クラインという男
翌日、ハルトとループスはクラインと対面するために再び魔法学校を訪れた。そこには万一の事態を想定してループスが雇った護衛も同行している。
「なんでこいつらが俺たちと一緒に……」
ハルトは護衛の人選に不満があった。二度にわたって自分たちの前で悪事を働いたあの三人組が自分たちについていることについて早くも不信感を募らせていた。
「俺たちだってお前らの護衛なんて御免だね」
「そうだそうだ」
「じゃあ降りるか?依頼に対する責務も果たさずに」
男たちはハルトに悪態づくものの、先輩のアウトローに詰められてすぐに黙ってしまった。やはりどこまで行っても小物であった。
「二人が俺たちに同行、残り三人は周囲に不審な動きがないか見張りを頼む」
ループスは校門前で雇ったアウトローたちに指示を出した。この現場においては彼女がアウトローたちのボスであり、彼女の指示は絶対であった。
「目立たぬように警戒します」
先輩のアウトローはそう言うと二人を引き連れて周囲を旋回するように行動を開始した。すでに挙動と風貌からしてかなり目立っているのだがハルトはあえて何も言わないことにした。
「今日クライン先生との面会を希望していたループス・ノワールロアだ」
先日訪れた際に通った窓口を同じ場所を経由し、ループスは要件を伝えた。窓口の男性はループスたちの周りに着く男たちに訝し気な視線を向けるものの、要求通りに見学許可証を与えた。
「こちらでお待ちください」
窓口の男は客室と思わしき部屋へとハルトたちを案内した。これまで見たことのなかった学校の一角を初めて目にしたハルトは興味津々にキョロキョロと見回した。
「よせ。子供じゃあるまいし」
「俺たちの通ってた学校にもこういうところがあったのかな」
「あったんじゃないか?俺たちが知らないだけで」
ハルトの言行にほどほどに付き合いつつもループスは護衛で残った二人のアウトローたちに更なる指示を出す。これまでも取り巻きを作ってきた彼女にとって指示を出して連携を取ることは得意分野であった。
「一人は俺たちについてくれ、もう一人は部屋の外に出て扉の前で待機だ」
かくしてアウトローは先輩側がハルトたちの護衛に、下っ端の方が室外で見張りをすることとなった。ほどなくして先に待っていた彼女たちの前に茶髪の男が現れた。
「お待たせして申し訳ありません。私、クライン・ソーマと申します」
クラインは簡潔に自己紹介をした。手入れをちゃんとしているか怪しいガサガサの髪、肉付きに乏しいヒョロヒョロの体形、ヨレヨレの薄汚れた衣服。どこか不潔感のある出で立ちであった。
おまけに彼から発せられる臭いはループスの鋭い嗅覚に不快感を与えた。
「ループス・ノワールロアと申します。今回はこちらの都合で貴重なお時間をいただき感謝します」
ループスはクラインに建前の敬意を払いながら当たり障りのない挨拶と共に対談に臨んだ。上下関係が厳格な上流階級で育った彼女は目上への言葉遣いに関してはハルトよりもしっかりと教育を施されている。ループスの意外な一面にハルトは感心させられた。
「今回は私に用があるとのことですが」
「ええ、いろいろお話を伺おうと思っております」
ループスとの会話中、クラインはふとハルトの方へと視線を送った。ただ普通に見られただけのはずなのに得体の知れない嫌悪感を感じたハルトは思わず身の毛をよだたせた。
「ところでそちらの子は?」
「連れです。で、こちらの方は今回付き添いで来ていただいた方です」
「ハルト・ルナールブランって言います」
かくして面会と対談はループスを主導に進むこととなった。ループスがいくらか話を伺うと、クラインは若干聴きとりづらい小声ではありつつも無難にそれに答えていった。
小手調べは十分と判断したループスはクラインに対して本格的に探りを入れることにした。
「先生はソルシエールの街で起こった誘拐事件についてご存じですか?」
ループスが単刀直入に尋ねると、クラインはどこか動揺したようにわずかに目を見開いた。その瞬間をハルトたちは見逃さなかった。
「風の噂程度には」
「我々はその犯人を追っています。心当たりはありませんか」
「いや……ありませんね」
クラインは明らかに挙動不審であった。その様子はループスとハルトにとってにはもう彼が犯人で間違いないだろうと確信するに十分な判断材料であった。
「そうですか。我々から伺いたい話は以上です。お付き合いいただいてありがとうございます」
「こちらこそ。お力添えできず申し訳ありません」
「お気になさらず。では失礼します」
ループスたちは面会を終え、クラインの前から姿を消した。
「アイツで間違いないな」
「ああ、あとは現場を押さえるだけだ」
事件を起こしたのがクラインであることを確信したハルトたちは最後のステップに踏み込むことにした。
そしてそれが、二人を大いに困らせるのであった。




