孤独の共有
ハルトは片膝をつき、項垂れるリオに視点の高さを合わせた。
「それで情けをかけているつもりか」
「情けじゃねえよ。労いだ」
ハルトはそう言うとリオの身体を自身の小さな胸の中に抱き寄せた。今のリオに必要なものは『労い』の言葉であった。彼は自分の能力とそこに至るまでの努力を誰かに認められたかったのである。
「戦おうとした相手が悪かっただけ、お前は本当はすごいんだぞ」
リオを抱き寄せたままハルトは彼にそう言い聞かせた。他の誰もリオに与えることがなかった彼の才能と努力に対する正当な評価、ハルトはそれを初めて与えたのである。
これまで憎悪の対象であった相手から自分の能力を認められたことに対してリオは複雑な感情が入り組んで感情が崩壊しそうになっていた。
「あのな。俺、お前にすっごいよく似たやつを知ってるんだ」
ハルトはリオに自身の身内の話を切り出した。彼女はかつて今のリオと同じような道を歩もうとしていた人物を知っていた。
「俺と……?」
「そう。そいつは生まれも育ちも俺なんかよりよくて、すっごい負けず嫌いで、俺に勝つためならどんな手でも使うし、努力も惜しまない奴だった」
ハルトがよく知るその人物とはループスのことであった。上流階級生まれの上流階級育ち、教育こそ厳しくされてきたが何もかもを持っていた少年だったループスが唯一超えることができなかった存在もまたアルバス・アイムだったのである。
ハルトには生い立ちこそ異なれど、リオの姿がかつてのループスと重なって見えていた。
「でも一つだけお前と違うところがあるとしたら、そいつは他のエリアルの関係者に八つ当たりはしなかったところだな。俺がいなくなってもまっすぐに、ただ俺だけを見てた」
ループスとリオの決定的な違い、それは執着心の行き先であった。ループスは周囲の取り巻きからの称賛を受けていたため執着心の矛先が歪むことはなかったものの、孤独であったリオはそれすらもなかったために執着心の矛先がハルトではなくその他のエリアルの関係者に向かってしまったのである。
「もし俺がお前の存在に気づいていれば、天才同士で友達になれたのかもしれないな」
今回の一件はハルトには一切の非もない。だがかつての自分がもう少し視野を広く持っていれば、リオの存在を認知できれいれば、天才故の孤独を抱えるもの同士で友人になれていた可能性はあった。その可能性を捨ててしまっていたことにハルトは多少の後悔を感じていた。
「アルバス……いや、ハルト。一つだけ頼みを聞いてくれないか」
「頼み?」
リオはハルトに心を許し、彼女に相談を持ち掛けた。
「反エリアル団の皆を大目に見てやってくれないか。奴らは成績不振、いじめ被害、素行不良、いろいろ訳ありでエリアルを去った元生徒たちだ。俺たちにとってはこの組織が唯一の居場所なんだ」
リオの頼み。それは反エリアル団を解体させずに存続させてほしいというものであった。エリアルの生徒という肩書を失った彼らにとっては反エリアル団だけが唯一の居場所であり、そこを奪われることだけは超えてはならない一線であった。
それを聞いたハルトは黙って神妙な面構えをして考え込んだ。
「それは俺だけじゃ判断できねえなぁ」
考えた末、自分一人の手に負えない内容であると判断したハルトは他の人物との協議に末路を委ねることにしたのであった。




