憩いの家はどこへ
「『今日は休業』ねぇ……」
ハルトたちが昨夜訪れた『憩いの家』の入り口にはそう書かれた札が立てかけられていた。あの女主人が憩いの家を営業するかどうかは彼女の気分次第のようである。
「休業じゃ仕方がないな」
「だな。他を当たってみるか」
最も可能性のあった場所を空かされたハルトとループスは冒険者ギルドで日銭稼ぎの配達クエストをこなしつつ憩いの家について聞き込みをすることにした。
「憩いの家?うーん、知らないなぁ」
「夜にしか開かない小屋ねぇ。そんなのあるんだ。今度行ってみようかな」
冒険者の中にも憩いの家の存在を知らない人物は多かった。存在は知っていたとしても足を運んだことがないというのがほとんどである。
そんな中、ハルトとループスは憩いの家を訪れたことがあるという一人の男冒険者と出会った。
「一週間前に憩いの家に行ったぞ」
「なら、あそこの女主人のこと覚えてるか?」
「女主人?ああ、そういえばいたな」
憩いの家に行ったという冒険者は女主人のことを覚えていた。何か手がかりを得られると踏んだハルトは聞き込みを続行する。
「あの女主人のこと何か知らないか?」
「そうだな……たまに冒険者として活動してるって言ってたような」
男冒険者から語られたその情報は昨夜は知り得なかった新たなものであった。冒険者として活動していることは彼女がリリアン・マーキスである可能性を大いに高めた。
「彼女がいそうな場所に心当たりは?」
「わからないなぁ。あんな掴みどころがない人じゃねぇ……」
流石にそこまでの手がかりは得られなかった。しかし女主人が現役の冒険者であることが判明したのは大きな進歩であった。
「君たちも冒険者なんだろう。もしかすれば彼女とどこかでばったり会えたりするんじゃないかな」
冒険者はそう言い残すと飄々とどこかへ去って行ってしまった。
リリアン・マーキスはきっとこの街にいる。その情報を手土産にハルトとループスはもう一度シーラ・マーキスの屋敷を訪れることにした。
「そうか。妻はクラフテアの街のどこかにいるんだね」
「断言はできないがその可能性は高いです」
ループスがリリアンについて得た手がかりを伝えるとシーラはどこか嬉しそうな表情を見せた。リリアンとの再会を最も望んでいるのは紛れもない彼自身である。
「お姉ちゃんたちまた来てくれたのー?レナ嬉しい!」
「ありがとなー。今日は用事ついでにあいさつに来ただけだからあんまり遊んであげられないんだ。ごめんな」
「えー……レナ遊びたかったなー」
ループスがシーラと話している間、ハルトはレナの相手をしていた。レナはすっかりハルトに懐いている。
そんなハルトがレナに遊べる時間がないことを伝えるとレナは不満げに頬を膨らませた。
「レナ、あんまりワガママいって困らせちゃいけないよ」
「はーい……」
シーラに諫められるとレナは残念そうにシーラの元に戻っていった。ハルトもレナと遊ぶこと自体は嫌いではなかったため、しょぼくれるレナを見て何とも言えない罪悪感を覚えた。
「ありがとう。私の方も引き続き捜索してみるよ」
「じゃあなレナちゃん。今度お姉ちゃんたちが来たときは一緒に遊ぼうな」
「うん!約束!」
別れ際、ハルトはレナと約束を取り付けた。もちろん遊び相手になるのは『ループスと一緒に』である。さりげなく自分を道連れにされたことに気づいたループスはハルトを軽く睨むがハルトはそんなことはお構いなしだった。
「もうしばらくはここに滞在することになりそうだな」
「まあいいだろう」
ハルトたちはリリアン・マーキスを発見すべくクラフテアへの滞在と活動を継続するのであった。




