色幼女
明日も更新します。
↓にある☆☆☆☆☆評価をお願い申します。
評価くれるとモチベーション上がります。
恐らくクオリティも上がります。




