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ケモミミTS魔法少女は何を見る~俺は天才だ!~  作者: 火蛍
5章 プル・ソルシエール
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鉱山と紅い魔法石

 「んあ……?」


 翌朝、ハルトは後頭部への違和感によって目を覚ました。ゆっくりと振り向いてみるとそこにはループスの胸があった。どうやら寝ている間にお互いが接触してこのような姿勢になったらしい。

 よく見ると二人の尻尾まで絡まっている。最悪の展開であった。


 ハルトは寝相でしがみつくループスを振りほどいて身体を起こし、まず絡んだ尻尾を元通りに直した。途中引っかかった毛がブチブチと音を立てて抜け落ち、痛みが生じた。これが起こる可能性を懸念したがハルトが昨夜ループスと同じベッドで眠ることを避けようとした理由の一つである。


 「だから嫌だったんだよ」


 ハルトは悪態をつかずにはいられなかった。寝癖を直すためにブラシを取り出し、ベッドを抜け出して鏡の前で日課である朝のブラッシングを始めた。

 その間もループスは呑気に眠りこけていた。


 「コイツはよく寝ていられるな……」


 ハルトはループスのあまりの鈍感さに逆に感心を覚えた。尻尾の毛がちぎれたとき、ループスの方も少なからず毛が抜けていたはずなのである。しかし彼女は気にも留めない様子で眠り続けている。

 それはそれとして宿を出る時間が近いにも関わらず寝息を立てていることにハルトは若干の苛立ちを感じた。


 「おい起きろ!もう日が昇ってるぞ!」


 ハルトはループスの頬をひっぱたいた。しかしループスは目を開く様子を見せない。

 こうなれば強行手段に走るしかない。そう判断したハルトはおもむろにループスの尻尾を掴んで力を込めて握りしめた。


 「ふやぁん!?」


 ループスの反応は想像以上のものであった。尻尾の感覚が敏感なのは彼女も同じようであった。毛がちぎれた時点で目を覚ましていてもおかしくはなかったはずだがどうやら毛の奥にある本体に触れられるのがダメなようである。


 「やっと起きたか。身支度してやるから準備しろ」

 「わかったから手ぇ離せ!」


 ハルトはようやく目を覚ましたループスにブラッシングを施した。外着に着替え、二人は宿を出て鉱山を目指して歩みを進めた。


 「なあループス。魔法石の鉱山ってワクワクするよな」

 「そうか?俺は学校に入る前に見に来たことあるからそうでもないな」

 「えっ……」


 ループスからの一言にハルトはショックを受けた。

 庶民故にソルシエールに足を運ぶ機会がなかったハルトに対し、上流階級出身であるループスは幼少期に遊行で訪れた記憶があった。記憶こそ鮮明ではないものの、鉱山見物に対して新鮮さは感じない。


 「でもまあ、改めて見てみるのも悪くはない」

 「よし、じゃあ鉱山まで競争しようぜ」


 ハルトは一方的に競争の開始を宣言すると跳ねるように街道を駆け抜けた。あまりの速さに彼女の尻尾は空中で地面と平行になってなびく。

 ループスは急いでハルトを追いかけた。元々の体格に加えて狼の力を持っていることもあってハルトにすぐに追いついていく。

 野生動物の如く駆け抜ける二人の少女に街の人々は珍しいものを見たと言わんばかりの眼差しを向けるのであった。

  

 駆け抜けること数分、ようやく足を止めた二人の目の前には魔法石の鉱山があった。ハルトがこの町に来てから待ち焦がれた場所である。

 偶然にも今日は鉱山が観光客に採掘体験が解放されている日であった。おまけに魔法石を採掘できればそれを持ち帰ってもよいという羽振りの良さである。利用料金は千マナ、魔法石は手のひらに収まる大きさでも換金すれば五百マナ前後になることを考えれば安いものであった。大きなものを採掘できれば利用料以上の大金を得ることも夢ではなかった。


 「やるぞループス。魔法石を掘り出すまで帰らないからな」

 「お、おう……」


 金に目が眩んだハルトはループスの分も立て替えて採掘体験に参加することにした。鉱山を見学することから一転、ここで一山当てて金を稼ぐことに目的が移り変わっていた。

 利用料を払い、採掘用の道具を手にハルトとループスは鉱山へと足を踏み入れるのであった。


 意気揚々と足を踏み入れたものの、すでに同じように採掘体験に参加している利用者でごった返しており、そんな場所から魔法石が見つかる見込みはなかった。すでに鉱山の地表はあちこち掘り返されており、魔法石を発見することすらも絶望的であった。


 ハルトはそんな状況にもめげず、まだ掘り返されていないところを見つけては手当たり次第に掘り返した。魔法石は特別な音を発することはないため聴覚を頼りにすることができず、さらに採掘の経験などない彼女にとっては手数しか武器にするものがなかった。

 

 「見立てが甘かったんじゃないか?」

 「そうかもしれんな……」


 ぶっ通しで採掘に興じること数時間、ハルトはすっかり弱気になってしまっていた。ここまで採掘を続けても魔法石の欠片すらも見つけられていない。

 

 「まあそういうこともあるだろうよ」

 

 肩を落とすハルトにループスは労いの言葉をかけた。彼女の嗅覚でも魔法石の反応は得られない。最初から乗り気ではなかった故に早々に切り上げたかった。

 

 「……?」


 その時、ループスは不思議な感覚を覚えた。直接訴えかけてくるような形容しがたい謎の感覚が彼女の脳内に走る。それはまるで誰かに『呼ばれている』かのようであった。

 ループスはその感覚のする方へと一人歩みを進めた。


 「おい、どこ行くんだ?」


 ハルトは突如として単独行動を始めたループスを呼び止めようとした。しかしループスはハルトの呼び声に応じない。ハルトはループスの感じているものを掴むことができなかった。故に彼女の第六感的な行動理由を理解できなかった。


 歩みを進めるごとにループスだけが覚えている感覚は強くなっていく。そして鉱山のとある斜面にたどり着いたとき、その感覚は最高潮に達した。

 ループスはその斜面を無心で掘り始めた。そこはすでに誰かに掘り返された場所である。そんなところから魔法石が出てくるはずはなかった。しかしそんなことなど微塵も考えることなくループスはさらに奥へ奥へと掘り進めていく。


 さらに掘り進めた先、ループスは採掘道具越しに硬いものが触れたのを感じ取った。中に腕を突っ込み、それを掴みとると地中から手荒に引っ張り出した。


 「これか。俺を呼んでいたのは」

 「おい、それって……」


 ループスの手には魔法石が握られていた。しかもこれまで常識と考えられていた構造色ではなく、紅一色の輝きを放つ魔法石であった。

 世界の常識を覆すその存在が確かにループスの手の中に握られていた。


 「すげえじゃねえか!やるなループス!」


 ループスの偉業を見たハルトは一転して上機嫌になってループスが掘っていた場所と同じ個所を堀り進め始めた。きっとそこにはまだ紅色の魔法石があるに違いないと信じてやまなかった。



 「どうして俺はこれを見つけることができたんだ……?」

 

 ループスは自分がこれを発見できた理由が自分でも理解できなかった。

 そして己の手の中にある紅色の魔法石が放つ輝きに魅入られるようにじっと見つめ続けたのであった。

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