アリア、学生寮に入る
合格発表の翌日。エリアル魔法学院の新入生の学生寮への受け入れが始まり、アリアはそれに乗じて入寮のために学生寮を訪れていた。
学生寮はこれからアリアが在籍している間の居住空間である。衣類やその他もろもろの大荷物をアリア一人で運び入れることは難しかったため、ハルトとループスが手伝いに同伴していた。
「おっ。この部屋、前に俺が使ってたところじゃん。懐かしいな」
ハルトは学生寮の一室を見て懐かしむように呟いた。アリアに割り与えられた学生寮のその一室はかつてハルトが使用していたのとまったく同じ部屋であった。
「ハルトさんも以前ここに?」
「ああ、備え付けのものも変わってなければ覚えてるぞ」
ハルトがかつて使っていた一室は完全な個室である。通常二人から三人ほどの相部屋になることも多い学生寮で一人でまるまる一室を使えるのは破格の待遇といってもよかった。
「クローゼットはここにあるから衣類は中にかけてまとめとけよ。制服と私服は分けておくといいぞ」
部屋を確認するなりハルトとループスはアリアが持ち込んだ荷物を捌きはじめた。二人とも元々学生寮の使用経験があるだけにこういった作業は手慣れたものであった。
「俺たちからできる手伝いはこれぐらいだな。さあ、寮長たちに挨拶に行くか」
荷物の移動を一通り終えたハルトとループスはアリアを連れて学生寮の利用者たちに挨拶回りすることを提案した。同じ学生寮を使用するもの同士、顔見知りになっておいた方がいろいろと人間関係が円滑になり、寮生活が楽になる。かつてのハルトでさえ入寮前に挨拶回りをしていたほどに重要な儀礼であった。
「今は入学式までの休暇期間だから他の利用者や寮長も外出してなければいるはずだ。まずは寮長のところへ行くぞ」
エリアル魔法学院は入学試験から入学式までの間は授業の一切が行われない期間である。ハルトとループスは寮長のいる部屋へとアリアを案内した。
「ここが寮長の部屋だ」
ハルトは寮長の部屋の前で足を止めると扉をノックした。寮長はちょうど部屋にいたところらしく、部屋の中から返事が聞こえてきた。
「はい……初めて見る顔ですね」
寮長と見られる眼鏡をかけた中年の男性が扉を開けてアリアたちの前に姿を現した。彼に挨拶しろと言わんばかりにハルトはアリアの背を押して男性の前に出させる。
「あの、初めまして……新入生のアリア・ノワールロアです」
「新入生の方でしたか。初めまして、学生寮長のアレイスター・ステラです」
アリアが新しく学生寮を利用する新入生であることを知ったアレイスターは挨拶を返した。
「そこの二人は?」
「私のお友達です。荷物を部屋に運ぶのを手伝ってもらってました」
「そうでしたか」
アレイスターはハルトとループスの姿を凝視していた。彼のそこそこ長い生涯において、獣の耳と尻尾が生えた人間を見るのは初めてだったからである。
「俺も新入生なんです。ハルト・ルナールブランって言います」
「貴方がハルトさんでしたか。噂には聞いてますよ」
「噂?」
「ええ。歴代最高の成績で試験を合格して特待生になった天才だと」
アレイスターはハルトのことを噂として認識していた。入学試験の成績は受験者以外でも見られるようになっており、ハルトの成績は合格発表当日から在学生の間でも持ちきりになるほどの話題の種であった。
「貴方も学生寮の利用者ですか?」
「いや、違います。俺は隣町から通うことになってるので」
ハルトは今回は学生寮の利用者ではない。それを知ったアレイスターはどこか残念そうな表情を見せた。
「アリアさん。学生寮の使い方については知っていますか」
「いえ、来たばかりで全然……」
「そうでしょうね。ちょうどいい機会です。ここの使い方について案内しながら教えましょう」
アレイスターはアリアに学生寮の利用に関して教えて回ることにした。これでアリアはハルトたちと別れ、寝床を分かつこととなる。所謂『別れの時』であった。
「ハルトさん、ループスさん……今まで本当にありがとうございました」
「おう。休みの日にはこっちに遊びに来てもいいんだからな」
「いつでも待ってるぞ」
アリアからの別れの挨拶にハルトとループスはそれぞれ言葉を返した。それを受け取ったアリアは踵を返し、寮長であるアレイスターについて学生寮を回り始めた。
自分たち以外の誰かと共に行動するアリアの姿にハルトとループスは成長を感じつつもどこか寂しさを覚えた。
「俺たちも引っ越しに行くぞ」
「そうだな」
今度はハルトとループスが引っ越しをする番であった。二人はそれぞれの荷物を抱え、学生寮を後にしてフィリアの待つ隣町へと向かうのであった。
あと二話で完結です。




